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日本の鯨肉食の歴史的変遷(クジラを食べたかったネコ)

 
■毛皮養殖

毛皮養殖

 1950年代末より、日魯、大洋、日水、日東などの捕鯨関連会社は、相次いで毛皮獣の養殖業に乗りだします。これは有り余る鯨肉に手を焼いた業界が考えついた、在庫処理を兼ねた事業の多角化でした。飼料に用いられていたのは主にエキスを絞った残りやマッコウクジラの肉で、近海大型捕鯨の生産物のうち年間6,000t~9,000tはミンクの飼料用に充てられていました。アメリカに輸出した鯨肉も養殖飼料向けでしたし、イギリスやオランダなどにはペットフードの加工原料として輸出されていたこともあります。

詳細はこちら↓
「戦後の日本の鯨肉消費の実態」『クジラを食べたかったネコ』
https://www.kkneko.com/aa2.htm

 

そして、現在…

1.島国日本に不可欠の動物タンパク源」
2.「日本民族固有の伝統食文化」
3.「アトピーにも効くヘルシー食品」
4.「地球を食糧危機から救う救世主」

 捕鯨に対する国際世論の目が厳しくなり、商業捕鯨モラトリアムがIWCで可決される中、日本の捕鯨業界と水産庁はこれらの〝キャッチコピー〟を次々に打ち上げてきました(互いに矛盾しているものもあるようですが…)。まさに生き残りを賭けた必死のPRだったのです。以下にざっと検証しましょう。

 1.は最初に打ち出されたもので、新聞の社説で取り上げられましたが、国内でもまったく説得力を持たなかったため、すぐに引っ込められました。

 2.は、日本人の自尊心をだいぶくすぐったようで、著名人の一部から熱烈な支持を獲得しました。彼らはそれぞれの分野で〝宣教師役〟として捕鯨擁護論を広め、メディアを通じて影響を及ぼしました。実際には、日本捕鯨協会より委託を受けたPRコンサルタント・国際ピーアールの梅崎義人氏が発案し、協会が懇親会を組織して普及に努めたのです。しかし、海外の支持を得るには至りませんでした。なぜ生存捕鯨の枠が認められたのか、少数民族の文化に敬意が払われるのか、捕鯨の文脈から離れて一から勉強し直す必要が日本人にはありそうです。(日本の食文化とクジラについてはこちら*1 )

*1:「日本の食文化キーワードで診断する鯨肉食」『クジラを食べたかったネコ』
https://www.kkneko.com/bunka.htm

 3.は米、大豆、卵、畜肉など主要な食品の多くにアレルギー反応を示す重度のアトピー患者の取り込みをアピールしたものですが、鯨肉に対するアレルギーの報告が少ないだけで、決してアレルギーにならないわけではありません。ましてや、アレルギーを治療したり改善する効果があるわけではないのです。単に代替食の選択肢の一つにすぎず、他の代替品に比べて割高なだけです。また、重金属や有機塩素化合物の汚染から来るリスクを背負うことになります。アレルギーの原因については、生活の中で氾濫した化学物質との関係、土や動物と接触する機会の喪失なども指摘されています。南極の海の野生動物に頼っても、次世代をアレルギーから守る根本的な解決策は生まれてはきません。ついでに、ミンククジラの腸内には、重篤なアレルギーを引き起こすアニサキスが大量に寄生しています。

 4.については説明するまでもないでしょう。現在、世界中で年間500万人以上もの児童が飢餓で亡くなっています。さらに、それを上回る数の子供たちが極度の栄養失調となり、重度の障害や感染症に罹る高いリスクを抱えています。鯨肉が飢餓を解消するというのなら、今すぐにでもこの子たちを救って、ぜひそのことを証明してもらいたいものです。誰が彼らのもとへ届けるのでしょうか? 誰がそのコストを負担するのでしょうか? それは捕鯨擁護論者の主張する食文化の押し付けにほかなりません。アフリカの最貧国や中東の紛争地域に南極のクジラを提供するなどというのは、単に非現実的であるばかりでなく、非人道的です。なぜなら、日本ですら採算の取れない公海捕鯨と鯨肉輸送・頒布にかかるコストで普通に食糧援助を行えば、何倍、何十倍も多くの人命を救うことができるからです。
 食糧不足が深刻なアフリカ諸国の中には、ODAと引き換えにIWCに加盟して日本の捕鯨を支持している国もあります。しかし、それらの国々には商業捕鯨を行う意思もなければ、その能力もありません。ほかならぬ日本自身、国の緊急時の食糧安全保障マニュアルの中で捕鯨について一言の言及もないのです。
 捕鯨協会や水産庁の主張からは、何が飢餓をもたらしているのかを問う姿勢はまったくうかがえません。彼らは業界のエゴのために他人の窮状を利用しようとするばかりです。(捕鯨と食糧安全保障論についての詳細はこちら*2 )

*2:「鯨肉は食糧危機から人類を救う救世主?」『クジラ・クリッピング──捕鯨問題ブログ』
http://kkneko.sblo.jp/article/174477580.html

 
 このように、日本人とクジラとの関係はあまりに目まぐるしく変貌を遂げてきたことがわかります。捕鯨産業が、過去からの遺産を捨て、国際競争の流れに身を任せ、あの手この手で新規需要を開拓しつつ、収益を追求していった結果として、南極の海では鯨類全体のバイオマスが1/5になるほどの荒廃をもたらし、史上最大の哺乳類であるシロナガスクジラは未だに絶滅の淵をさ迷っています。捕鯨産業の衰退は、染み付いた乱獲体質によって自らの首を絞めた結果にほかなりません。
 今日、捕鯨産業は多額の税金の補助のもと、日本という飽食天国に「伝統」のブランドを銘打った〝高級嗜好品〟を提供する形で生き延びています。一方で、高値を狙った在庫転売や所得隠し、解体鯨の不法投棄、密輸・密漁、代替需要を当て込んだイルカの過剰捕獲など、さまざまな問題を生み出しています。日本人が、野生動物と節度ある長期的な共存関係を結び、自らの伝統文化を頑なに守っていたなら、こうした事態には決して至らなかったはずです。逆に、今の日本を振り返れば、当然の帰結といえるかもしれませんが……。

 日本は西洋から利便性につながる多くの〝豊かさ〟を手に入れてきた代わり、本当に大切なものを失ってしまいました。クジラとのつながりも例外ではありませんでした。むしろ、そのことを象徴しているのです。今の日本に残っているのは、本質をすべて絞りつくしたあとの残り滓にすぎない〝こだわり〟だけ──。
 はたして、これでも日本に南極の野生を貪る資格があるといえるでしょうか?

参考文献:「日本の捕鯨」高橋俊男、「日本捕鯨史話」(福本和夫著,法政大学)、「ザ・クジラ」(原剛著,文眞堂),「南氷洋捕鯨史」(板橋守邦著,中公新書) 他

 
執筆: この記事はカメクジラネコさんのブログ『クジラを食べたかったネコ』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年1月8日時点のものです。

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