食パンのグリホサート残留調査(農民連食品分析センター)

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食パンのグリホサート残留調査(農民連食品分析センター)

今回は『農民連食品分析センター』からご寄稿いただきました。

食パンのグリホサート残留調査(農民連食品分析センター)

最近人気の食パン。その原材料の多くは輸入小麦です。第1報で小麦粉からグリホサートが検出されることがわかりました。ではその小麦を使って作られ、売られる市販の食パンの実態はどうなのか、調べてみました。

はじめに

 2019年3月10日に公開した「小麦製品のグリホサート残留調査1st」で、全粒粉、薄力粉、強力粉などの小麦粉からグリホサートが検出されることを報告してきました。

「小麦製品のグリホサート残留調査1st」2019年3月10日『農民連食品分析センター』
https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_flour_1st/index.html

 私たちの身の回りには、小麦粉を利用した製品が数多くあります。小麦粉で検出が認められるのであれば、製品でも検出される場合があると考えられます。そこで、その実態を探るために、市販の食パン製品を購入し、製品中にグリホサートの残留が認められるかを調査しました。その結果、国産小麦を使用している製品および有機栽培小麦を使用している製品以外のほぼ全てでグリホサートが検出されました。

 なお、小麦でグリホサートがなぜ検出されるのかなどの背景や詳細な情報については、前回の「小麦製品のグリホサート残留調査1st」を参考にしてください。

分析方法などについて

・検査試料は、2019年3月から4月にかけて、市販の製品を購入しました。

・試料は、食パン13製品で、国産小麦を使用していることが記載されているものが3製品、JAS有機栽培小麦を使用しているものが1製品、特に産地の記載がないものが9製品となっています。また、全粒粉を使用している製品が4製品(いずれも産地の記載はなし)でした。
・今後の調査の参考試料として、菓子パン2製品も検査を行いました。この商品に、小麦粉産地についての記載はありませんでした。

・グリホサートの残留検査は、高速液体クロマトグラフ質量分析計を利用した弊センター開発のグリホサート試験法で実施しました。検査対象成分は、グリホサートおよびその代謝物AMPAとなっています。本試験によるグリホサートの定量下限値は0.01ppm、AMPAは0.05ppmとしました。試験系はガラスフリー、極力メタルフリーで行っています。

LC/MS/MS法の条件について
高速液体クロマトグラフ質量分析計:島津製作所製LCMS -8050
分析カラム:InertSustain C18(metal free column) 3um, 2.1x150mm
データ処理:島津製作所製LCMS Solution / Insight
定性・定量:MRM法

結果

 表1に示すように、食パン9製品、菓子パン2製品からグリホサートを検出しました。また1製品からAMPAを検出しました。

 なお、「痕跡」は、定量下限値以下、検出限界以上で検出があったことを示します。わかりやすく説明をしますと、本分析法で、残留は確認できるけれども、濃度が決められるほどの濃度ではなかったという意味です。食品衛生法上は、不検出と同等と扱われます。ここでは、参考として痕跡扱いの試料についても掲載しています。

分析結果1 分析結果2 分析結果3

表2 小麦製品のグリホサート残留状況調査結果 1st

No./サンプル名/分類/小麦の原産地/製造者・販売者/グリホサート分析結果(ppm)/AMPA分析結果(ppm)

1:麦のめぐみ
全粒粉入り食パン
消費期限:2019.3.5/食パン/記載なし/
敷島製パン株式会社(Pasco)
https://www.pasconet.co.jp/
/0.15/検出せず

2:ダブルソフト全粒粉
消費期限:2019.3.6/食パン/記載なし/
山崎製パン株式会社
https://www.yamazakipan.co.jp/index.html
/0.18/検出せず

3/全粒粉ドーム食パン
消費期限:-/食パン/記載なし/
パンリゾッタ東武池袋店(山崎製パン系列店)
https://www.yamazakipan.co.jp/shops/saint_etoile/shops/main.html
/0.17/検出せず

4:健康志向全粒粉食パン
消費期限:-/食パン/記載なし/
株式会社マルジュー
http://www.maruju.com/
/0.23/検出せず

5:ヤマザキダブルソフト
消費期限:2019.3.28/食パン/記載なし/
山崎製パン株式会社
/0.1/検出せず

6:ヤマザキ超芳醇
消費期限:2019.3.30/食パン/記載なし/
山崎製パン株式会社
/0.07/検出せず

7:Pasco超熟
消費期限:2019.3.30/食パン/記載なし/
敷島製パン株式会社(Pasco)
/0.07/検出せず

8:Pasco超熟 国産小麦
消費期限:2019.3.28/食パン/国産/
敷島製パン株式会社(Pasco)
/検出せず/検出せず

9:本仕込み
消費期限:2019.4/1 /DZ/食パン/不明/
フジパン株式会社
https://www.fujipan.co.jp/
/0.07/検出せず

10:朝からさっくり食パン
消費期限:2019.3.29/食パン/不明/
株式会社神戸屋
/0.08/痕跡

11:パン 国産小麦
消費期限:-/食パン/国産/
まるまぱん
/検出せず/検出せず

12/有機食パン
消費期限:2019.4.10/食パン/記載なし/
有限会社ザクセンW(東都生協取り扱い)
/検出せず/検出せず

13/十勝小麦の食パン
消費期限:2019.4.10/食パン/国産(北海道/十勝)/
有限会社ザクセンW(東都生協取り扱い)
/検出せず/検出せず

14/アンパンマンのミニスナック
消費期限:2019.4.1/KD/菓子パン/記載なし/
フジパン株式会社
/0.05/検出せず

15/アンパンマンのミニスナックバナナ
消費期限:2019.4.2KQ/菓子パン/記載なし/
フジパン株式会社
/痕跡/検出せず

※裏面表示画像は元記事にて
「食パンのグリホサート残留調査」2019年4月12日『農民連食品分析センター』
https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_bread_1st/index.html

考察と補足

・グリホサートは、検査を実施した15製品中、11製品から検出されました(定量下限値以上が10製品、定量下限以下、検出限界以上が1製品)。グリホサート代謝物AMPAは、1製品で痕跡の結果となりました。

・全粒粉を使用している4製品で、グリホサートの数値が高い傾向が見られます。これは、前回の小麦粉製品の調査でも示されているように、プレハーベスト処理の影響を大きく受ける外皮側に近い部分を含む全粒粉を使用すると、完成製品中の残留値が高くなることを示していると考えられます。

・国産小麦を使用している製品すべてで、グリホサートは検出されませんでした。これは、国内では、グリホサートによるプレハーベスト処理が行われていないためと考えられます。グリホサートの摂取が気になる場合は、現状なら、国産小麦を選択することで対応ができると言えるでしょう。

・12番は、JAS有機認証を取得した小麦粉で製造された食パンです。小麦粉の産地については記載がありませんでしたので、国内産小麦か、JAS有機を取得した輸入小麦を使用したかについては、確認ができていません。

・大手メーカーの製品からの検出が目立つように見えますが、大手メーカーがグリホサートの残留する小麦をあえて選んで生産していると言うことではなく、輸入小麦で製品を作るかぎり、大手でも個人経営店でも傾向は変わらないと考えられます。

・日本の食品衛生法のグリホサートの残留基準値*1 には、パンに基準は設けられていません。このため、まず一律基準の0.01ppmを当てはめて検出値を考えることになります。この場合、いくつかの検体では、超過に相当することになりますが、実際には、それぞれの製品の加工係数を考慮し、原材料の小麦に戻した場合、小麦の基準値を超過するかどうかで判断を行います。小麦から小麦粉、パンへの加工係数は、小さいと考えられるうえ、小麦の基準値自体が30ppmという、大幅緩和(平成29年厚生労働省告示第361号/2018年12月25日公布*2 )によって、大きな数字が設定されているため、加工係数を大きめに考慮したとしても、今回の結果からは、基準値を超過する小麦を使用して製造された製品があった可能性は低いと考えられます。よって、検出が認められた試料は、いずれも食品衛生法上の判断では、問題はなく安全であると評価される仕組みにあります。

*1:「残留農薬基準値検索システム」『公益財団法人 日本食品化学研究振興財団』
http://db.ffcr.or.jp/front/

*2:「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」『厚生労働省』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/1225-2.pdf

・参考までに、玄米のグリホサートの残留基準値は、0.01ppmとなっています。この基準値と今回の結果を比較すると、小麦と玄米の基準値の差に不安を感じてしまうかもしれません。なお、残留基準値は、食品衛生法上で、流通および食べられるかどうかの適正性を判断する基準ではありますが、その設定の仕組みとしては、生産現場での効果のある使用を満たせるかを、基準にして、ADIや摂食量、などを加味して策定されていくものです。小麦では、30ppmという基準値が設定されていますが、このぐらいの残留を見越した使用が、生産には必要であるという現場から求められた結果の数字であるとも言えます。おそらく、プレハーベスト処理を行いたいという生産現場からのニーズが、反映されたうえで設定されている数字なのではないでしょうか。一方、玄米では、0.01ppmという小麦に比べ小さい数字が設定されているのは、米の生産において、それほどの残留を見越したグリホサートは必要ないことを示しているとも言えます。

・日本の、小麦の自給率は14%ほどで、その多くをアメリカ、カナダに依存しており、私たちの身の回りにある小麦製品の多くは、そうした国で生産した小麦によってまかなわれていることになります。米よりパンへの支出が増えている世帯があることが報告されており、このような世帯では、グリホサートを経口摂取する機会と量が増えると考えられます。
裁判で発がんに影響したと判決がだされたケースでは、散布による高濃度なグリホサート暴露による影響が基点になっています。この人体影響についての判断と、今回の検査結果とを合わせて見ることは難しい条件があると考えられますが、そうであったとしても、パンで検出されたような小さい濃度のものを、恒常的に食品として摂取したときの人体への影響については、今後、より研究とメーカーなどから情報提供が進められることを期待したいです。

・今後、菓子パン、市販のビール製品、学校給食パンの調査などを進めていく計画です。調査には、調査研究資金とサンプル収集に支援が必要です。みなさんからの研究募金などの支援をお願いいたします。

修正履歴

2019/04/15  一部、製品重量についてのメモが書きが残ったままになっていた部分を修正しました。

2019/09/07 関連リンクのリンク先ミスがありましたので修正をしました。また、NHKニュースの小麦関連製品値上げに関するニュース記事が、リンク切れしたため、日本経済新聞の同様の記事を関連リンクとして加えました。

関連リンク

一社)農民連食品分析センター:小麦製品のグリホサート残留調査1st
https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_flour_1st/index.html

厚生労働省:農薬評価グリホサート(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000168500.pdf

モンサント社:グリホサートの有益性と安全性(PDF)
https://www.monsantoglobal.com/global/jp/SiteCollectionDocuments/glyphosate-safety-health-jpn.pdf

モンサント社:グリホサートを含有する除草剤には40年にわたって安全に使用されてきた歴史があります
http://www.monsantoglobal.com/global/jp/products/documents/Gly_Briefing%20Document_HW.pdf

農林水産省「米麦の残留農薬などの分析結果:輸入米麦の残留農薬等の分析結果」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_beibaku/

日産化学株式会社:作物別の効果的な防除~大豆収穫前~|除草剤ならラウンドアップマックスロード
https://www.roundupjp.com/products/maxload/agriculture/daizusyu/

飼料中の有害物質の基準値 – 独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
http://www.famic.go.jp/ffis/feed/r_safety/r_feeds_safetyj22.html

UNIVERSITY of WASHINGTON:NEWS RELEASES:UW study: Exposure to chemical in Roundup increases risk for cancer
https://www.roundupjp.com/products/maxload/agriculture/daizusyu/

Mutation Research/Reviews in Mutation Research:Exposure to Glyphosate-Based Herbicides and Risk for Non-Hodgkin Lymphoma: A Meta-Analysis and Supporting Evidencehttps://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1383574218300887?fbclid=IwAR3znTkQUAZYAdkd-Nv-fK2ymFBWqTHmPnpfcH1yzT6-wOEvxc5IShoKwJY

Charles M. Benbrook, “Trends in glyphosate herbicide use in the United States and globally”, Environmental Sciences Europe (2016, 28:28) DOI: 10.1186/s12302-016-0070-0.

Moechnig M, Deneke D (2009) “Harvest aid weed control in small grain. South Dakota State Univ”
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5044953/

有機農業ニュースクリップ:グリホサート関連年表
http://organic-newsclip.info/nouyaku/glyphosate-table.html

印鑰 智哉のブログ:今後のグリホサートの年齢別作物別被ばく推定量
http://blog.rederio.jp/archives/3000

livedoor NEWS:女性自身:大手3社の小麦粉メーカー、「発がん性」除草剤成分検出に返答
http://news.livedoor.com/article/detail/15891641/

日産化学株式会社:女性自身:女性自身 1 月 29 日号の企業名スクープ公開! 『大手 3 社の小麦粉から「発がん性」除草剤成分が検出された!』の記事について(PDF)
https://www.roundupjp.com/information/pdf/info201901_1.pdf

日産化学株式会社:週刊誌の記事について
https://www.nissanchem.co.jp/news_release/news/n2019_01_31.pdf

NHKニュース:パンなどの業務用小麦粉 7月から値下げへ TPP発効で(リンク切れ)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190410/k10011878641000.html

日本経済新聞:日清製粉、業務用小麦粉値下げ 約2年半ぶり(2019.4.9)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43469490Y9A400C1XQH000/

募金と調査協力のお願い

 今後、市販の小麦製品のほか、学校給食パンの調査などを進めていく計画です。調査には、調査資金とサンプル収集に支援が必要です。みなさんからの研究募金などの支援をお願いいたします

 1996年の設立以来、私たちの調査活動は、募金で運営されています。消費者や農民の立場に立った活動を続けていくためにも、みなさんからの支援が欠かせません。

分析装置導入募金のページへ
https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/donation/index.html

 どうぞよろしくお願いいたします。

尿や母乳、髪の毛などのグリホサート残留検査について

 尿や母乳、髪の毛などにグリホサートが含まれているかについて検査を希望される問い合わせが増えてきています。ご希望に対応できるよう、まず、髪の毛の検査について、急ピッチで検査態勢の整備を進めています。

 髪の毛を粉砕できる粉砕装置が高価なため、私どもの研究予算では購入できず、緊急でボールミルを手作りし、2019年2月1日現在、どうにか髪の毛のグリホサートの検査に対応できるようになりました。いまのところ、精度テストなどを含めた、テスト試験を重ねている段階で、一般の方からの検査は、特別な場合を除き、お引き受けはしていませんが、5月末までには、Detox Project Japanさんなどを窓口に、広く受け入れ対応できるように準備を整えています。

 検査受付開始まで、今しばらくお待ちください。なお、立ち上げにあたって、皆様からの募金をお願いしています。お力をお貸し下さい。

より詳しく情報を知りたいときは

 まず以下までお電話をください。

農民連食品分析センター
TEL:03-5926-5131
FAX:03-3959-5660
Email [email protected]

一般社団法人 農民連食品分析センター
〒173-0025 東京都板橋区熊野町47ー11
電話 03-5926-5131 FAX 03-3959-5660

 
執筆: この記事は『農民連食品分析センター』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年9月7日時点のものです。

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