ガジェット通信 GetNews

見たことのないものを見に行こう

体験を伝える―『ガジェット通信』の考え方

面白いものを探しにいこう 本物を体験し体感しよう 会いたい人に会いに行こう 見たことのないものを見に行こう そしてそれをやわらかくみんなに伝えよう [→ガジェ通についてもっと詳しく] [→ガジェット通信フロアについて]
ガジェ通制作ライブ

“ゴーン氏保釈”で転換点を迎えた「特捜的人質司法」(郷原信郎が斬る)

 結局のところ、特捜部の事件における「人質司法」というのは、検察が、自らの責任において刑事立件し被疑者を逮捕・起訴した事件で、被告人が起訴事実を否認する場合に、公判を有利にするため、有罪判決を得るために行われるものであり、「罪証隠滅のおそれ」を広く解釈することが検察に有利に働き、「罪証隠滅のおそれ」を狭く解釈することが不利に働くという、極めて「単純な構図」なのである。

 過去に特捜部が手掛けた事件における「人質司法」の事例は枚挙にいとまがない。

 リクルート事件での江副浩正氏は113日、あっせん収賄事件等の鈴木宗男氏は437日、外務省支援委員会背任事件での佐藤優氏の512日等、起訴事実を全面否認した被告人を長期間にわたって勾留する「人質司法」と、威迫的・欺瞞的取調べで検察の設定したストーリーに沿う供述調書に署名させる、という二つの手段を用いて、検察は、特捜部起訴事件で無罪判決が出ることを防いできた。

 特捜部が、そのために、どのような手段を用いてきたかは、江副浩正氏、佐藤栄佐久氏(元福島県知事)、村木厚子氏など、多くの「特捜検察の被害者」が著書で、特捜的捜査手法の実態を明らかにしている。

 私自身、検察官退職後、多くの「特捜検察の被害者」から直接話を聞いてきた。その中には、「特捜的人質司法」によって、被告人の「裁判を受ける権利」までもが侵害されたと思える事案もある。

 公認会計士細野裕二氏は、粉飾決算の共謀に加わったとして特捜部に逮捕・起訴され、控訴審で、共謀とされた日時にアリバイがあることが明らかになり、一審で共謀を証言した関係者も証言を覆したのに、弁護人が保釈を得るために一部同意した供述調書の記載だけを根拠に有罪とされた(【『特捜神話の終焉』(飛鳥新社:2010年)第二章「キャッツ事件」(細野裕二・郷原信郎対談)抜粋*4 】)。唐澤誠章氏の事例では、検察官は、公判で無罪主張する可能性がある被告人の保釈に強硬に反対し続け、長期勾留で体調不良を訴え釈放を懇願する被告人側に、自白を内容とする書面を作成して提出することを要求し、その書面を公判で提出させて公訴事実を争わせないようにするというやり方で、無罪主張を封じ込めた(【“人質司法の蟻地獄”に引きずり込まれた起業家*5 】)。

*4:「【特捜神話の終焉】(飛鳥新社:2010年)第二章「キャッツ事件」(細野裕二・郷原信郎対談)抜粋」2019年3月10日『TwitLonger』
http://www.twitlonger.com/show/n_1sqr28k

*5:「“人質司法の蟻地獄”に引きずり込まれた起業家」2018年3月20日『郷原信郎が斬る』
https://nobuogohara.com/2018/03/20/%E4%BA%BA%E8%B3%AA%E5%8F%B8%E6%B3%95%E3%81%AE%E8%9F%BB%E5%9C%B0%E7%8D%84%E3%81%AB%E5%BC%95%E3%81%8D%E3%81%9A%E3%82%8A%E8%BE%BC%E3%81%BE%E3%82%8C%E3%81%9F%E8%B5%B7%E6%A5%AD%E5%AE%B6/

 この唐澤氏の事例を見ると、一連の検察不祥事の影響で、検察官の取調べの録音録画が導入され、取調べで「ストーリー通りの供述調書」を作成させる、という従来の「特捜検察的捜査手法」が使えなくなったことが、「人質司法」によって、無罪主張そのものを封じ込めるというやり方につながっているように思える。

 そして、そのような「特捜的人質司法」を容認し、協力する「ヤメ検弁護士」などの弁護活動により、保釈獲得のために無罪主張が封じ込められ、「特捜の獲物」とされた人達は、十分な裁判所の判断を受けることもなく、謂れのない罪に服させられてきた。【「正義を失った検察」の脅威にさらされる「400万中小企業」*6 】で紹介した中小企業融資をめぐる詐欺事件では、懸命に中小企業の経営に取り組む経営者と、それを必死に支える経営コンサルタントが、特捜捜査に踏み潰され、弁護人となった大物ヤメ検弁護士の言葉で、裁判で無実を訴える機会すら失っていった。その当事者の佐藤真言氏は、その忌まわしい経過を著書『粉飾 特捜に狙われた元銀行員の告白*7 』で克明に綴っている。

*6:「正義を失った検察」の脅威にさらされる「400万中小企業」2012年9月11日『郷原信郎が斬る』
https://nobuogohara.com/2012/09/11/%E3%80%8C%E6%AD%A3%E7%BE%A9%E3%82%92%E5%A4%B1%E3%81%A3%E3%81%9F%E6%A4%9C%E5%AF%9F%E3%80%8D%E3%81%AE%E8%84%85%E5%A8%81%E3%81%AB%E3%81%95%E3%82%89%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%8C%EF%BC%94%EF%BC%90/

*7:「粉飾 特捜に狙われた元銀行員の告白」2013年3月28日『amazon.co.jp』
https://www.amazon.co.jp/%E7%B2%89%E9%A3%BE-%E7%89%B9%E6%8D%9C%E3%81%AB%E7%8B%99%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E5%85%83%E9%8A%80%E8%A1%8C%E5%93%A1%E3%81%AE%E5%91%8A%E7%99%BD-%E4%BD%90%E8%97%A4-%E7%9C%9F%E8%A8%80/dp/4620321907

ゴーン氏の事件で「特捜的人質司法」は大きな転換点に

 日本の刑事司法全体における「一般的人質司法」の問題は、刑事司法全体の構造や日本社会の特質にも関連する問題であり、しかも、被害者、遺族等、刑事処罰に利害や重大な関心を持つ存在もあり、一朝一夕に変えられる問題ではない。今後、個々の事例において「罪証隠滅のおそれ」を否定する弁護人の努力と、裁判所の判断の積み重ねの中で、少しずつ是正を図っていく問題であろう。

 しかし、「特捜的人質司法」は、それとは根本的に異なる。要するに、特捜検察の組織の面子を維持し、名声を高めること、検察組織の責任を回避することなどを目的に、有罪判決を得るための「武器」を確保するというものにすぎない。

 もちろん、保釈可否の判断を行うのは裁判所であり、そのような「特捜的人質司法」による人権蹂躙を許容してきた裁判所にも重大な責任がある。しかし、特捜事件での逮捕・起訴の判断は、検察組織の意思決定に基づいて行われ、「検察の正義」を“翼賛”する夥しい「有罪視報道」によって、世の中には「処罰が当然であるかのような雰囲気」が醸成される。無実を訴える被告人の保釈請求に対しては、「保釈許可して、罪証隠滅をされて事件が潰れたら裁判所の責任だ」と言わんばかりの「恫喝的」な検察官の意見書に、裁判所も追従せざるを得なかったのが実情だった。今回のゴーン氏の事件でも、「人質司法」によって無罪主張を封じ込めようとする検察とマスコミの「有罪視報道」の構図は全く同様だったが、それが国際的な注目を浴びたこともあって、裁判所がその「特捜的人質司法」に立ちはだかることになった。

 ロッキード事件、リクルート事件を始めとする数々の事件で「特捜検察の栄光」の影で、政治家、経済人のみならず、巻き込まれた一般市民にも「塗炭の苦しみ」を与えてきた「特捜的人質司法」による人権蹂躙は、国際的な批判にさらされ、今、大きな転機を迎えようとしている。

 
執筆: この記事は郷原信郎さんのブログ『郷原信郎が斬る』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年3月12日時点のものです。

前のページ 1 2 3
寄稿の記事一覧をみる

記者:

ガジェット通信はデジタルガジェット情報・ライフスタイル提案等を提供するウェブ媒体です。シリアスさを排除し、ジョークを交えながら肩の力を抜いて楽しんでいただけるやわらかニュースサイトを目指しています。 こちらのアカウントから記事の寄稿依頼をさせていただいております。

TwitterID: getnews_kiko

  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。
スマホゲーム タラコたたき