『アクアマン』ジェームズ・ワン監督のオタク力×モモアマンの魅力=破壊力ッ!DCヒーロー映画の新展開を告げる快作ぶり
アメリカン・コミックの実写映画化が全盛期を迎えつつあるいま、『アベンジャーズ』に代表されるマーベル・ユニバースと並んで大規模に展開しているのが、DCコミックのヒーローたちを描くDCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)の作品群。スーパーマンを主人公とした『マン・オブ・スティール』に始まり、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』、『スーサイド・スクワッド』、『ワンダーウーマン』など、様々なヒーローたちの単独主演作を経て、超人たちの同盟を描いた『ジャスティス・リーグ』が次々と公開され、いずれも興行的な成功を収めている。そんな中で、ジェームズ・ワン監督の『アクアマン』(2月8日公開)も封切から2ヶ月弱にして、すでに1,200億円に迫る世界興収(10億9,649万832ドル/1,193億8,263万2,315円/1ドル108.8円換算/2月1日Box Office Mojo調べ)を記録している。
クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』を超える興収をあげ、ワーナーブラザーズで最もヒットしたアメコミ映画となった同作は、アクアマンの知名度が極めて低い中国などでも人気を得ているのが大きな特徴だ。ヒットメイカーではあるものの、『ソウ』シリーズや『死霊館』などのホラーイメージが強いワン監督と、映画ではヒット作に恵まれていなかった主演のジェイソン・モモアという組み合わせで製作されたアクション映画に、ここまでの成果を期待した人はそう多くはないだろう。しかし、実のところ、このタッグが『アクアマン』という題材に出会ったからこそ、多くの支持を得ることができたのではないだろうか。
ついに解放された、ジェームズ・ワン監督のオタク力
DCEUは、ザック・スナイダー製作総指揮下のもと、シリアスかつ重厚な世界観を展開してきたが、パティ・ジェンキンス監督の『ワンダーウーマン』以降、徐々にクリエイターの個性が発揮された作品を生み出し始めている。特に、『アクアマン』はワン監督の映画オタクとしての個性が爆発している。ワン監督は、ワーナーからDCEUに招かれ、最初にフラッシュとアクアマンのどちらを担当したいか聞かれたという。ワン監督はアクアマンを選んだ理由を「自由に作ることが出来るヒーローだから」「自分の大好きなジャンル映画をやりたいから」と答えたという。なんともオタクらしいこの言葉を反映するように、『アクアマン』にはアドベンチャーやSF、カーアクション、果ては荒唐無稽な香港アクションまで、ありとあらゆるジャンル映画の要素が詰め込まれているのである。
インディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク《聖櫃》 (吹替版)(YouTube)
https://youtu.be/v1eCdpDiDEU
ワン監督が尊敬する監督として度々挙げているのは、スティーヴン・スピルバーグ、ジェームズ・キャメロン、ジョージ・ルーカス、レイ・ハリーハウゼン、ジョン・カーペンター、香港のジョン・ウーとツイ・ハーク、ピーター・ウィアー、ピーター・ジャクソン、ジョージ・ミラーら。『アクアマン』では、スピルバーグの『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』のように砂漠の遺跡に秘宝を求めたり、ゼメキスの『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』のように密林を旅したり、キャメロンの『アビス』のようなハイテク戦艦が登場したり、ハリーハウゼンや東宝の特撮映画のような巨大怪獣対決も繰り広げられる。ありとあらゆる魚類が総力戦を繰り広げる最終決戦は、ルーカスの『スター・ウォーズ』を思わせるではないか。
『アクアマン』特別映像(YouTube)
https://youtu.be/dHoX-6n_avA
オマージュ自体は珍しいものではないが、本作では一つひとつの濃度が段違い。オマージュの暴力とも言える、圧倒的な情報量がスクリーンを埋め尽くしている。とはいえ、ワン監督の好きなものをまとめたわけではなく、あらゆるシーンがきっちりと物語に組み込まれているのが巧い。アクアマンと相棒のメラが陸、海、空とさまざまな場所を巡るのは、あくまで宿敵を倒す力を得るための試練の旅路であるし、目まぐるしく変わるシチュエーションは、「海中のみの退屈な絵面では終わらせない」という、エンタメ精神の現れだろう。無論、元ネタを知らない方が観れば、「なんかすごい色んなジャンルが詰まった映画」として認識されるわけなので、強烈な映像を体験することになる。
『ゴーストハンターズ』(Big Trouble in Little China)クリップ映像(YouTube)
https://youtu.be/A65Jq6NKdeI
また、キャラクターやアクションなどの細かな部分も、様々な作品からインスパイアされている。ワン監督によれば、アクアマンのモチーフは、『ゴーストハンターズ』でカート・ラッセルが演じたトラック運転手ジャック・バートン。小島秀夫監督が『メタルギア』のスネークのモデルにしたことでも有名な……カート・ラッセル好きに悪いやつがいないことで知られる、あのカート・ラッセルである。振り返れば、ワン監督は『ワイルド・スピード SKY MISSON』ではラッセル自身を起用していたが、その変わらぬ熱意に、オタクからの信頼は増すばかりだ。
一方で、独特の設定や美術、そして演出は、本作を“ジェームズ・ワンのアクアマン”たらしめている。象徴的なのが、映画の肝となる海中の描写である。アクアマンやアトランティス人は水中での呼吸・会話が可能なうえ、ほぼ無重力状態で移動することも出来る。この設定を表現するために水中では撮影せず、キャストを特殊なハーネスで動かし、髪の動きや気泡のVFXのみで水の流れを再現している。その違いは、『ジャスティス・リーグ』の水中シーンと見比べれば一目瞭然。DCEUの設定にこだわらず、独自の表現を追求するワン監督の潔さよ。
Steppenwolf Attacks Atlantis | Justice League (2017) Movie Clip(YouTube)
https://youtu.be/1GNjK7rrj_E
ほかにも、疑似ワンカットの長回しや、壁をぶち抜きながらパルクールで移動するチェイスシーンなど、アクションシーンすべてにワン監督のセンスが爆発。アクション以外のシーンすら、自ら作り上げた世界観を見せつけるかのごとく、快適なカメラワークで我々の視覚を楽しませてくれる。高度に発達したアトランティス文明の建造物や乗り物、武器のデザインと仕掛けや、深海生物や魚人・甲殻人といった“魚たち”のバリエーションなど、すべての造形物にも、大作映画の予算の使い方を心得たワン監督の采配が光っている。タツノオトシゴに騎乗したヒーローをスクリーンで観られるなんて、誰が想像できたろうか。キャラ設定こそ原作コミックに準拠しつつも、自由に世界観とキャラクターを構築できる『アクアマン』で、ホラーでは観られなかったワン監督のオタク力(ぢから)が、ついに解放されたのである。
ちなみに、本作にはワン監督のさらなるオタク力を証明する、イースターエッグ(隠し要素)が多数存在。オタク仲間?のエドガー・ライト監督からリクエストを受けたあるTV番組を登場させたり、ワン監督自身が手がけた別シリーズのキャラクター、原作ファン向けのカメオキャラの出演など、いたるところに遊び心が見られるので、目を皿のようにして鑑賞するべし。
アクアマン=モモアマンとしての魅力
本作のもう一つの大きな魅力といえば、主演のジェイソン・モモアだ。彼の演じるアクアマン/アーサー・カリーは、海底で独自の文明を築いてきたアトランティス王国の女王と、人間との間に生まれたハーフブリード(混血)。超速スイマーであり、すべての海洋生物を操る力をもち、弾丸も通さない肉体と怪力を誇る超人・モモアマンだが、一方ではアトランティス人からは疎まれ、人間社会でも孤独を感じてきたマイノリティ。さらには、アトランティスに連れ戻された母親が自分を捨てたと思い込むなど、自身の出自に苦しんでもいる。その設定は、演じ手であるモモア自身のそれと驚くほどに通っている。
The Haka at LA Aquaman Premiere(YouTube)
https://youtu.be/68bNRrD-b1k
モモア自身はアクアマンと同様に複雑なバックボーンを持つ人物である。父親はハワイにルーツを持ち、母親はドイツ、アイルランド、ネイティブアメリカンの血を引いているとのこと。ハワイでは白人として、アメリカではハワイアンとしての外見をからかわれたというモモアが、自身の役柄に共感したことは言うまでもないだろう。また、モモアと父親役のテムエラ・モリソン(マオリ族出身)が、ともにポリネシア人であることが、映画にそのまま活かされている点にも注目したい。例えば、劇中ではアクアマンのトライバル(部族)タゥーが親子の絆を示すものとして描かれているし、アクアマンは戦いの中でハカ(ポリネシアの伝統舞踊)のような雄たけびをあげることも。モモア自身のバックボーンを役柄にリンクさせた描写が、そこかしこに登場しているのである。原作では金髪の白人として描かれていたアクアマンだが、映画版でモモアが演じることに、多様性を意識したキャスティング以上の意味が生まれているのは素晴らしいことだ。
View this post on Instagram We jammin. ALOHA oncle sauvage Jason Momoaさん(@prideofgypsies)がシェアした投稿 – 2016年 6月月11日午後2時02分PDT
そんなアクアマンは、異母弟のオーム(パトリック・ウィルソン)の地上侵略を阻むために、アトランティスの王を目指すことになる。純血主義を妄信し、「海を汚す人間を滅ぼす」という自身の正義を疑わないオームの姿は、さながらナショナリズムで国民を煽る独裁者。現実世界とリンクするかのような物語は、思いのほか身近に感じることだろう。しかし、そんなシリアスな展開をモノともせず我々を楽しませてくれるのも、やっぱりモモアの存在なのである。常に軽口を叩き、時には下ネタで相棒のメラ(アンバー・ハード)を呆れさせ、体臭についてツッコミを受けるアクアマンの姿に、癒されることは間違いない。『ジャスティス・リーグ』では、厭世的でひねくれた印象すらあったアクアマンが、『アクアマン』の旅を経てどんどん陽性の本質を見せていく。これまでのDCEUにはなかった二面性のあるキャラクターは、モモアだからこそ演じられたもの。
モモアによってアクアマンのキャラクターが魅力的になった一方、俳優としてのモモアもアクアマンによってあらたな魅力を引き出されたといっていいだろう。モモアはこれまで、映画『コナン・ザ・バーバリアン』、ドラマ『ゲーム・オブ・スローン』など、荒々しさを強調した蛮族やアウトローを演じることが多かった。しかし、アクアマン役では、粗野でおおざっぱなのに純粋で愛らしい、「モモアマン」として愛される彼の本質がそのまま反映されているのである。設定や演出で、彼の魅力を活かしきったワン監督のバランス感覚にも脱帽だ。コミックでは、お寿司にまつわるジョークのネタになったり、YouTubeにパロディをアップロードされたり、サタデー・ナイト・ライブでコントのネタにされたり(※DCコミックス公式設定より)と、スーパーマンやワンダーウーマンに比べてネタキャラ扱いされきたアクアマンだが、ワン監督のオタク力と想像力、モモアの稀有な魅力がかけあわさることで、カッコいいのに愛らしい、破壊力抜群のキャラクターとして輝いている。
時系列では、ポスト『ジャスティス・リーグ』最初の作品となる『アクアマン』。その快作ぶりを見るにつけ、DCEUの今後にも期待せざるを得ない。ありがとう、ジェームズ・ワン&モモアマン。
『アクアマン』は2019年2月8日(金)3D/4D/IMAX® 同時公開。
文=藤本洋輔
参考:
・Conjuring 2 director James Wan: ‘Studio horrors are by-the-book. They don’t have to be’
・‘Aquaman’ Director James Wan Says He Was Offered ‘The Flash’ & Explains Why He Turned It Down
・アクアマン|キャラクター|DCコミックス|ワーナー・ブラザース
映画『アクアマン』
監督:ジェームズ・ワン(『ワイルド・スピード SKY MISSION』)
キャスト:ジェイソン・モモア、アンバー・ハード、ニコール・キッドマン、パトリック・ウィルソン、ウィレム・デフォー、ドルフ・ラングレン
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/aquaman/
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(執筆者: 藤本 洋輔) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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