シリコンバレーで生き残るということ。(kikidiary’s eye)

シリコンバレーで生き残るということ

今回はkikiさんのブログ『kikidiary’s eye』からご寄稿いただきました。

シリコンバレーで生き残るということ。(kikidiary’s eye)

 よく、アメリカで働くことをお勧めする人たちがいるし、最近はそういう人をTwitterでフォローしたりもする。そういう人たちは高い能力を持っていて、日々活躍していく人も多いので、それは素直に応援していきたいと思っている。

ただ、なかなか苦しい話だが、シリコンバレーという場所は一方でなかなか生きていくのが大変なところでもあるのだなあ、と思わされるシーンがたくさんある。

 よく言われていることとしては高すぎるリビングコストだ。家賃はようやく落ち着きつつあるが、2ベッドルームで3500ドルから4500ドル近辺をマークするほどで非常に高騰している。幼稚園や学校の費用、医療保険、自動車保険、火災保険、ガス水道電気代、ガソリン代、駐車場代、携帯電話料金、インターネット費用、アマゾンプライム、コストコ費用などが固定費、食事代を変動費と考えてみると、手元に残るお金なんて微々たるものだったりする。なので、自然、ここで働くためには年収10万ドルでは足りず、12万ドルでも貧困層なんて言われたりする。

 こんな生き馬の目を抜くような場所で働いていくのは本当に大変だろう、と思う。日々の生活もさることながらフルタイムワーカーとして働いていこうとすれば、子どもの送り迎えをしつつ、少ない時間で多くの結果を出し続けなければいけない。結構、共働きの家も多い。共働きしないと生きていけないほどに生活費がかかるのだ。なので、送迎も食事の用意も結構夫婦が分担しなければやってられない。職住近接では家賃がかかりすぎるのでシリコンバレーから数十マイルも離れたところからバスや車で通勤している人も結構いる。1時間とか1時間半とか通勤にかけている人もいる。

 自分はたまたま駐在員としてここで4年間の時間を過ごしてもう5年目に突入しているが、この仕事の間にも出会った人たちの中には色んな人達がいた。勿論、厳しい中でもサバイブして、会社からのストックオプションももらってお金持ちになっている人もいるが、中にはそうでもない人もいる。ときたま、Costcoやスーパーマーケットの駐車場の出口とかに「3kids, no jobs」という段ボール紙を抱えた母親がいたりもする。母親の足元にはおなかをすかせた子どもが座っている。いたたまれない気持ちになりながら、それを見る。スタートアップでも知っているだけでも2社くらい潰れたのを目の当たりにしている。某大企業に買収されて喜んでいたのもつかの間、プロダクトを市場に出せなくて潰れた会社があるが、そこの購買のおじさんのところに挨拶に行ったら「起こらないことなんてない」と言っていたのが印象的だった。そのほかにも自分がサンプルを持って行ったところの中にはひっそりと潰れていたスタートアップもある。

 興味深いのは、能力が要求に満たなくても、事前の面接や履歴書(職務経歴書)のスクリーニングを潜り抜けて大企業にもぐりこんだ人たちだ。私が相対している会社が非常に厳しい会社のため、そういう人たちは大体ぼろが出て、Kick outされてしまう。ただ、Kick outされるまではなんとか結果を出そうとして頑張ることが多い。それはそうだ、彼らにも生活がかかっている。

往々にしてそういう人たちにはこういう特徴がある。要領が悪いとも言うのかもしれない。

・Industryに詳しくない。知らないことをろくに調べない。

・話を整理するのが下手。アクションアイテムを整理することが出来ない。

・優先順位を決められない。

・人の懐に入り込むのが下手。融通が効かない。調整能力が無い。

・出来ないことを出来ると社内で言ってしまい引っ込みがつかなくなる

・一度聞いた話を覚えられない

人は加齢とともに段々物覚えも悪くなるし、動きも段々鈍くなる。若いころなら徹夜もできただろうが、年を取ったらそうはいかない。マネジメントやSr. Engineerなどのポジションでならともかく、日々遅くまで働かなければいけないポジションであれば段々と疲れてくるし、無理も効かない。

大体の人が先に身体が悲鳴をあげてDrop outするか、上層部が使えないと判断して閑職に追いやりひっそりと退職する。USの会社といえど、訴訟のリスクもあるため、使えないからといって、いきなり首にするということはあまりないそうだ。ようは人を退職させるにも会社としての法的なJustificationが必要ということになる。企業が業績不振で首切りするときは正当な理由があるので、レイオフもある。いきなり何十人もごそっと首になることもあるという。

ある閑職に追いやられた人は色々、連絡をしてくれたのだが、正直、リソースが限られている中ではもし、閑職であるとわかってしまったら、こちらの対応も自然と密ではなくなってくる。かわいそうとは思ったのだが、こちらも商売なのでそこは線引きをするしかなくなる。その後、別の仕事に就いた彼からは展示会などで会うたびに恨み節を言われる。。。業界は狭い。

体調を崩し、Drop outした人はある展示会でたまたま再会したが、ちょっとばつが悪そうだった。

その他にも優秀だったのに、社内政治に疲れて別の今を時めくEVメーカーに行った人はその後再会したときに、「仕事は大変だが、その開放的な労働環境には満足している」と語った。

他にも優秀なのに、別の社内政治に敗れた人もまた関係するメーカーに転職したが、その人はイキイキしていた。

昨年、閑職に追いやられた末に退職した方はLinkedInを見る限り、まだ職探しをしている最中のようだ。閑職に追いやられるまではこの1年、毎日メールし、電話をしていた相手だっただけにあっけない幕切れだった。正直、これまでのお客さんの中で一番、どう対応するかアタマを悩ませた相手でもあったし、日々こちらへのプレッシャーもすごかった。朝昼夜、そして土日でも関係無しに連絡が来て、最終的にはその行動が社内で問題視されて、閑職に行く羽目になったようだ。大変なレアケースだとは思うが。。。仕事以外の面では子どもが2人いて、とかそういう話も聞いていただけに退職したという話を聞いたときは胸が痛んだ。職種的にも年齢的にも果たして次にどういう仕事があるのだろうか、とは思う。

その後のキャリアをどう組み上げるか、人それぞれなのだろうが、誠に一筋縄ではいかない。アメリカには採用にあたっては年齢差別も性別差別もしてはいけないという厳しい法律があるが、ポジションに見合った能力かどうかで判断しているという大義名分さえあれば、実際には年齢が理由でもそれを言わないだけで不合格なんてことはいくらでもあるわけですよ。。。

 

 たまたま、シリコンバレーという場所で色々と見てきたわけだが、これは何も別にシリコンバレーだけでなくて、アメリカ全体でそうのだと思うし、日本もいずれはこうなるのだろう。

 アメリカでたとえ大企業に入ったとしても、Safety netはあまり無く、病気やうつにならないようにしつつ、必死で働いて社内政治に打ち勝ち、勝ち馬に乗り続け、蓄財して家を買うなり、株を買うなりして生きていくしかない。スタートアップだって一寸先は闇なわけですよ。

日々、流れるニュースや記事ではシリコンバレーやアメリカの明るいところばかりが目に映るが、実際には優雅だったり明るいことばかりでは決してない、ということを書きたかったので書いてみた。

これ、日本でもそうなんだけど、日本の方がまだなかなか人が首にはならない分、マシな部分もあるのかな、と思う。(逆に雇用の流動性が無いので、それが企業とそこに勤める人をゆでだこにしてしまっているが。)

 
執筆: この記事はkikiさんのブログ『kikidiary’s eye』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年2月1日時点のものです。

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