ガジェット通信 GetNews

見たことのないものを見に行こう

体験を伝える―『ガジェット通信』の考え方

面白いものを探しにいこう 本物を体験し体感しよう 会いたい人に会いに行こう 見たことのないものを見に行こう そしてそれをやわらかくみんなに伝えよう [→ガジェ通についてもっと詳しく] [→ガジェット通信フロアについて]
ガジェ通制作ライブ

『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清が異界=ウズベキスタンで前田敦子のありのままを写した映画

『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清が異界=ウズベキスタンで前田敦子のありのままを写した映画

鬼才黒沢清が個性派女優として邁進中の前田敦子をウズベキスタンを舞台に活写した独自の観光映画『旅のおわり世界のはじまり』が絶賛公開中だ。
前田敦子のありのままを写したアイドル映画的側面もありつつ、黒沢清印の不穏な世界観もバリバリに盛り込まれた唯一無二のロードムービーだ。

旅のおわり世界のはじまり

旅のおわり世界のはじまり

2019年6月14日より全国にて公開
2019年/日本=ウズベキスタン/120分
more

あらすじ
テレビのバラエティ番組のリポーターを務める葉子(前田敦子)は、巨大な湖に棲む“幻の怪魚”を探すため、番組クルーと共にウズベキスタンを訪れる。彼女の夢は、歌うこと。その情熱を胸に秘め、葉子は目の前の仕事をこなしていく。ベテランカメラマン岩尾(加瀬亮)は淡々と仕事を進めるが、お目当ての獲物は網にかかってくれず、ディレクターの吉岡(染谷将太)の苛立ちは募るばかり。ときに板挟みになりながらも、吉岡の要求を丁寧に通訳するコーディネーターのテムル(アディズ・ラジャボフ)。その間を気のいいADの佐々木(柄本時生)が忙しく走り回っている。収録後、葉子は夕食を求め、バザールへと出かける。言葉が通じないなか、地図を片手に一人バスに乗り込む葉子。見知らぬ街をさまよい歩き、迷い込んだ旧市街の路地裏で葉子は家の裏庭につながれた一匹のヤギと出会う。柵に囲われたヤギの姿に、彼女は不思議な感情を抱くのだった。相変わらずハードな撮影が続き、首都タシケントでの撮影終わり、恋人に絵葉書を出すため一人で郵便局へと出かける葉子。広い車道を渡り、ガードレールを乗り越え、薄暗い地下道を通り抜け、やがて、微かに聞こえてきた歌声に誘われ、壮麗な建物に足を踏み入れる。そこには細かな装飾を施された部屋がいくつも連なっていた。まるで白日夢のようにそれらを巡る葉子が最後の部屋の扉を開けると、目の前には大きな劇場が広がっていた……。
出典元:https://eiga-board.com/movies/90305

今年は日本とウズベキスタンの国交樹立25年の記念すべき年であり、この映画は本来それを祝う企画ありきの合作映画となるはずだった。
しかしその監督を引き受けたのがあの黒沢清で、主演女優を彼が今最も惚れ込んでいる前田敦子になった段階で本作は極めて個人的、作家的な映画となった。

筆者の個人的意見としての前田敦子の現在を語っておこう。彼女はかつてAKBのセンターだった時、絶大な人気を誇りつつ、アンチもたくさんいた。身も蓋もないことを言えば彼女は国民的なアイドルグループの一番人気の女の子としてみると、それに見合ったストレートな美人ではなかったと思う。
しかし2012年にグループを卒業して女優業を本格的に始めたときから、彼女は新たな魅力をどんどん発揮していった。
どこにでもいそうな女子に見えつつ時折はっとするような美しさや儚げな表情を見せたり、その独特な声を活かした不思議なキャラもハマった。彼女は他の若手女優とはかぶらない魅力がある。彼女の資質が真に生きる道は個性派女優にあると思う。

そして黒沢清はかつて前田敦子と会った時にスクリーンでは強烈な存在感を放つ彼女が、街中で完全に一般人に紛れていたのを見て彼女を面白いと思い、中長編『Seventh Code』(2013)の主演に起用。

そして今回ウズベキスタンという未知の土地の企画でついに黒沢清長編映画の主演を前田が務めることになった。

Seventh Code:セブンスコード

Seventh Code:セブンスコード

2014年1月11日より全国にて公開
2013年/日本/60分
more

あらすじ
秋子(前田敦子)はある男を追い求め、ウラジオストクまでやって来る。再会した松永(鈴木亮平)は、秋子を覚えていなかったが、外国は絶対に人を信じてはいけないと言い残し、姿を消す。秋子は日本人の斉藤(山本浩司)が営む食堂で働きながら、松永を探し続ける。ある日、マフィアたちの出入りがあるこの街の廃工場に松永と思しき人物が出入りしていると、斉藤から情報が入る。斉藤からこれ以上松永に近寄らない方がいいと忠告されるが、秋子は松永が出入りしている廃工場へ向かう……。
出典元:https://eiga-board.com/movies/73176

『君(前田敦子)を獲るのは面白い』

「君を撮るのは面白いよ」。
このセリフは前田演じるリポーター・葉子のロケに同行するカメラマン岩尾(加瀬亮)の言葉だ。
しかしこれは黒沢清本人の偽らざる本音だろう。

黒沢はとにかく前田敦子という素材をどう生かすかを中心に考えてこの映画を撮っている。
本来だったら夢に迷う女性がウズベキスタンで人々の優しさに触れ、自分の進むべき道を決めるという爽やかな内容になるはずだった本作。
国交樹立を祝う映画なのだからそういった内容になってしかるべしだが、この映画はプロットは確かに上記の内容に沿っているにもかかわらず、主人公が感じる不安感や迷いの方を大きく強調し、それを黒沢清的な不穏な演出の連続で描いている。
言ってしまえば、この映画は前田敦子という素材そのものを黒沢清的な異界=ウズベキスタンに放り込んだ不穏さに満ちたロードムービーとなっている。
このコンビでなければ撮れない映画だったのではないか。
異国の地で風に揺れるカーテン、昼でも異常に暗い画面、そして一切字幕で言葉が訳されないウズベキスタンの現地人たちとのディスコミュニケーションの怖さなど、まさしく黒沢映画としか言いようがない。

彼女が時折一人で迷い込む外国の地は、知らない土地であるがゆえに昼間でも恐ろしく見え、そしてそんなどこに行けばいいかもわからない世界がそのまま自分の夢と現実の間で揺れる女性の心象風景を表してもいる。

『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清が異界=ウズベキスタンで前田敦子のありのままを写した映画

リポーターの仕事も嫌いではなく常にプロ根性を見せる主人公・葉子。だが、本当はオペラ歌手になりたい夢を持っていた。
キャッチコピーの通り、彼女の心は迷子になっている。
前田敦子自身もアイドルから女優になり、まだ立場を完全に確立はできていない。
またこのロケ時は前田敦子は勝次涼と交際し、結婚間近だったのだが、葉子にも結婚を考えている恋人がいる設定になっている。黒沢はそれを知らなかったと語っているが、劇中ではなんと葉子が恋人に電話をし「リョウちゃん」と呼ぶ場面もあり、虚実の被膜があいまいになるシンクロぶりを見せていて驚かされる。
葉子は前田敦子そのものなのではないか。
中盤で葉子が街中の遊園地でグルグル激しく回る遊具に3回も連続して乗せられる場面があるが、さすがにそんな状態で演技はできない。映されるのは前田の素の反応だ。
その場面に象徴されるように黒沢は素の前田を面白いと思って撮っている。ウズベキスタンの街中に一人放り出される不安げな葉子の表情もただの演技ではないだろう。

そして巣の自分を垣間見させる前田敦子がかつてないほどに魅力的で目が離せないように撮られているのが、本作の最も優れた点だ。
現地人に未成年に間違われるシーンもあったが、少女と大人の狭間にいるように見える今の前田敦子を捉えている。ファンは必見だ。

『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清が異界=ウズベキスタンで前田敦子のありのままを写した映画

ただの異国の街並みなのに放り出される前田敦子の不安感が画面を以上に恐ろしく感じさせる

そして葉子はウズベキスタンの街に一人出るたびに自身の内面を象徴するものと出会う。
狭い檻に一匹だけ閉じ込められどこにも行けない山羊。そんな山羊を本当にやりたいことができていない自分に重ね合わせ逃がすことにする葉子。
2度目に迷い込むのはウズベキスタン最大の劇場、ナボイ劇場。
彼女はそこの舞台の上でエディット・ピアフの名曲「愛の賛歌」を歌う自分を想像する。ナボイ劇場は設立70周年を迎えており、ここを登場させることが企画の条件の一つだったが、そこでもただのロケ地ではなく、主人公の内面を表現に使うのはさすが黒沢だ。
「愛の賛歌」の歌詞も葉子が愛する恋人への狂気的な思いと重なる。

そしてクライマックス、また同じ山羊が出てきて、それを見た葉子がついに妄想ではなく「愛の賛歌」を歌う。
舞台となる2000メートルの高地で現地撮りされた彼女の歌声は、頼りないようで力強く芯をもって歌われる。
正直、歌声だけ聞けば葉子の夢が叶うかどうかは分からない。酸素の薄い広大な山々の中で発される彼女の歌は消え入りそうでもある。
しかしそれでも彼女は旅のおわりについに自分の殻を破り、一歩を踏み出した。
ここから彼女の世界がはじまる。
タイトル通りそう思わせてくれる爽やかさがこのラストにはある。
終始不穏さを漂わせてきたからこその解放感。黒沢清も前田敦子も新たな一面を異国の地で花開かせた必見の映画だ。

『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清が異界=ウズベキスタンで前田敦子のありのままを写した映画 『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清が異界=ウズベキスタンで前田敦子のありのままを写した映画

ラストの前田敦子の歌声は忘れがたい。

関連記事リンク(外部サイト)

「ワイルド・スピード」シリーズのスピンオフ第2弾でシャーリーズ・セロン主演映画が企画中
『キングスマン』第3弾のタイトルは『The King's Man』に決定!気になるキャストやストーリーは?
007新作『Bond25(仮)』撮影中のダニエル・クレイグらをチャールズ皇太子が訪問!

映画boardの記事一覧をみる
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。
スマホゲーム タラコたたき