無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」をつくる
2019年7月17日、吉祥寺の東急百貨店の裏手に、「本」をテーマにした、新しいスポットが誕生しました。その名は「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」。
なかでも、地下1階のフロアを使い、個人の小さな本屋さんをシェアする「ブックマンション」が注目です。
このビルの仕掛け人であり、三鷹にある無人の古本屋さん『BOOK ROAD』のオーナーでもある、中西功さんに、両方の本屋さんを手掛けたきっかけ、目指す方向性について、お話を伺いました。
無人古本屋さんが成り立つ理由
――「ブックマンション」のお話の前に、まずは無人古本屋さん『BOOK ROAD』のお店を始めた経緯を伺いたいです。
本が好きすぎて、どんどん収集しているうちに、家が本であふれてしまい、妻から「なんとかして」と言われていたんです。売るのもいいけど、二束三文の値しかつかないし、捨てるのはもっと嫌。だったら、自分で直接売れる、古本屋さんなんていいじゃないか、ってずっと思っていて、そんなとき、今の店舗と出会いました。
駅から少し遠い、小さな商店街沿い。それなりに人通りがあって、お店の規模も、家賃的にも現実的だなぁと。当時、私は会社員として働いていたので、日中は店舗に立てないし、だれかに任せるのもちょっと違うなぁと思って、だったら無人でやるしかないという結論になりました。商店街の一角にある、無人古本屋さん「BOOK ROAD」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――でも、無人って、成り立つんでしょうか?万引きされるんじゃないかって心配です。
私の地元の小平には、農家さんの無人野菜販売所がたくさんあって、ちゃんと成立しているから、なんとかなるんじゃないかなぁと(笑)。周囲には驚かれましたけどね。でも、素人の私が、普通の本屋さんを始めても面白くないでしょう。
で、オープンしてみたら、みんなが心配していた盗難もなく、意外と大丈夫だったんです。住宅街の中にある、地元の小さな商店街沿いという場所も良かったんでしょうね。人通りが多すぎず、少なすぎず、悪いことがしづらいんでしょう。儲かりはしないですけど、少なくとも赤字じゃないです。 買いたい本が見つかったら、ガチャガチャで会計する。カプセルの中には持ち帰り用のビニール袋が入っているので、その中に購入した本を入れる仕組み。購入した証明にもなる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)ガチャガチャは300円と500円の2種類。ガチャガチャを回す行為そのものも楽しい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――この「BOOK ROAD」は24時間営業なんですよね。どうしてですか?
当初は朝シャッターを開けて、夜閉めていたのです。2013年の年末に妻の実家への帰省のタイミングで思い切って開けっ放しにしてみたんです。妻の実家から戻ってお店に行ってみると、店内は全く問題なく綺麗な状態で、逆に多くのお客さんが購入してくれていました。これだったら大丈夫!ということで24時間営業にしました。実は、ゴールデンウィークや年末年始など長期のお休みって、売り上げがいいんですよ。
――商品の仕入れはどうしているんでしょうか?
当初はほぼ私の蔵書からでしたが、今は2割くらいです。あとは、お客さんが、自分の蔵書を寄贈してくださるんです。何も言わずに段ボールを何箱も置いてくださった方もいれば、木箱の中にメモと一緒に入れてくださる方もいます。ついでに庭で採れた野菜もお裾分けしてくれたり。このお店は、お客さんの「善意」で成り立っています。この日も木箱の中に本が数冊入っていた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――商品のセレクトは?
漫画以外の、さまざまなジャンルの本を扱っています。例えば、美大の学生さんが、デザインや建築系の書籍を置いて行ってくれたり、開高健さんが好きな方が何冊も寄贈してくれています。近くに保育園や公園があるので、絵本を置いてくださっているママさんもいるみたいです。商品の展示はアトランダム。理路整然と並んでいないことで、「何があるだろう」と宝探しの気分になる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――あ、いいですね。自分の子どもが卒業した絵本を、小さな子どもたちが読んでくれるなんて、ほっこりした気持ちになります。
私は、お客さんが本棚をつくると思っていて、目指しているのは、「街の本棚」。この「街の本棚」を通してコミュニケーションの場となってくれたらと思っているんです。「雨の日には雨宿りついでに立ち寄る人もいますよ。店主がいないことで、自由に立ち読みをしたり、気に入った本を探せるんだと思います」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
本棚をシェアする本屋さん「ブックマンション」
「本を通したコミュニティ」を目指す中西さんが新たに取り組んでいるのが、吉祥寺の小さなビル1棟を、丸々借りた「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」。地下1階から3階までの4つのフロアを持つことがビル名の由来です。通行人が目に留める看板(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――まずは、地下1階の「ブックマンション」について教えてください。
ざっくりいうと、小さな本屋さんの集合体。「レンタルボックス」って分かりますか?自分の収集したおもちゃやハンドメイドした物などを売っているボックスです。その本屋さんと思っていただければイメージが近いでしょうか。本箱は自分の好きな本だけを販売するので、通常の本屋さんにはないラインナップになると思います。地下1階の「ブックマンション」。「マンションなので、部屋番号が必要だなと思い、オリジナルでつくってもらいました」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
さらに棚をシェアするだけでなく、「ひとり2カ月に1回程度、実際に店舗に立つ」など、日々の運営も分担する予定です。というか、みなさん、売り場に立ちたいそうなんですよ。自分の好きなものに興味を覚えてくれる人と話がしたいって思っていらっしゃるんです。本を通したコミュニケーションですね。「文化の街、吉祥寺はもともと古本屋さんが多く、こうした変わった試みも受け入れやすい土壌があると思いました」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――確かに。リアルに話すのって楽しそうですね。最近はネットで本や雑誌を注文する人も多いですが、ここでなら思わぬ本との出会い、“新しい世界との遭遇”がありそうです。
そうなんです。そのうち、それぞれの本棚に、ファンが付いたらいいなと思っています。「本屋を始めてみたい」って考える人って本好きには多いけれど、やっぱりハードルが高いでしょう。でもココでなら、開店や運営のリスクを抱え込まずに、気軽に始められます。とにかく本好きっていう人だけでなく、自分の好きなことだけを追求できるオリジナルな本棚ができるはず。楽しいでしょう。店内にあるわたがしの機械。本を買ったお客さんに、自由にわたがしをつくってもらいたいという中西さんのおもてなし(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――地下1階はブックマンションですが、1階以上は通常の本屋さんですか?
いいえ、違います。1階はコーヒースタンドで、喫茶店のような造りの2階と、何も置かない3階はイベントスペースにして、講演やワークショップとして使う予定です。例えば、終電が終わった後の真夜中の読書会だったり、地下1階の本棚の店主さんが書籍と連動した料理教室などを開くなど、何でもありです。みなさんの要望を聞きながら、どんな形がいいか模索していこうかなと思っています。
店舗改修も「みんなで」。目指すはスモールコミュニティ
この「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」。「お金がないので自分たちで改修していくしかない」と考えていた中西さんに、救いの手を差し伸べたのが、セルフビルドによるリノベーションに長年取り組んでいる、株式会社小さな都市計画の宮口明子さんと笠置秀紀さん。彼らの指導の下、壁の塗装や床張りなどの作業を自分たちでやりました。株式会社小さな都市計画のお二人(写真提供/中西功)
――どういう方たちがお手伝いにいらっしゃっているのでしょうか?
私の友人や元同僚たち、SNSを通じた呼びかけに“おもしろそう”と応じた方たちも多いです。面識のない人たちと同じ作業をしながら、おしゃべりしながら、楽しそうですよ。私は主に差し入れ担当です(笑)。
宮口さん指導の元、この日は3階の壁を黒く塗装(写真提供/中西功)
――お店がオープンする前から、仲間ができている感じですね。
そうなんです。お客様とスタッフの境目があいまいな場所にしたいなと思っています。例えばブックマンションのお客様が、ここでなら自分のお店の本棚を持ってみたい思うとか。人通りの多い吉祥寺の街にオープンするので、ふらっと立ち寄ってくださる方もウェルカムなのですが、もう少し踏み込んで、この場所に主体的に関わってくれる方を増やし、街に“小さなコミュニティ”をつくりたいと思っています。「手伝ってくださった方たちは、ありがたいことにみんな本当に楽しそうでした」(写真提供/中西功)
――1階のコーヒースタンドは、会計方法が独特なんですよね。
これは、コーヒー代金をトレイに入れ、レバーを引くと、からくりの装置が動いて、「THANK YOU」と表示されるもの。その名も「からくり決済」。制作いただいたのは、私が以前から惚れこんでいた鈴木完吾さん。アート作品「書き時計」で有名な方です。その間、30秒。見ているだけでワクワクするでしょう。時代は電子マネーなど、キャッシュレスの時代ですが、実店舗だからこその体験をしてもらいたいと考えています。細やかなパーツが美しい「からくり決済」。制作は鈴木さんにおまかせではなく、中西さんのこだわりも随所に反映されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
今は、ネットでなんでも気軽に手に入る時代。無人古本屋さんでも、ブックマンションでも、実店舗でできることを模索し続ける中西さん。本屋さんという「場」を通して、人と人がつながり、コミュニティが生まれていく。
今後も「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」の仕掛けに注目していきたい。個性豊かな本棚が並ぶ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
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