[ホラー通信 オススメ映画]『バニシング -消失-』があぶり出す人間の“興味”の底知れぬ恐ろしさ
興味本位で観てみたら、うっかり“悪”に触れてしまった。その手触りが強烈に焼き付いて、もう二度と忘れることができない――映画『ザ・バニシング-消失-』を観たあとにそんな戦慄をおぼえました。
1988年にオランダで公開され、30年の時を経て日本での劇場初公開となる本作は、失踪した女性をめぐる二人の男の心理劇。巨匠スタンリー・キューブリックはこの映画を3回観て「今まで観たなかでもっとも恐ろしい映画だ」と評しています。
バカンスの最中に突如姿を消した恋人・サスキアの行方を3年間探し続けるレックス。失踪した理由も、行方も、生死も分からない。忘れるべきなのか、そうでないのかも分からない。真実を知るために行方を追い続ける――レックスのこの心理はしごく真っ当で、正しく愛によるものだったかもしれませんが、長過ぎる時はそれを狂気じみた執着に変えてしまいます。
一方で、サスキアの行方を唯一知る男・レイモン。日常では良き夫・良き父である彼もまた、自分の“知りたいこと”に執着し続ける男でした。そこにたどりつくために彼が行う、“歪んだ実験”とは? 彼は、真実を知りたいと望むレックスに手紙を送り始め……。
このふたりが出会うとき、いびつな歯車がカチリとあわさって、絶望的なクライマックスへと突き進んでいきます。
あらすじを読んでハッピーエンドを想像する人は少ないでしょうが、“絶望的なクライマックス”が待ち受けていると知っても尚その結末に興味を持ってしまうなら、この映画があぶり出す人間の潜在的な“狂気の火種”があなたの中でも疼き始めているのかも。
「これを映画として見せていいのか」と思ってしまうほど、あまりにも具体的に描かれていく人間の深淵。「原作者は、監督は、どんな想いでこの映画を生み出したのか」と興味を持ってしまうのもまた、人間のさらなる深淵を覗くようでためらわれるほど。
“オススメ映画”だなんて軽く言っていいものか分かりませんが、とてつもない映画なのは確か。興味を持ってしまったのなら、その正体の恐ろしさを知っておく意味で、観ておくことをおすすめいたします。
作品概要
『ザ・バニシング -消失-』
2019年4月12日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
提供:キングレコード
配給:アンプラグド
◆監督:ジョルジュ・シュルイツァー『ダーク・ブラッド』『マイセン幻影』
◆製作:ジョルジュ・シュルイツァー、アンヌ・ロルドン
◆原作:ティム・クラッベ
◆脚本:ティム・クラッベ、ジョルジュ・シュルイツァー
◆撮影:トニ・クーン
◆音楽:ヘンニ・ヴリエンテン
◆出演:ベルナール・ピエール・ドナデュー、ジーン・ベルヴォーツ、ヨハンナ・テア・ステーゲ、グウェン・エックハウス
1988年/オランダ=フランス合作/106分/カラー/ヨーロピアンビスタ/原題:SPOORLOOS
(C) 1988, Argos Film, Golden Egg, Ingrid Productions, MGS Film, Movie Visions. Studiocanal All rights reserved.
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