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「自立」とは、社会の中に「依存」先を増やすこと ――逆説から生まれた「当事者研究」が導くダイバーシティーの未来(Mugendai(無限大))

――障がい者が社会で活躍できる場はもっとあると思います。企業は障がい者の法定雇用率を維持しようとその数字に目が行っている一方、障がい者側にも活躍の機会を自ら躊躇してしまうケースもあるのではないでしょうか。

熊谷 社会モデルの応用問題として、ここでぜひ考えていただきたいのは、組織文化です。
私は、医療の仕事に携わってきました。研修医時代には、まず採血を担当します。小児科ですので、クライアントはお子さんです。親御さんの気持ちになってみると、まだ何も技術がない研修医に採血をまかせるのは心配です。研修医というだけでナーバスになるのに、おまけに手が不自由という障害が加わると、より一層不安になりますね。私もそれは分かります。ものすごいプレッシャーです。医療の最前線で仕事をするのは無理なのではと落ち込むこともありました。
そんな中、郊外の大変患者数の多い病院に異動になりました。皆、助け合わないと仕事がこなせない。熊谷の手でも借りたいという忙しさでした。(笑)
初日から、外来で採血を担当しなければならない。最初はためらっていましたが、上司が耳元で「何かあれば責任は俺が取る」とささやいてくれ、思い切ってぶつかることができました。

経験を積むと腕は上がっていきます。やがて当直を任されるようになりました。知識はありました。手足となって処置をしてくれるスタッフはたくさんいます。当直医は司令塔として、判断をするのです。この症状の時にどうするか、鑑別診断を挙げ判断をし、指示をする。
忙しさのピークが去って、スタッフ全員がやっとほっと一息ついていた時、一人が言いました。
「そういえば先生、立ち上がって指示していましたね」と。私は車椅子を利用しているので立てないのですけど、思わず立ち上がったという都市伝説も生まれました(笑)。

組織のミッションと障がい者雇用とは両立しなければなりません。病院という組織であれば、医療事故のような失敗を減らし、病気を治す。そのミッションを犠牲にすることもできません。
高信頼性組織(High Reliability Organization)研究というものがあります。航空機産業、病院、原子力発電所など失敗が絶対に許されない組織で、いかにして失敗をゼロに近づけるかを研究するものです。
この研究の成果は、驚くべきことに、「失敗を許容する文化」が肝だということです。大きな逆説です。なぜかというと、失敗が罰せられる環境では、人々は失敗を隠すからです。しかし、失敗こそ組織にとっては学習の源。それを隠されては、組織は成長の機会を失います。もちろん、失敗が許容されるのだと開き直って、無責任にふるまうという意味ではありません。重要なのは、失敗を隠さず、失敗した当事者だけでなく、組織全体で、その失敗のメカニズムを研究することです。一人の責任にはしない。それこそが失敗を減らすことにつながります。こういう組織文化は、組織の学習の観点だけでなく、障がい者を包摂する組織の条件の観点でも非常に重要です。

私がまさにそうであったように、障害を持って仕事をするということには、やはり同僚よりも失敗はついてきます。環境や規則など、いろいろなものが健常者向けであるため、その中で自分なりの働き方を試行錯誤する「実験的領域」が職場の中に担保されていなくてはなりません。新人は誰でも失敗しますが、障がい者は、その期間がちょっと長めなのです。それをどうとらえるかが組織の文化。障害を持った人を招き入れることが、組織全体のパフォーマンスと矛盾しない。それがダイバーシティーです。アイデアも増えるし、多様性があった方がいい。
組織は、従業員の失敗を詰問するのではなく、失敗を組織の宝として分析し、学習につなげる。それは、障がい者も失敗を恐れず多くのことにチャレンジする前提条件になります。失敗を罰しないで学習し続ける組織は、組織と従業員双方の成長につながると思います。

TEXT:栗原 進

熊谷晋一郎 くまがや・しんいちろう
東京大学先端科学 技術研究センター 当事者研究分野 准教授、小児科医。
1977年、山口県生まれ。新生児仮死の後遺症で、脳性マヒに。以後車椅子生活となる。東京大学医学部医学科卒業後、千葉西病院小児科、埼玉医科大学小児心臓科での勤務、東京大学大学院医学系研究科博士課程での研究生活を経て、現職。専門は小児科学、当事者研究。日本発達神経科学学会理事。
主な著作に、『リハビリの夜』(医学書院、2009年)、『発達障害当事者研究』共著、医学書院、2008年)、『つながりの作法』(共著、NHK出版、2010年)、『痛みの哲学』(共著、青土社、2013年)など。

 
執筆: この記事は『Mugendai(無限大)』より栗原 進さんの記事からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年9月05日時点のものです。

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