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アベノミクスで景気回復って言うけど、GDPって本当に実態に合った経済指標か?(note)

どこまでGDPを信用できるのか

こうした歴史から分かるように、GDPはまだ約70年の歴史しかありません。そしてつぎに述べるように、いくつかの批判を受けながらも、いまだその解決には至っていません。

1点目は、GDPとは単に「概念の数値化」であり、どれくらいお金が使われたのか、レシートや領収書を集めたわけでも、生産量をひとつひとつ点検したわけでもない点です。つまりGDPを明らかにする理論があって、その理論に基づいてGDPという本来計測できないデータ、目に見えない概念を、あたかも具体的な数字を計算したかのように表現しているに過ぎません。

GDPを求める理論体系であるSNAは、1953年当初は50ページに満たないマニュアルでしたが、理論の精度をより高め、目に見えない概念をより現実に近付けるために、1968年、1993年、2008年と3回改定しました。その結果、2008年に公開されたバージョンは722ページにまで膨れ上がっています。それほど高度な計算式に進化したのです。

ちなみに、少し前のページに戻っていただくと、図3-2と図3- 3には「2008SNA」と記載しています。これは2008年に公開されたSNAで作成したことを意味しています。

版を改定する度、それまで測れていなかった経済取引が測れるようになっていきました。言い換えると、測れるようになると一気にGDPが増大する可能性もあるのです。そうした例が2010年のガーナです。2010年11月5日、政府統計局は計算方法を改めたところ、GDPが一夜にして60%も増加したと発表して話題になりました。今までと何ひとつ変わらないのに、計算方法を改めるだけでGDPが一気に膨らんだのです。果たして、そんな指標であるGDPにどこまでの信頼を寄せていいのでしょうか。

つまりGDPとは「この枠内の経済活動を測ります」と宣言しているに過ぎません。経済のすべてが計測できているわけではないのです。今でも多くの「計れていない経済取引」があります。その代表例が家庭内の生産や自家生産です。たとえばメルカリを用いた個人同士の取引もそのひとつです。この先、ますます新たな経済活動が生まれるのに、GDPの枠内でしか物事を判断しないのは正しいのでしょうか。

2点目は、GDPの持つ正確性の担保が非常に難しい点です。1970 年代、イギリスは英国病と呼ばれる経済停滞に苦しんでいました。経済成長率は低く、インフレ率は高く、貿易赤字は膨らむ一方。ついに1976年には、IMFに緊急融資を申請せざるを得ないほどの危機に直面します。融資の条件として財政赤字のGDP比率を一定以下に切り下げる必要があり、当時の内閣は緊縮財政を強いられることになりました。その結果、国内運営は崩壊し、3年後にサッチャー率いる保守党が政権を奪回します。

しかし後になって貿易赤字とGDPが修正され、あの時の「危機」は「危機とまでは言えない」と過大評価だったことが明らかになりました。決して作られた危機では無いのですが、あらゆるデータを寄せ集め、こねくり回しているうちに、少しオーバーに表現してしまったのでしょう。誰も責めることはできません。

様々な経済活動をカバーして、計測できていない場合は1から計測し、特定期間内のありとあらゆるデータを寄せ集め、それらをまとめて複雑な処理を施し、GDPという概念に収まるよう綿密に加工した結果が、私たちが普段目にするGDPの数字なのです。

途中で計算ミスを犯し、コンマ数%間違って下方に発表したとして、後から何をどうやって間違えたのかも確認できないでしょう。そもそもGDPの計算詳細は、日本国の場合は非公開となっています。なぜその数字になったのか、誰も検証すらできないのです。GDPとはそういう数字なのです。

ちなみに図3-4の長期経済統計は約60年以上の推移が示されていますが、データの参照元はそれぞれ異なります。1980年以前は平成10年度国民経済計算(平成2年基準・68SNA)、1981年から1994年は平成21年度国民経済計算(平成12年基準・93SNA)、それ以降は平成28年10-12期四半期別GDP速報(2次速報値) です。

長期経済統計で見た経済成長率推移

それぞれ基準の異なる計算方法なので、データの境目はガーナまではいかないものの数十兆円単位で違いが生じます。したがって、そうした矛盾が生じないよう特殊な処理が施されています。1990年の実質経済成長率は5.6%でしたが、その当時そのまま報道されていたかと言えば、恐らく違うでしょう。

3点目は、経済の規模のみ評価しており、その国の生活水準の向上や暮らしの豊かさを評価できない点です。例えばメール、LINE、アプリを使った無料通話が誕生し、私たちの日常はより暮らしやすくなる一方で、有料の郵便や電話は使わなくなりました。無料サービスの場合はGDPに計上されませんから、有料サービスが無料サービスに移行した分だけGDPが目減りします。豊かになったのにGDPが減少する(=経済成長率が悪化する) という矛盾が生じるのです。

GDPは経済の量を計測しますが、質は計測できません。

単に、国内で使われたお金の総額であり、生活の質とは何ら関係ありません。例えば今までより耐久性に優れた製品が出ると、生活の質は向上しますが、買う頻度が落ちるので、GDPを見れば経済成長率の低下に繋がります。イノベーションにより値段が安くなると、もう最低・最悪です。

GDPと生活の質は違う。こんな当たり前で単純な話は、いつの間にか混同して認識されるようになりました。もちろん年金、医療などの社会福祉を維持するためには財源が必要ですからGDPが伸びなければいけません。しかしGDPが伸びているからと言って、日本は他の国より暮らしやすい、暮らしにくいとは言えないのです。

この章のまとめ

結局、アベノミクスで景気は良くなったのでしょうか。

GDPという指標で見ると、確かに再び経済成長し始めたように見えます。しかし、その指標そのものが脆弱で、果たして日本の経済力そのものを表現しきれているかと言えば疑問符が付きます。

それでもGDPを使って経済成長を測るしかありません。なぜならGDPのデメリットを打ち消した代替となる指標の開発ができていないからです。むしろ使う側の私たちがGDPのデメリットを認識した上で運用するしかないでしょう。

一国の経済力を、たった1つの指標で把握することを止めようとする動きもあります。例えばOECDは「より良い暮らし指標」をWEBで公開しています(図3-7)。所得、仕事、教育、環境、安全など11の要素を混ぜ込んだ相対的な指標です。

より良い暮らし指標

この指標の良いところは、11の要素単位に細かくチューニング可能な点です。何を重視するかによって得点が変わるのです。

短期的な経済成長のためにGDPをいかに伸ばすかを議論するより、長期的な持続可能性を考慮した政策立案のためにはこちらの指標の方が良いように思うのですが、残念ながら2018年現在の国政ではまったく議論されていません。

 
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「データサイエンス「超」入門」には掲載できなかった漏れ話

先日、元日銀マンの鈴木卓実さんと講演をさせて頂いた際、「今のGDPは30兆円過小評価しているんじゃないかという論文が日本銀行から出ています」という話が出てきました。

(参照)税務データを用いた分配側GDPの試算
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2016/data/wp16j09.pdf

上記論文から一部引用させて頂きます。

現行の生産側GDPや支出側GDP、言い換えると名目GDPの公表値と比較して、本稿で試算された分配側GDPはほぼ一貫して大きい値となっており、そのかい離幅は、直近のデータである 2014年度では 27~29.5兆円と名目GDPの約6%に達している。(略)
実質GDPの成長率をみると、2014年度の実質成長率は、プラス成長(+2.4%)と、現行GDPにおけるマイナス成長(▲1.0%<年次確報時>)と比べて、大きく上振れており、かなり違った動きとなっている(図表 22(2))。2004 年度以降の試算値の実質成長率の平均値を算出すると、+1.2%と現行(+0.6%)対比 0.6%ポイント高くなる。

こうした背景もあって、日銀はGDPの実質成長率を従来より高い精度で予測できる新手法を英語の論文で掲載し、日経新聞が報じました。

「エコノミスト泣かせ? 日銀がGDPを正確に予測 」2018年12月13日『日本経済新聞』
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3884012012122018EE8000/

日銀と内閣府は、もともとGDPを巡って暗闘を繰り広げています。最近でも2018年3月と関根敏隆調査統計局長が内閣府に「データを見せろよ!」と言っていますが、要は「お前らのデータは信用ならん」と言っているようなものです。

ちなみに、この暗闘はずーーーーーーーっとやっていて、2016年ぐらいから日銀はいよいよ喧嘩腰です。

「日銀がGDP統計に疑問符、「14年度はプラス成長」−内閣府は反論」2016年8月12日『Bloomberg』

「日銀と内閣府、GDP速報の精度巡り対立-攻防はデータ公表の範囲に」018年3月29日『Bloomberg』

ただ1つ気を付けたいのが、これは「安倍政権の改ざん問題」ではありません。例えば石破政権が誕生しても、野党政権が続いても起きていた問題でしょう。

いま、公的統計の信頼が揺らいでいるのです。予算が無い。人手が足りない。このままだと、誤った数字で誤った判断をしかねません。

「データサイエンス「超」入門」は、そうした危機感をもとに、ある著名な政治家に献本させて頂いたのですが、私みたいな一般人の声は届かないようです。残念です。

このnoteをきっかけに、国内で議論が巻き起こることを期待しております。

 
執筆: この記事は松本健太郎さんの『note』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2018年12月14日時点のものです。

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