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文化庁指針(漢字のとめ・はねなど)への誤解と早とちり(マチポンブログ)

現在使われている漢字のうち、略字が由来のものについては、他の漢字からの類推などで書き方が決まっているだけで、根拠があるとは言えません。

天1『新書源』二玄社

では、略字でないものはどうでしょうか。「天」を例に考えてみましょう。「天」の字は「大の字にたった人間の頭の上部の高く平らな部分を一印で示したもの※11」とされています。

そして、最も古い漢字の形である甲骨文字は右のように上が短く書かれています。(「天」の画像はどちらも黒須雪子(2009)『新書源』二玄社)

天2『新書源』二玄社

人の上を示して「天」という意味を持たせた字です。人の上にある印の長さに意味はなく、現在の漢字の形の根拠にはなりません。

また、「天」に関しては長い間、上の短い形で書かれてきていました。歴史上、上の短い字も書かれてきていましたから、上の長い「天」も、上の短い「天」も同様に認められるのは自然でしょう。

このように、今回指針で問題にされているような違いのどちらが正しいかを字源に求めても、現在の漢字の形とは無関係なものばかりで根拠や理由にはなりません。「秘」の「禾」は「示」の誤字が定着したものだとか、枚挙にいとまがありません。

現在の漢字の形は漢字の起源をもとにはしていないのです。

印刷文字と手書き文字の関係

ここで疑問がある方もいるのではないでしょうか。歴史的に「天」の上が短かったのなら、いつから長くなったのか。という疑問です。

印刷文字、特に明朝体のデザインでは「天」の上を長くしたり、「女」の2,3画目を交差させなかったりと、と歴史的な手書き文字とは異なる形をとる場合があります。

指針のQ&Aの文言を借りて述べると、「印刷文字は,読みやすさを重視して発展してきたものです」それに対して手書き文字は「自然な手の動きが基本」になっています。ですから、それぞれ漢字の表現の仕方には差が生まれます。その結果、印刷文字では「天」の上が長くなったのです。

印刷文字と手書き文字では表現の仕方が違ったのですが、前述した1961年の字形の統一に至ります。このとき、教科書の「天」は印刷文字に合わせて上を長くすることになりました。このような経緯で手書き文字の「天」も上を長く書くようになったのです。

印刷文字と手書き文字の漢字の形が異なることは、その成立の経緯の違いにあり、その違いや特徴を理解することは必要です。ですが、印刷文字の漢字の形も手書き文字の漢字の形も、同じ字体(骨組み)を備えており、漢字としてはどちらも正しいものです。

どちらかの形が正しいと考えるのは、行き過ぎでしょう。

書写教育との関係

「毛筆ではとめ・はねをきちんとするから、筆文化の破壊だ」のような意見も見られます。果たしてそうでしょうか。

2016年2月10日の「news every.」でこの指針の内容が取り上げられました。そこでインタビューを受けた90歳女性が面白い発言をしています。

あたし達んころ、これ、木、はねたんですよ。お習字やりましたから。

木部

この女性は、はねる「木」を書いて見せて、こう言っています。お習字をやっていたから、はねるように習ったわけです。

野崎邦臣(2013)の『漢字字形の問題点』でも述べられていますが、筆写で「木」をはねるのはごく一般的でした。ですから、90歳女性が習字をしていたときの「木」ははねたのです。毛筆で書かれてきた「木」はほとんどの字ではねており、書写・習字ではねるように習うのは自然なことです。

しかし、印刷文字の系統ははねないものが多く、前述した教科書の漢字字形を統一する際も、はねない「木」が採られました。

不勉強で過去の書写教科書などの状況はわからないのですが、教科書の漢字字形が統一された際に、書写の教科書もそれに合わせてどんどん画一的な形で指導するようになってしまったのではないでしょうか。

文化庁の指針案のQ&Aでもこのように書かれています。

Q3 多様な手書き字形を認めるのは,漢字の文化の軽視ではないか。 それぞれの漢字を手書きする際に,様々な字形を認めることは,漢字文化をないがしろにし,壊してしまうことにつながりませんか。

A 手書き文字の字形に多様性を認めるのは,むしろ,漢字の文化に基づく考え方です。この指針は新しい考えを示すのではなく,本来の漢字の伝統を知ってもらおうとするものです。

文化庁の指針は、いわば手書き文化の衰退に歯止めをかけるものです。指針を見て「筆文化の破壊」などと考えられるほど、日本の手書き文化は衰退してしまっているのです。

「天」の1画目を短く書いたり、「木」をはねたりするのは、手書きでは普通でした。「筆文化の破壊」などと考える方が手書き文化・筆文化の破壊なのです。

まとめ

漢字には決まった一つの形があるわけではありません。明朝体だけが正しいわけではなく、教科書体だけが正しいわけでもありません。様々なバリエーションがあり、骨組みに誤りがなく、その文字であると判別できればそれぞれが正しい漢字なのです。

ある一定の字形だけが「正しい字形」であるという認識が生じていることには,伝統的な漢字の文化を守るという観点から,危機感を覚えています。手書きされる文字には,印刷文字にはない,微妙な違いが生じるのが当然です。

指針のQ&Aの部分にこうあります。この記事を読んで、指針への正しい理解をしていただければ幸いです。

大阪教育員会はすでに2月22日に実施した公立高校入試でこの指針による採点基準で採点することを示しました※12。

鈴木仁也国語調査官は、今後このような動きが広まり、教員免許更新講習の場や大学の教員養成の課程でも取り扱われるだろうと話していました※13

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