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<コラム>テリー・リード来日記念 ~直枝政広(カーネーション)が綴る、「テリー・リードと出会った日」

<コラム>テリー・リード来日記念 ~直枝政広(カーネーション)が綴る、「テリー・リードと出会った日」

 全寮制の都立高校の同級生にTという奴がいた。痩せて青白く、『ハーヴェスト』の頃のニール・ヤングのように髪が長かった。まだ高校生でも彼は飛び抜けて老成した耳とセンスを持っていた。就寝前の自由時間に部屋でギターをポロポロと弾いてると、音を嗅ぎ付けて彼はふらっと現れた。菓子の袋を見つけるとおもむろに手を突っ込んでポリポリと食べながら「いいか直枝、遠藤賢司はこうやって弾くんだ、貸せ」とギターを取り上げ、フレットの上に置いた指を思いっきり震わせてみせる、そういう奴だった。スイッチが入ると取り憑かれたように首を揺らしたが、その姿はまるでヒッピーのようだった。「金が無くてよぉ、たのむよ」とはっぴいえんどの『ゆでめん』を500円で売り付けられたこともある。

 学校は規律が厳しかったが、Tは寮の屋上で隠れて煙草を吸っていたし、夜中に抜け出しては福生や東中神のロック喫茶へ向かった。「どうする? おれは今夜行くぞ」と誘われてもウブなぼくにそんな勇気はなかった。「リトル・フィートもザ・バンドもいいけど、これも聴け」とロバート・ジョンソン『ザ・キング・オブ・デルタ・ブルース・シンガーズ Vol.2』とジェシ・エド・デイヴィス『ウルル』、テリー・リード『シード・オブ・メモリー』の3枚のレコードを彼に渡され、ある放課後、放送室に籠り、それらを一息に聴いた。ロック音楽の奥深さに打ちのめされた瞬間があるとすればその時だった。どれもめちゃくちゃ良かったと感想を告げると嬉しそうに「ちゃんと返せよ、あれは売れないからさ」とTは虫食いのボロボロの歯をみせて笑った。

 テリー・リードの名前は知らなかったが、グラハム・ナッシュ・プロデュースのそのアルバムはロック喫茶ではよくかかるという話だった。バネの効いたリズムとアコースティック・ギターが弾む「Faith To Arise」に続くタイトル曲や「To Be Treated Rite」の仄暗さなどはニール・ヤング『オン・ザ・ビーチ』に通じるものがあり、一発で気に入った。タワー・オブ・パワーが参加したポップなレゲェ風のナンバー「Ooh Baby(Make Me Feel So Young)」やメタリックなギターが宙を舞うワイルドな「The Frame」における咆哮もじつに生々しく胸に突き刺さったし、感傷的な「Fooling You」などバラードにおける歌い込みの誠実さは、いつかこのぼくの身体の奥に深く染み込んでいった。

 『シード・オブ・メモリー』が持つ音楽の純粋性を追い求めて、随分と長い時間が経つ。今回の来日は東京・晴海で行われた【ローリング・ココナツ・レビュー・ジャパン・コンサート1977】以来。ジョン・セバスチャンやフレッド・ニールと一緒にテリーがやって来ることを知っていたのに、ぼくはあの日も学校を抜け出せなかった。でも、Tは行った。もはや彼をつなぎ止めておく規律や説得は役にたたなかった。音楽をぼくに教えるだけ教えると3年生の途中で学校を去った。40年以上経った今も彼の行方はわからない。身体を張ってロック音楽の旨味を教えてくれた彼のことは忘れられないし、それを譲り受けたからには、ぼくは意地でも音楽を続けるしかなかった。今でも『シード・オブ・メモリー』は大切なアルバムのひとつだ。何があろうと、ぼくはあの時代の思い出を手放さない自信がある。

TEXT:直枝政広(カーネーション)

◎公演情報
【テリー・リード】
ビルボードライブ大阪
2019年6月27日(木)
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30

ビルボードライブ東京
2019年6月29日(土)- 30日(日)
1stステージ 開場15:30 開演16:30
2ndステージ 開場18:30 開演19:30

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