「愛してもいないのに愛してるって言うなんて!」 目前で去っていく恋人に絶句した姉妹の胸の内 ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

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彼女を大切にしたいのに!自由のない次期皇太子の焦り

薫の策によって結ばれた匂宮と宇治の中の君。でも次の皇太子と目される彼の遊び歩きを、母の中宮が厳しく咎めているため、無理をして宇治に来てもすぐに帰らねばなりません。彼女を京に迎えたいけれど、適当な場所もない。今度はいつ、と約束することも出来ず、まったく苦しい恋の道です。

一方、夕霧は末娘の六の君と匂宮との縁組をまとめたいく。少しでも宮に興味を持ってもらえるように、と六条院に娘を住まわせていますが、肝心の宮からのアプローチはなしのつぶて。「どうやら他所でお盛んなご様子で」と宮を非難しては「こちらとの結婚にお力添えを」と、帝や中宮に泣きついています。

ただの遊びの関係なら、中の君を母か姉の女房のひとりにでもしてしまって、宮中に好きな時に逢えばいい。いつものように。でも彼女をそんな風に扱いたくない。万が一、自分が帝になるようなことになれば、彼女を皇后にしたい!

しかし宮の気持ちとは裏腹に、現在のところは彼女を丁重に扱う方法がない。寂しい思いをさせるのが心苦しいばかりです。

二人の仲を取り持ったのは僕だけど……やっぱり気楽な臣下の身

薫も、自分が取り持った二人の仲が心配です。「僕からも中宮様にお話して、ご理解いただけるようお願いしようか。しばらくはいろいろ騒がれるだろうが、将来を考えればその方がいい。二人の関係が公に認められるように」と思ったり。皇族に比べ、やはり臣下は気楽なものです。

火事で焼けた三条邸も無事に再建された今、僕も大君とここで暮らそう。薫はそう決意します。

気がつけば宇治では冬支度が始まる頃。もしかすれば未来の皇后となるかもしれない中の君が、あまりみすぼらしいようでは気の毒です。誰も面倒を見る人がいない姉妹のために、薫は乳母に相談しながら、几帳の掛け布から壁代といったものから、女房たちの衣装まで、衣食住に気を配ります。

お忍び旅行が大人数に!想定外の事態に慌てる幹事

自由な外出がなかなか難しい中、薫は紅葉狩りを計画。表向きはあくまで晩秋の宇治への観光ということで、宮と薫を含めごくごく親しい友人のみの、少人数での計画です。

しかし次期皇太子ともなると周りが放っておきません。我も我もと参加者が増え、あっという間に大所帯に。

薫は宇治に「かなりの大人数で伺います。去年の春、サプライズで訪問したときのようなこともあるかもしれませんので、そのお心づもりで」と連絡。おもてなし用のいいお菓子を贈り、応対に不備がないように、応援の若い人なども送り込みます。おかげで、宇治は御簾の掛け替えに庭の大掃除とてんやわんや。薫のあれこれとよく気のつくところは源氏に似ていますね。

大君も中の君も、何から何まで薫に任せっぱなしでいいのだろうかと思いますが、今更言っても仕方ない。こうなれば準備万端整えて、宮のお出でを待とうと諦めます。

こっそり抜け出すはずが……恋路を阻む意外な客人

一行は紅葉の枝を屋根にした舟で上り下りして漢詩を作ったり、雅な音楽を奏でて楽しんでいます。皆が秋のレジャーを満喫している中、宮だけは「こんなに近くに居ながら、まるで七夕の星のように川を隔てて逢えないとは」と、上の空です。

少し落ち着いたところを見計らい、こっそり抜け出して中の君のもとへ……と、薫が宮に囁いていたその時、京から思わぬ客人が。中宮の命を受けた夕霧の長男が、美々しく正装したお供を率い、たくさんの殿上人たちと到着したのです。

「遊びとは言え、このようなことは後々歴史に残る例になりますので、やはり威儀を正しませんと」。宮はすっかり首根っこを抑えられ、こっそり抜け出すのはとうてい無理になってしまいました。息子の行動なんてお見通し!ママの作戦勝ちと言ったところでしょうか。こうなってはぐうの音も出ません。

せっかく準備して待ってたのに!当人より落ち込んだ繊細な姉

夜が明けると更に追加で増援が到着。なんとか一晩持ちこたえたものの、身動きの取れない宮は言い訳の手紙を中の君に書きます。いつもは風流でしゃれた手紙を書く宮も、今回ばかりはそんな余裕もなく、ただひたすらにあれこれ理由を書き綴り、謝罪するだけの文面です。

中の君は人目につくだろうと返事を遠慮。せっかく準備してたのに、こんなに近くに来て逢えないなんて。やはりあんなご立派な方とお付き合いなんて、所詮無理だったのだ……とすっかり落ち込んでしまいます。ああ……。

宮は帰る気もせず粘ったものの、結局は多勢に無勢。一行は山荘へは立ち寄らず帰京していきました。精一杯準備して待っていたのにもかかわらず、肩透かしを食わされたこの悲しさ、虚しさ。薫のはからいはまたしても裏目に出てしまったのです。

意外なことに、今回のことでダメージを受けたのは、当人の中の君よりも姉の大君でした。

「やはり宮は移り気で多情な方、ご信頼出来ない方。話に聞けば、男というのは女に対してたいそう上手に嘘をつくらしい。愛してなくても“愛しているよ”などと言ったりするらしいが、そんなのは身分の低い人間だけのことだと思っていた。

世間体を重んじる貴族に限っては、そんな軽率なことは慎むものだろうと思っていたけれど、どうやらそれは私の思い違いだったのね。

亡くなったお父様(八の宮)も、この方へ手紙のお返事はするようにとおっしゃったけど、結婚相手として考えてはいらっしゃらなかったのに。でももうふたりの縁は結ばれてしまった……。

早くも宮に捨てられてしまった可愛そうな妹。ああ、こうなったら今からでも薫の君に中の君をお願いしてはどうかしら?薫の君は軽蔑なさるかしら?うちの女房たちの中には大した人もいないけど、それでも浅はかだと思うだろうか……ああ、何という運命……」。

世間知らずの大君は、愛してなくても「愛してるよ」なんて都合のいいことを言うのは身分も低いチャラ男のすることと思っていた様子。自分の伯父さんにあたる光源氏の所業を知ったらどうするんでしょう。別に対して好きじゃなくても、目の前の女性を全力で口説く天才でしたからねえ。残念ながら、恋に貴賤はないのです。

それにしても、この件でもう宮に捨てられたと早合点し、薫と再婚する案まで思いついているのはもはや暴走というべきか。お姉さん、落ち着いて!

他方、当の中の君は姉よりももう少し冷静でした。宮と二人きりの時に事情も説明されていたし、何度も繰り返し「逢えなくてもオレの心は変わらない」と聞かされていたからです。今回事は残念だし傷ついたけれど、あれほどの大勢のお取り巻きがいては仕方がないのだろうと、自分の中でそれなりに折り合いをつけています。

当事者なのに比較的落ち着いている妹と、身内とは言え異常なほど胸を痛めている姉。毎度のことながら「何もそこまで」と思いますが、かつて女二の宮の母、一条御息所が夕霧との今後に死ぬほど怒ったり嘆いたりしていたのを見れば、これもこの世界ではわりと自然なこと? そういえばふたりともしっかりして自分の意見があり、ちょっと思い込みの強い傾向も似ていなくもありません。

「もし、私達が世間並みの家で大切に扱われている姫であったなら、こんな惨めな思いをしなくて済んだはず」と、大君はこの心労のために食事も喉を通らなくなり、身体もいよいよ弱っていきます。あーあ。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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