理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

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元理学療法士の経歴をもつ榊原有佑監督が、自身の経験をもとに紡いだ映画『栞』。

 

まじめな性格で、献身的に患者のサポートに取り組む理学療法士の主人公・高野雅哉を演じるのは三浦貴大さん。

 

雅哉と向き合う元ラグビー選手の患者を阿部進之介さんが熱演している。

 

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

「ぼくに何ができるのか?」――理学療法士という仕事の真実がていねいに描かれている映画『栞』で、榊原監督が伝えたかったこと、理学療法士を目指す高校生へのメッセージを聞いてみた。

 

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと 榊原有佑監督

1986年生まれ、愛知県出身。

株式会社and pictures 所属。

CM、MusicVideo、テレビ、企業VP などジャンルを問わず、さまざまな映像分野で幅広く活動。ディレクションをはじめ、撮影、編集、VFXなど映像制作に必要な技能すべてを身につけ元理学療法士という特異の経歴から得た感性を武器に、独自の世界観を作り上げるという「感性と技術が融合した」新しいタイプの次世代監督の一人。

2012年より映画製作会社 and picturesに所属し本格的に映画監督としての活動を始める。

2013年に初監督を務めた短編映画『平穏な日々、奇蹟の陽』はアジア最大の国際映画祭「ShortShortFilmFestival2014&Asia」のJAPAN 部門ノミネート、主演の有村架純がベストアクトレスアワードを受賞。

2016年、JリーグFC東京の2015シーズンを追ったドキュメンタリー映画『BAILE TOKYO』で長編映画デビューを果たす。

今作品『栞』が長編映画2作品めとなり、自身で原案・監督・脚本・編集を行うなど、こだわり抜いた初の長編ドラマ作品となる。

 

 

理学療法士になったきっかけは部活でのケガ

映画監督になる前は、理学療法士として大学病院に勤務していた榊原有佑監督。

 

高校時代、サッカー部でケガが多く、理学療法士のリハビリを受けていたことがきっかけだったそう。

  ヒザ、足首、腰など、ケガばかりで、病院の理学療法士にリハビリでお世話になったことから、その仕事に興味をもったんです。

 

Jリーグやプロ野球で理学療法士が活躍している話を聞き、仕事のイメージができていたので、自分も理学療法士になろうと考え、専門学校に進学しました。

 

実は、映画監督にもあこがれていましたが、高校2年生のとき、まわりの人に無理だと言われたし、田舎に住んでいたので、ここでは何もできないと思い、映画は観るもの、とあきらめていたんです。

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

スポーツから理学療法士を目指した榊原監督だったが、専門学校で学んでいるうちに思いが変わってきた。

  理学療法士の仕事は、とても幅が広くて、自分が知っていたのは病院の整形外科での骨折や捻挫のリハビリでしたが、介護保険施設などでの高齢者の運動機能回復、脳卒中で倒れた患者さんの日常生活動作の改善もあります。

 

筋肉だけだと思っていたら、脳の機能の勉強も重要。

 

高校生のころにイメージしていたことよりも、ずっと奥が広く、勉強していくなかで脳血管の障がいや神経系の病気の患者さんのリハビリに興味が出てきて、大学病院に就職しました。

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

理学療法士の仕事を伝えたくて映画監督に転身

大学病院で2年間、とてもやりがいのある仕事をしていたのに、どうして理学療法士を辞めてしまったのだろうか? 理学療法士は、患者さんにすごく感謝される仕事。毎日30分から1時間、1対1でリハビリを行うため、医師や看護師よりも密に接して、信頼関係や強い絆が生まれます。

 

手術だと寝ているだけだし、薬は飲むだけ。でも、リハビリは、患者さん自身が頑張っている感覚が強い。

 

自分の努力をサポートしてくれる理学療法士は、患者さんにとって支えになるのです。

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

基本的には、どんどん回復に向かって、感謝されて、退院していく。

 

そういうケースがほとんどで、達成感も味わえる。

 

しかし、大学病院だと深刻な病気の患者もいて、なかには、どうしようもできなかったことも…。

  理学療法士になって1年めのころ、自分と同い年の女性を担当しました。

 

骨にできたガンを取り除き、人工の骨に入れ替える手術をした後、すごく頑張ってリハビリをしていたのに、あるとき、ガンが転移していることを知ってしまったんです。そのカルテを見たときのショックは、とても言葉にできません。

 

仕事が終わった後、病院のすぐ近くで友達と飲み会があったけど、全然笑えなくて…。数百メートル先の病院で、今も彼女が病気と闘っているのに、自分はここでお酒を飲んでいていいのだろうか? どうすればいいのだろう?

 

衝撃的でした。こんなことをしていていいのか、何かやることがあるんじゃないか、自分の無力さが嫌になり、かなり感じるものがありました。

 

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

1年めに衝撃的な経験をしたことで「もっと何かできるんじゃないか」という思いを抱いたまま、仕事を続けていた榊原監督。

 

その心をさらに大きく動かすニュースが飛び込んできた。

 

公的医療保険が適用されるリハビリ治療の期間を短縮することを国が検討しているというのだ。

  ちょっと待ってくれよ。

 

目の前の患者さんはリハビリを必要としているのに、頑張っているのに、治療費の負担が増えたら、リハビリを続けられなくなってしまうかもしれない。

 

この現場を見てくれよ。

 

そう思ったときに、自分ができることは、この理学療法士の仕事の現場を、リハビリの必要性を、より多くの人に伝えることだと気づいたのです。

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

理学療法士にしか描けない理学療法士の現実を映画に

最初は、医療現場のドキュメンタリー映像を撮って、動画サイトに配信しようと考えたが、それでは誰も見てくれないかもしれない。

 

もっとちゃんとしたメディアで表現しなければ、より多くの人に伝わらない。

 

そこで映画を創ろうと決めた榊原監督。

  まず理学療法士の仕事を知ってもらうことが第一歩。

 

病院という隔離された空間の中で起こっていることをきちんと伝えようと思って、大学病院を辞めて上京して、脚本・演出・撮影など映画の勉強を始めました。

 

そのときから9年かけて、ようやく思いを形にしたのが映画『栞』なのです。

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

映画『栞』には、あまり知られていない理学療法士の葛藤が描かれている。

 

映画を観て、少なからずショックを受けたり、驚く人も多いはず。

  理学療法士だった自分が創る映画だから、理学療法士じゃなくても描ける作品にはしたくなかった。

 

理学療法士が主人公の映画というと『患者さんのケガが治って、歩けるようになって、心温まる話なんだろうな』って想像すると思うんですよ。多くの人がイメージできるってことは、自分じゃなくてもそういう映画は創れる。

 

理学療法士を経験した自分が創るからには、もっと深いところを描かないとダメだなと思って。現実というか、本当にあったことだけを描きました。

大学病院に勤務していたときの実体験や、先輩から聞いた話をもとに、3年かけて脚本を書いたそう。

 

もちろん、映画用にアレンジはしているものの、モデルとなった人は実在する。

 

元ラグビー選手は、榊原監督の先輩が担当されていた患者さん。

 

映画の中での大きなシーン、あの描写も事実だという。

 

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

理学療法士に興味がある高校生に感じて考えてほしい

高校生が知っている理学療法士といえば、部活などでケガをしたときのリハビリで励ましてくれたやさしい先生がほとんどだろう。

 

では、理学療法士のリアルな世界を、高校生はどう受け止めたらいいのだろうか? 患者さんのリハビリを手伝って、感謝されて、やりがいのある楽しい仕事だと考えていた人は、映画『栞』を観て、理学療法士っていいな、とは思わないでしょう。

 

でも、この映画を観た後、それでも理学療法士になろうと決心してくれたら、きっと本物の覚悟をもった理学療法士になれます。あこがれだけで理学療法士の学校へ入学した人は、現場実習を通して現実を知っていくので、自分には合わないと辞めてしまうことがあります。

 

だから、多感な高校生のときに、この映画を観て、感じてもらって、考えてほしい。映画を通して、理学療法士の仕事の疑似体験ができると思うのです。かなりツライことも描いているので、これに耐えられたら大丈夫。

 

もちろん、2時間の映画に印象的なエピソードを凝縮したからこうなっただけで、365日ずっとツライことが続くわけではありません。高校生のころに映画『栞』を見て、現実にこういうことがあることを知ったうえで、それでも理学療法士になろうと思ってくれたら、一番うれしいこと。

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

理学療法士は人とかかわることで成長できる仕事

映画では、主人公の雅哉が毎日のように自問自答して、無力感に苛まれている。

 

しかし、2時間の映画だから衝撃的なできごとがクローズアップされるだけで、実際には「先生、ありがとう」と感謝されることのほうが圧倒的に多いそう。

  理学療法士は、すごくやりがいのある仕事です。奥が深くて、学ぶこともいっぱいあります。

 

基本的に患者さんと1対1だから、人と人とのかかわりが大切。人をしっかり見て、知ろうとすることで、自分も成長できます。人と向き合っていける仕事で、感謝されることで自分のよろこびにもなり、楽しいと思います。

 

人と人とのつながりを描いていた映画なので、あの人はこう言っているけど本音は違うとか、ちゃんと人を見ることを念頭に置いて観てほしいですね。

医療は、本当に多くの人がかかわって、地道な作業で1ミリずつ前へ進めてきた。

 

昔は助からなかった病気が、今なら完治することもある。

 

映画を観て、これからの医療現場を担ってくれる子たちがでてきてくれることが、榊原監督の願い。

  雅哉が学会で発表するとき、『自分に何ができたかどうかわからない。どうなるかわからないけど、1ミリでも前へ進むのなら、ぼくは包み隠さず発表します』と言いますが、まさに自分が映画を創った心境です。

 

理学療法士の仕事に興味をもってくれた高校生たちが、ぼくの理学療法士としての経験を詰め込んだ映画を観て想いを受け取って、さらに医療を前へと進めてくれることを望んでいます。

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

 

目の前のことに向き合って夢に向かって前進してほしい

最後に、理学療法士に限らず、将来なりたい夢やあこがれを抱いている高校生へメッセージをもらった。

  ぼくは、自分のやりたいこと、興味のあることを、その都度、勉強してきました。

 

最初はスポーツが好きで、スポーツ選手にかかわりたくて、理学療法士になろうと思った。でも、勉強したら、もっと幅が広くておもしろい脳の機能に興味をもち、のめりこんでいったら、これを多くの人に伝えるという大きな課題をみつけた。それを映像にするために映画の勉強をして、今それを仕事にしています。

 

高校2年生のとき、映画監督は無理だからあきらめなさいと言われて、理学療法士を目指しました。でも、自分の思いと夢中になれることがあって、まっすぐ一所懸命に進んでいけば、道が開けるかもしれない。

 

自分の場合は、一つひとつ目の前のことに向き合っていたら、夢にたどりつきました。無理ってことはないと思うので、前へ進んでほしいですね。

理学療法士に興味がある人は、映画『栞』を観て、榊原監督からのメッセージをしっかりと受け取り、希望に向かって進んでいってほしい。

 

理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいこと

(C)映画「栞」製作委員会

  『栞』

10月26日(金)より、新宿バルト9ほか、全国順次公開

配給:NexTone

配給協力:ティ・ジョイ

(C)映画「栞」製作委員会

 

出演:三浦貴大、阿部進之介、白石聖、池端レイナ/福本清三/鶴見辰吾

監督:榊原有佑

脚本:眞武泰徳

共同脚本:岡本丈嗣

音楽:魚返明未

主題歌:「Winter」

作曲:Liam Picker/西川悟平

上映時間:118分 / 公式サイト:https://shiori-movie.com/

 

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投稿理学療法士の仕事とは?映画『栞』の榊原有佑監督が、高校生に伝えたいことは【スタディサプリ進路】高校生に関するニュースを配信の最初に登場しました。

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