「土地の名も月の光も変わらないのに、僕のお相手だけが変わってしまった」突然ミステリーツアー決行! グズ男のまさかの速攻に仰天~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

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「一体どうなってるの?」異様な雰囲気に包まれる車内

行き先も知らされないまま牛車に乗りこまされた浮舟たちは、一体どこに連れて行かれるのか不安です。市中の別な家にでも行くのかと思いきや、付け替える牛の準備までしてあり、どうやら行き先は宇治らしい。

昨日からのショックに打ちのめされている浮舟を、薫は「ここからは大きな石が多くて揺れるから」と抱き上げ、自らシートベルト代わりを買って出ます。薫と浮舟、弁と侍従がそれぞれ隣同士に座り、真ん中には女性用の薄物の衣をカーテン代わりにかけてあるのですが、朝日が差し込みだした車内にその様子がまざまざと浮かび上がりました。

若い侍従は薫を見て以来、そのイケメンぶりにのぼせていたので(なんて素敵)。一方、弁は(本来なら大君さまがこんな風に……)と、こらえきれず泣いています。事情を知らない侍従は(お二人のめでたい門出だというのに、これだからお年寄りってやーね!)

薫自身も、浮舟を可愛いと思いつつも、あの人の形見と思えば思うほど、涙が溢れて止まらない。そんな薫の様子を見てまた弁ももらい泣きし、侍従はますます(一体どうなってるの?)。確かに、異様な雰囲気です。

鼻をすするほど泣く自分を妙に思うだろうと、薫は「長年、この道をたくさん行き来して、思わず感無量になってしまってね。あなたも少し窓の景色を御覧なさい。ずいぶん引っ込み思案だね」

浮舟は言われれるがままに、おっとりと窓を覗きます。その目元は大君にとても良く似ていますが、どうにもちょっと従順すぎと言うか、主体性がなさすぎというか……。

(大君は世間知らずで、時にムキになるようなところもあったけど、自分というものがある人だった。思慮深い女性だった)。宇治が近づくにつれ、薫の大君への想いは、空いっぱいに広がるようでした。

白い扇は不吉な暗示?二人の間の”埋められない溝”

宇治へ到着すると、空の上から大君の魂が自分を見ているかのような気がします。(愛しい大君、どこにいますか。あなたへの思いのために、僕はこんなことまでしています……)。大君も、薫がカルマを生み続けるのを残念に思ってるかも。

一方、浮舟は(こんなに急に連れてこられてどうしよう。またお母様にご心配をおかけして……)。それでも、薫が細々と優しく気を配るので、ひとまず安心して邸に入ります。

薫は妻と母に、言い訳を繕って今日明日は帰らない旨を手紙にしたため、部屋着に着替えました。リラックスした薫は一段と素敵ですが、浮舟はかえって気後れして恥ずかしい。でも身を隠すわけにもいかず、ただ所在なく座っています。

浮舟は母の用意した美しい衣装を身につけていましたが、どことなく田舎っぽさが拭えない。(大君はずいぶん着古したものを来ていたが、それでも身のこなしが洗練されていたなぁ。でも髪は豊かで立派だ。女二の宮さまの御髪にも劣らないだろう)。

薫はあれこれと浮舟の品定めをしますが、彼女の今後をどうしたものか。新婚早々、今すぐ自邸に引き取ると外聞が悪いし、かといって母の女房にするのもかわいそう。やはりしばらくはここに居させるしかないか……。弁は「なにか考えがあるのだろう」と思っていたようですが、実は無策。この男、ほんとに思慮深いのか?

とは言え、宇治にはなかなか来られない。しばらく一人ぼっちになる浮舟の気持ちをほぐそうと、薫は八の宮のことなどを話し、コミュニケーションを図ります。ときに冗談も交えますが、彼女はひたすらモジモジしてばかりで、会話が弾みません。まあ、いきなりよく知らない男につれてこられたんだから、しょうがない気もしますが……。

薫は少し残念になってきますが(いやいや、ヘンに下品なのよりはマシ)と自分を慰めつつ、すこし琴や箏を弾きます。八の宮や大君のかき鳴らす琴の音が絶えてしまってから、宇治で楽器を触るのは初めてです。

「宮の音色は、さり気なくもしみじみと心に沁みる、とても美しい音だった。あなたもここでお育ちになったのなら良かったのに。どうしてそんなに遠くにいたんだろう」

突然のディスりに、楽器の心得のない浮舟はうつむいて白い扇をいじっています。別に悪気はないのかも知れませんが、最初っから見下してる感がアリアリ。でもその透き通るように白い横顔は、やはり大君によく似ています。

(楽器とか、知らないことは少しずつ教えてあげればいいんだ)と薫は思い直し、今度は和琴を取り出しながら「これくらいは手にしたことがありますか。和歌でも“あはれ吾妻(あがつま・あづま)”などというでしょう」

和琴は日本特有の琴で、東琴とも呼ばれます。かつて九州にいた玉鬘も、少し和琴を習っていました。浮舟は「その吾妻(東)では和歌もよく聞いたことがありませんでしたのに、ましてお琴は……」。琴の名にかけたなかなか気の利いた返事で、恥ずかしがり屋だけどバカではなさそう。しかし薫の口からはまた意外な言葉が出てしまいます。

「楚王台上夜琴声……」これは白い扇にまつわる中国の故事をもとにした漢詩で、そもそも夏の扇のように入り用な時は重宝されるけれど、秋(=飽き)来たら用済みとなる事を恐れた後宮の女をうたったものなのです。

薫は(しまった。よりにもよってなんて詩を!)と思いますが、浮舟はもとより、侍従にも意味は通じていない様子。

教養のある女房であれば「そんな詩は縁起でもありませんわ」とか「白い扇を別なものに代えましょうか」とかツッコんでくれそうな所ですが、侍従は(なんかイケメンが教養のあることを仰ってる、素敵!!)位にしか思っていません。常陸介邸では弓比べは盛んでも、漢詩の会などは開かれなかったのでしょう。

こうしたさまざまな違いが、少しずつ薫の心を虚しくさせていた頃、弁の方から果物と、きれいな紅葉や蔦などを織り交ぜて届けてきました。敷いてある紙になにか書いてあります。

「やどり木は色変はりぬる秋なれど 昔おぼえて澄める月かな」住まわれる方は変わりましたが、昔を思い出させる月ですね。

大君と、浮舟。いかによく似ていても、やっぱりこの人は大君ではない…。「里の名も昔ながらに見し人の 面がわりせる閨の月影」。宇治(憂し)の名も月の光もかわらないが、私のお相手だけが変わってしまった。最初から埋められない溝を抱えた二人の関係はこうしてスタートします。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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