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なぜこんなに鉄道に惹かれるのか?―日本映画に登場した各地の鉄道を辿る『あの映画に、この鉄道』刊行記念対談[後篇](川本三郎×山下敦弘 監督)

川本: 篠田監督の映画は意外と鉄道が出てくる作品が少ない。「スパイ・ゾルゲ」(03年)で、蒸気機関車から降りるシーンを確か大井川鐡道で撮影していたくらい。でも、今、蒸気機関車というとみんな大井川鐡道なので、ちょっと残念ですね。

いまや映画でしか見ることのできない景色

山下: この本の中に、もう映画の中にしか残っていない景色も多い、と書かれていて、それだけで映画を見たくなりました。

川本: 今、本当に廃線になる鉄道が多いんです。もちろん監督たちは、風景を残すために撮っていたわけじゃありませんが、結果的に映画はすごく貴重な動態資料になっている。新藤兼人監督の「銀心中」(しろがねしんじゅう)(56年)なんて、暗い映画だけど、とにかく花巻電鉄という、あの伝説の馬面電車が出てくるだけで、燦然と鉄道映画史に輝いている。新藤監督も鉄道映画にしようなんて気はなかったと思いますが、今見るとすごく貴重なんです。

山下: 今撮っている普通の風景も、20年、30年後には貴重な風景になるんでしょうね。そうは思いますが、狙って撮ったことはないですね。

川本: そういう邪心がないからいいんでしょう。以前、大林宣彦監督がおっしゃっていました。ご存知のように尾道出身である大林さんは、尾道を舞台にした映画をたくさん撮っていました。でも、ある時から止めてしまった。それは、尾道市の行政の人が、「大林監督はなぜ尾道の汚いところばかり撮るんだ」と言い出したかららしいんです。もっと尾道のいいところを撮れと、急に口出しをするようになったので嫌になったのだと。

山下: 以前、尾道の映画資料館に行ったら、大林さんの作品がほとんどなかったんですよ。小津さんのポスターは貼ってあるのに。例えば、「なごり雪」(02年)の舞台、大分県の臼杵(うすき)を大林さんの映画で知ったように、尾道も僕らは大林さんの映画で記憶したんです。でも今年は尾道で映画を撮っていらっしゃって、なにはともあれよかったです。

川本: 大林さんの映画には、結構、鉄道が出てくるんですよね。特に私の好きな「廃市」(83年)。あれは映画の基本文法に則って撮られていて、列車が到着して主人公が降り立って物語が始まり、最後また列車に乗って去っていく。典型的な映画のファーストシーンとラストシーンですよね。それでいうと、私の世代で忘れられないのは、木下惠介監督の「遠い雲」(55年)。これは、岐阜県の飛騨高山を全国的に有名にした映画です。全篇、飛騨高山でロケしていて、これで一気に高山が日本全国に知れ渡りました。この映画も冒頭、田村高廣演じる若者が、東京から故郷の高山に帰ってくるところから始まります。蒸気機関車が、川を渡り、山を抜け、平野を走って高山駅に着くまでを、延々と映している。最後、高峰秀子といろいろあって、結局、田村高廣は列車で去っていく。最後も列車です。

鉄道が演出した詩情溢れる別れのシーン

山下: 確かに昔の映画やドラマって、駅での別れが多いですよね。走り出す列車を追いかけるとか。

川本: そうそう。だいたい子どもはお父ちゃんを乗せた列車を追いかける。今井正監督の混血児の話「キクとイサム」(59年)には、アメリカにもらわれていく弟と姉の、駅の別れのシーンがあります。弟が、田舎の駅から列車に乗ってアメリカに向かう。お姉ちゃんは最初、じっとしていますが、汽車が走り出した途端、ホームを走り出すんです。もう号泣です。分かっているけど泣けちゃう。

山下: 最近だと「万引き家族」(18年)で、是枝(裕和)さんがバスでそういうシーンをやっていましたよね。

川本: あれはお父さんが走るんですね。今の電車は、構造が変わってしまったので、ああいう別れのシーンを作りにくくなってしまった。まず窓が開かない。新幹線なんか特にそう。それにデッキがみんな自動ドアになってしまったので、高倉健主演の「駅 STATION」(81年)で、いしだあゆみがデッキで敬礼するシーンなんかも撮れません。

山下: 構造上ってことですよね?

川本: 扉が開けっ放しのデッキは危険だから車掌が開閉するようになったでしょ。だからもうこれはできない。ビリー・ワイルダーの「昼下りの情事」(57年)の有名なラストシーンで、ホームを走るオードリー・ヘプバーンを、ゲイリー・クーパーがひょいと抱き上げて列車の中に呼び込むあのシーンももう無理。

山下: 無理ですよね(笑)。

川本: あれはもともと欧米のホームが低いからできることで、列車の乗車口がホームと同じ高さの日本では無理なんです。本当に詩情溢れる列車での別れのシーンはなくなっちゃいましたね。

そんな変化があってもなお、舞台に鉄道を選んでしまうという山下監督。「オーバー・フェンス」の函館の駅でのシーンについて話してくれた。その後も、都電のこと、国内外の荒涼とした場所を走る列車に乗ったこと。お二人の話は尽きなかった。映画の中を走る列車について、まだまだ話をうかがいたいお二人だが、まずは川本三郎さん書き下ろしの近刊『あの映画に、この鉄道』をお読みいただきたい。映画をきっかけになんでもないところへ行く。そういう旅が「大好きだ」とおっしゃる川本さんに、旅心を誘われるか、映画を見たくなるか、それとも旅の空で本書を読むか。その時の心次第で。
(『キネマ旬報 11月上旬特別号』より転載)

『あの映画に、この鉄道』
著者:川本三郎
定価:本体2,500円+税
発行:キネマ旬報社

 
さらに!刊行記念特集上映『映画の旅・鉄道への想い』も12/3(月)〜8(土)に新文芸坐(池袋)にて開催決定!
スクリーンではなかなか観ることのできない鉄道映画を一挙上映!
「鉄道員〈ぽっぽや〉」(1999年)、「駅 STATION」(1981年)、「山鳩(1957年)、「喜劇 各駅停車」(1965年)、「喜劇 急行列車」(1967年)、「特急にっぽん」(1961年)、「起終点駅 ターミナル」(2015年)、「約束」(1972年)、「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」(2010年)、「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」(2011年)、「大いなる驀進」(1960年)、「大いなる旅路」(1960年)
スケジュールはこちら
http://www.shin-bungeiza.com/program.html#d1203[リンク]

【PROFILE】
かわもと・さぶろう 評論家。1944年東京都生まれ。91年『大正幻影』でサントリー学芸賞、96年『荷風と東京』で読売文学賞、2003年『林芙美子の昭和』で毎日出版文化賞と桑原武夫学芸賞、11年『小説を、映画を、鉄道が走る』で交通図書賞、12年『白秋望景』で伊藤整文学賞を受賞。キネマ旬報の長期連載で読者賞を7回受賞している。都市論、エッセイ、小説、翻訳など著書多数。近著に『「男はつらいよ」を旅する』(新潮選書)、『成瀬巳喜男 映画の面影』(新潮選書)、『映画の中にある如く』(キネマ旬報社)、『「それでもなお」の文学』(春秋社)などがある。

やました・のぶひろ 映画監督。1976年愛知県生まれ。大阪芸術大学映像学科の卒業制作「どんてん生活」(99)が国内外で高い評価を受ける。「天然コケッコー」(07)では毎日映画コンクール日本映画優秀賞、報知映画賞監督賞を、「オーバー・フェンス」(16)でTAMA映画賞最優秀作品賞を受賞。2011年には、川本三郎原作の「マイ・バック・ページ」を映画化。ほか主な作品に「リンダ リンダ リンダ」(05)、「もらとりあむタマ子」(13)、「味園ユニバース」(15)、「ぼくのおじさん」(16)などがある。最新作、山田孝之主演の「ハード・コア」が本年11月23日より公開。

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(執筆者: キネ旬の中の人) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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