パリの暮らしとインテリア[3]スタイリスト家族と犬が暮らす、花やオブジェに囲まれたアパルトマン

パリの暮らしとインテリア[3]スタイリスト家族と犬が暮らす、花やオブジェに囲まれたアパルトマン

私はフランスのパリに暮らすフォトグラファーです。パリのお宅を撮影するたびに、スタイルを持った独自のインテリアにいつも驚かされています。

今回は数年前に花と一輪挿しに目覚めたスタイリスト&コーディネーターのまさえさんと旅や散歩で拾い集めたものをアレンジするのが得意なアートディレクターのドメさん家族のアパルトマンを訪問しました。連載【パリの暮らしとインテリア】

フランス・パリで暮らす写真家が、パリの素敵なお宅を撮影。インテリアの取り入れ方から日常の暮らしまで、現地の空気感そのままにお伝えします。

二人で見て回った物件は50軒! そのなかで条件が明確に

まさえさんとドメさんが子どもと犬と一緒に暮らすアパルトマンは、地図でいうと右岸の右上の19区にあります。サン・マルタン運河、サン・ドニ運河、ウルク運河、ラ・ヴィレット貯水池、と、水場の多いのが特徴です。パリ中心部にほど近い10区のアパルトマンから2009年に引越してきたときには、少し治安が心配なエリアでしたが、ここ数年運河の周りや公園が整備され、家族で安心して楽しめる週末の人気エリアに変わりました。ビュットショーモン公園は起伏があり池があったり塔があったり色々な顔があるのが魅力。「運河も公園も我が家の庭がわり、家のすぐ裏です。鳥たちの餌やりも夫と息子の仕事!(本人たちが思っている)」とまさえさん

ビュットショーモン公園は起伏があり池があったり塔があったり色々な顔があるのが魅力。「運河も公園も我が家の庭がわり、家のすぐ裏です。鳥たちの餌やりも夫と息子の仕事!(本人たちが思っている)」とまさえさん

ちょうど10年前、10区のアパルトマンから引越しを決意したきっかけはドメさんの病気でした。「階段の上り下りは体に負担がかかる。エレーベーター付きのアパルトマンを購入しようと思ったのです」(まさえさん)

そのころちょうどパリのアパルトマンが高騰し始めたばかり、中心部に近い人気の10区11区は無理でも19区20区あたりまで対象を広げれば希望のアパルトマンを買える価格だったそう。

今のお住まいを見つけるまで50軒以上の物件を見て回った二人。物件は良くてもアクセスが悪かったり、間取りは良くてもアパルトマンの天井が低かったり、となかなか希望どおりの物件は見つかりませんでした。

「50軒といっても、部屋を全て見たわけではありません。最寄りのメトロを出た途端に雰囲気がしっくりこなくてその場で見学をキャンセルすることもありました。メトロは私たちの足となる大切なものだから、その周りの街並みはとっても重要だと思います」(ドメさん)

物件を見て回っていて、図面や頭の中で想像しているものと実際は大きく違う、その都度自分たちがどんなアパルトマンを求めているか、条件がどんどん明確になっていくのが興味深い体験だったといいます。

そんなお二人の物件探しの条件は、パリ右岸、犬のナナの散歩が気持ちよくできる、子どもを授かったときのために公園が近い場所、エレーベーターがある、窓が大きく見晴らしが良い、できればバルコニーに小さなテーブルを置いて食事がしたい。というささやかなもの。その条件を満たしたのが今のアパルトマンだったのです。

バルコニーはもうひとつの大切な部屋、という考え方

天気の良い日は13歳のフレンチブルドッグのナナともお茶をバルコニーで。まさえさんはイギリスのTony Woodの黒猫ティーポットに一目惚れ、ドメさんからのプレゼントとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga) 天気の良い日は13歳のフレンチブルドッグのナナともお茶をバルコニーで。まさえさんはイギリスのTony Woodの黒猫ティーポットに一目惚れ、ドメさんからのプレゼントとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)アパルトマンのバルコニー側は大通りのため、向かいの建物と距離があり空が広く見える。この景色をまさえさんは「大きな絵画のよう」と話す(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アパルトマンのバルコニー側は大通りのため、向かいの建物と距離があり空が広く見える。この景色をまさえさんは「大きな絵画のよう」と話す(写真撮影/Manabu Matsunaga)

大きな窓が購入の決め手となったこのアパルトマンは1970年代にできたもの。床は毛足の長いオレンジの絨毯、壁はピンクのジャガードの生地が貼られていたそう。6カ月をかけてドメさんとまさえさんで改修工事をしました。古い絨毯、古い壁紙を剥がし、 62平米の間取りはサロン、キッチン、子ども部屋、寝室と細かく区切られていたため、大きな窓のあるバルコニー側にあたるサロンとキッチンの仕切りを取り払い、広々とした明るい空間をつくり上げました。お二人が外の部屋と呼ぶだけあって、素敵に飾られているドメさんコーナー。拾ってきたものをまずはここでストックします(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お二人が外の部屋と呼ぶだけあって、素敵に飾られているドメさんコーナー。拾ってきたものをまずはここでストックします(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「バルコニーは家の続きで、僕たちはもう一部屋が外にあるって思っています。ここで植物を育て、ここで食事をし、ここで景色を眺める、とても重要な場所なんです。そして、ここは僕が主導権を握る場所なんですよ」(ドメさん)

おふたりの生活をお聞きしていると、確かにバルコニーで過ごす時間が多い。ドメさんはヴァカンスで行った海岸で流木や貝殻、森では松ぼっくりや石ころ、パリの街では愛犬ナナの散歩のときに捨てられた枯れた植物、色々なものを拾い集めて飾っている。海岸近くで見つけた多肉植物は水の分量が難しく、世話もドメさん担当。それを楽しそうに見守るまさえさん(写真撮影/Manabu Matsunaga) 海岸近くで見つけた多肉植物は水の分量が難しく、世話もドメさん担当。それを楽しそうに見守るまさえさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)旅をしていても、パリでも、蚤の市散策はお二人の共通の趣味。マリア像はパリの蚤の市で購入し植物たちの陰にそっと。海岸で拾った穴あきの石は植木鉢にデコレーション。オリジナルなセンスのバルコニーはこうやってつくられていく(写真撮影/Manabu Matsunaga) 旅をしていても、パリでも、蚤の市散策はお二人の共通の趣味。マリア像はパリの蚤の市で購入し植物たちの陰にそっと。海岸で拾った穴あきの石は植木鉢にデコレーション。オリジナルなセンスのバルコニーはこうやってつくられていく(写真撮影/Manabu Matsunaga)「これが松ぼっくりの中にある種です。差し上げるので土に植えてみてください。私も発芽させましたよ、割ると松の実が入っているので食べても美味しいですよ」とお土産をいただきました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「これが松ぼっくりの中にある種です。差し上げるので土に植えてみてください。私も発芽させましたよ、割ると松の実が入っているので食べても美味しいですよ」とお土産をいただきました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

蚤の市で買い集めた額がシークレット・ガーデンの主役

お二人が出会ったころ、ドメさんは音楽系のアートディレクター、まさえさんはイラストレーターの仕事をしていました。もうすでにそれぞれの世界観が出来上がっていたため、インテリアの趣味が微妙に違っていたそうです。そこで、ベランダはドメさん、まさえさんはトイレを担当しました。「購入後の大工事が終わって、唯一私の趣味を表現していいと許可が出たのがトイレだったのです。夫と出会う前から蚤の市で少しずつ買い集めた額に入った花や鳥モチーフの刺繍は、いつか飾りたいと思って大切にとってありました。やっと出番がきました。テーマは<シークレット・ガーデン>です」とまさえさんは笑います。トイレの壁は<シークレット・ガーデン>の名にふさわしくナチュラルな木目に額の中の刺繍が映えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

トイレの壁は<シークレット・ガーデン>の名にふさわしくナチュラルな木目に額の中の刺繍が映えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そして、サロンや寝室はお二人の趣味がうまく調和していて、そこに長男ショーン君も加わります。ドメさんが探してきたものを今度はまさえさんが棚に飾ったり、ショーン君が拾った貝殻とまさえさんの集めている一輪挿しが一緒に置かれていたり、いろいろなコーナーを家族でつくり上げています。パリという都会に住みながら、アパルトマン全体が自然の中を旅しているような気分にさせてくれる空間になっているのです。田舎から持ち帰ってドライにした野草はブロカント市で見つけたGustave Reynaud作の一輪挿しに(写真撮影/Manabu Matsunaga) 田舎から持ち帰ってドライにした野草はブロカント市で見つけたGustave Reynaud作の一輪挿しに(写真撮影/Manabu Matsunaga)サロンの棚は家族の好きなものを飾り、ティーポットや小さな花瓶も花が生けられてなくてもしまわないで並べるのがお二人のルール(写真撮影/Manabu Matsunaga) サロンの棚は家族の好きなものを飾り、ティーポットや小さな花瓶も花が生けられてなくてもしまわないで並べるのがお二人のルール(写真撮影/Manabu Matsunaga)「買ったものがほとんどない窓辺!」(まさえさん)。 「デレク・ジャーマンみたいでしょ?」(ドメさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「買ったものがほとんどない窓辺!」(まさえさん)。 「デレク・ジャーマンみたいでしょ?」(ドメさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

花好きに拍車をかけ、一輪挿しに目覚めるきっかけになった出会いとは?

北向きの寝室の壁一面だけ自分たちで配合したペンキでブルーに。「花瓶を置いた途端に棚が喜んでいるように見えるでしょう」(まさえさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

北向きの寝室の壁一面だけ自分たちで配合したペンキでブルーに。「花瓶を置いた途端に棚が喜んでいるように見えるでしょう」(まさえさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お二人のアパルトマンは、シークレット・ガーデン(トイレ)、サロン、寝室、いたるところに花瓶が置かれていました。まさえさんはコーディネーターという職業柄、街をたくさん歩きます、5年前に通りかかった9区の<Debealieu>という花屋さんはフラワー・アーティストのピエールさんが開いたばかりのお店でした。「見たことのない花々や、当時珍しいドライフラワーが飾ってあって他のお店と明らかに違い、私は言うなれば一目惚れしてしまったのです。それ以来頻繁にお店に通ってピエールさんとよくお話しするようになりました。彼は花屋を始める前は別の仕事をしていたのですが、手を使った仕事がしたくて半年間のフラワー・アレンジメントの研修を受けてお店を構えたんです」

そんなある日、ピエールさんの一輪挿しを使ったディスプレーを見て、この世界観が好きだ!とその日から一輪挿しに花を飾るようになり、それと同時にブーケというものを買わなくなったという感銘ぶりでした。今では、まさえさんにとってピエールさんにしかできないアレンジや珍しい花、特別に見せてもらった一輪挿しのコレクション、彼との会話がエネルギー源になっているといいます。ピガールから坂を下ってピエールさんに会いに。店の近くには歴史的な建造物、有名な映画監督ジャン・ルノアールが住んでいた屋敷もある(写真撮影/Manabu Matsunaga) ピガールから坂を下ってピエールさんに会いに。店の近くには歴史的な建造物、有名な映画監督ジャン・ルノアールが住んでいた屋敷もある(写真撮影/Manabu Matsunaga)ピエールさんのお店<Debealieu>の一画(写真撮影/Manabu Matsunaga) ピエールさんのお店<Debealieu>の一画(写真撮影/Manabu Matsunaga)「まさえのために今日は特別に好きそうなものを出してきたからディスプレーしてみるよ。写真的にもいいか一緒に確認して」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga) 「まさえのために今日は特別に好きそうなものを出してきたからディスプレーしてみるよ。写真的にもいいか一緒に確認して」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)一輪挿しのコレクションを使ったまさえさんのためのコーナーをディスプレ―完成(写真撮影/Manabu Matsunaga) 一輪挿しのコレクションを使ったまさえさんのためのコーナーをディスプレ―完成(写真撮影/Manabu Matsunaga)和気あいあいと花や花瓶の魅力について語るお二人(写真撮影/Manabu Matsunaga)

和気あいあいと花や花瓶の魅力について語るお二人(写真撮影/Manabu Matsunaga)

週末になるとマルシェで花を買い、街を歩いて気になるフラワー・ショップを見つけると必ずチェックしてしまうというまさえさん。花瓶のコレクションも増え、日々の生活には花があふれています。ガラスの花瓶も好きで、1920-1960年代の薄いピンクのものがお気に入り。季節のダリアを黄色い球根用の瓶に(写真撮影/Manabu Matsunaga) ガラスの花瓶も好きで、1920-1960年代の薄いピンクのものがお気に入り。季節のダリアを黄色い球根用の瓶に(写真撮影/Manabu Matsunaga)陶器で有名な南仏のヴァロリス村のものは個性があって夢もある。顔付きの花瓶も活ける花によって表情が変わる(写真撮影/Manabu Matsunaga) 陶器で有名な南仏のヴァロリス村のものは個性があって夢もある。顔付きの花瓶も活ける花によって表情が変わる(写真撮影/Manabu Matsunaga)ピエールさんの影響でまさえさんも花瓶をコレクション。この春にノルマンディの小さい町の骨董市で見つけた花瓶はオブジェとして飾っても素敵ですが、花を活けると花瓶が生き生きとしてうれしそう(写真撮影/Manabu Matsunaga) ピエールさんの影響でまさえさんも花瓶をコレクション。この春にノルマンディの小さい町の骨董市で見つけた花瓶はオブジェとして飾っても素敵ですが、花を活けると花瓶が生き生きとしてうれしそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

もう一つのエネルギー源は春から夏にかけてノルマンディーにある田舎の家で週末を過ごすこと。

「主に草刈りや家の修復などに時間がかかってしまっていますが、近くには小川が流れていて可愛い野草が

生えているのです。パリに戻るときは散歩がてら摘みに行って、少しいただいて来ます。もちろんそれを花瓶と相談しながら活けるのが楽しみで、また新しい一週間を頑張れる気がします」

旅やパリで色々なものを集めるという作業は、全てに思い出があり、家族の記録になっていると考えるドメさん。自然には何かを気付かせる力があり、ものには必ずストーリーが伴う。

「花には花瓶が必要で、その二つのハーモニーが組み合わせによって変わる楽しがあります。家の空気まで変わるんです」(まさえさん)

そう、花を飾るだけではなく、家の全てを飾る、それは人生をも飾るということなのでしょう。そんな彼ら家族だけの大切な宝物が詰まったアパルトマンでした。

(文/松永麻衣子)
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