仕事で“成長”する人は「作業」を「意味づけ」している――【働き方対談】仲山進也×佐渡島庸平(第1回)

仕事で“成長”する人は「作業」を「意味づけ」している――【働き方対談】仲山進也×佐渡島庸平(第1回)

7月21日、楽天大学学長で「自由すぎるサラリーマン」として知られる仲山進也さんの『組織にいながら、自由に働く。』と、元講談社の編集者でコルク代表の佐渡島庸平さんの『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』の刊行を記念したトークイベントが、青山ブックセンター本店にて開催された。テーマは「働き方」。さすが前人未到の地を切り拓いてきた両者だけあって、その話には、組織にいながら自由に働くためのヒントが多数含まれていた。

プロフィール

仲山進也(なかやま・しんや)<写真右>

仲山考材株式会社代表取締役、楽天株式会社楽天大学学長。1973年北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、シャープを経て、楽天へ。2000年に「楽天大学」を設立、学長に就任。2004年、Jリーグ「ヴィッセル神戸」の経営に参画。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業フリー・勤怠フリーの正社員)となり、2008年には仲山考材を設立。2016年から2017年までJリーグ「横浜F・マリノス」でプロ契約スタッフ。メディアでは「自由すぎるサラリーマン」と呼ばれ、「勤怠自由、仕事内容自由、副業・兼業自由、評価なしの正社員」というナゾのポジションを10年以上続けている規格外の人物。2018年6月、『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓。出版後即重版となる。

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)<写真左>

株式会社コルク代表取締役社長。1979年兵庫県生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)など数多くのヒット作を編集。インターネット時代に合わせた作家・作品・読者のカタチをつくるため、2012年に講談社を退社し、コルクを創業。従来のビジネスモデルが崩壊している中で、コミュニティに可能性を感じ、コルクラボというオンラインサロンを主宰。編集者という仕事をアップデートし続けている。2018年5月、『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』(幻冬舎)を上梓。

作業単位で「好み」と「好みでない」を分けるべし

佐渡島庸平さん(以下、佐渡島) 今回の学長(楽天大学学長である仲山進也さんの愛称)の新刊『組織にいながら自由に働く』には、働き方に関してとても興味深いことがたくさん書かれてありました。今回の対談ではその中で僕が特におもしろいと感じた点をいくつかピックアップして感想を述べて、それに対して学長が答えるという感じで進めていければと思うのですがいかがでしょう。

仲山進也さん(以下、仲山) それいいですね。よろしくお願いします。

佐渡島 まず1つ目が、「『世の中的に楽しい仕事と思われていること』と実際の『自分にとっての楽しい仕事』はだいぶ違うのです。(中略)作業単位で『好み』と『好みでない』を分けるのです」という箇所。今回の学長の本は自身の働き方を加減乗除の法則に当てはめて書かれてありますが、加と減のところは僕の講談社時代の働き方と同じだなと思ったんですよ。まず講談社に入社した時、周りにいるのは憧れの漫画家や彼らと一緒に作品を作った編集者ばかり。彼らから数々のヒット作が生まれた経緯などを生で聞いて「うわ~、あの作品って、そういうふうにして生まれたのか!」と感動しました。とにかく先輩編集者に飲みに連れて行ってもらって、昔話を聞くのが楽しくてしょうがないし、その話を聞きながら全部自分だったらどうするだろうと考えて、ヒット作を出すための知識を蓄えていたという感じでした。

でも、編集者の仕事のほとんどはむちゃくちゃ地味な作業なんですよ。例えば漫画家が漫画を描くための資料を集めるのも編集者の重要な仕事の1つなのですが、当時はまだ今みたいにインターネットが発達していなかったので、資料1つを集めるのにもとても苦労しました。『宇宙兄弟』を作っている時、描きたいシーンの資料がどう探しても見つからないので、よく作者の小山宙哉さんと一緒にああでもない、こうでもないと悩み、想像しながら描いてたんですよ。それが後にかなり正確だとわかったというケースがよくあります。

一方で、「世の中的に楽しい」と思われているであろう編集者の仕事の1つに、漫画のドラマ化の打ち上げなどで人気俳優・女優と一緒に飲むということが挙げられると思いますが、僕はそういうことをしたくて講談社に入ったわけじゃないのでほとんど楽しくないんですよ。常に芸能人と接していたかったら芸能事務所に入りますよね。僕が講談社に入ったのは、心の中で本にも書けないようなすごく突拍子もないことを考えてる人から、直接その話を聞きたかったからなので。

仲山 その人が有名な作家かどうかは関係なく、中身を引き出したいみたいな?

佐渡島 そう。その時間が好きなんですよ。でも編集者という職業に華やかなイメージをもって憧れているだけの人は編集者になっても活躍しないことが多い。ほとんどの作業自体はつまらない雑用の塊のようなものですからね。それがつらいと思った人は「加」(できることを増やす、苦手なことをやる、量稽古。仕事の報酬は「仕事」というステージ)でできることが増えていかないので成長しないなと。これをわかっていない若い社員は多いと感じます。

仲山 サディ(佐渡島さんの愛称)の言うように編集者にはいわゆる雑用的な仕事がたくさんあります。サディはそれに対してどのように取り組んでいたのですか?

「仕事=作業×意味」

佐渡島 「世の中的に楽しい仕事~」のパートの中に、「仕事=作業×意味」という式が書かれてありますよね。僕はこの式を実践していました。例えば編集者の仕事の中に、自分が制作に関わった雑誌や本を関係者や媒体で紹介してくれそうな人に送る「献本」という作業があります。その作業はまず送り先リストを作って宛名シールを作って、封筒に貼って、見本誌を入れて郵便局に持って行って送るという地味なものです。この献本はどの本でもやっているので、みんな何も考えないで行う単純作業になってるんですね。でも僕は献本をする際も、「この本を誰に献本すればバズる可能性が高いかな」と考えながら献本する相手を選んでいました。献本1つ取っても、作業自体は単純作業でも、ヒットさせるためには誰にどの本を送るかという組み合わせが重要で、そう考えたら戦略が絶対発生するんですよね。だから本が出るたびに毎回全然違う相手に献本していました。

仲山 なるほど。その人に献本する「意味」ってなんだろうと考えていたと。

佐渡島 そうです。本来なら作品ごとに全く違う献本リストになるはずなんですよ。でも世間のほとんどの編集者はどのような本でもインフルエンサーと呼ばれている同じ人たちに送る。結果、インフルエサーの事務所には大量の本が溢れてほとんど読まれずに終わる、ということが起きるんです。

もう1つ、編集者の日常業務として、漫画家が描いた原稿を受け取った後、セリフ部分の級数(文字の大きさ)を測って、書体を指定して刷り上がったものを貼るという作業があります。この時も僕は何も考えずセリフの文字を貼るのではなく、作家がネームを描いた時の気持ちになって「どうしてここにこんなセリフを入れるのだろう」と考えながらやっていました。いわば写経しているようなものですよ。こうすることによって、人気漫画家のネーム割のコツが覚えられて、新人の漫画家に教えることができます。この作業をそのための時間だと意味づけしていたので、やってること自体は単純作業なのですが、すごく価値のある時間になるんですよ。このように、すべての作業は戦略を練ったり、自分にとってどのような学びが得られるのかとか、かなり意味づけできるんですよね。

例えば羽柴(豊臣)秀吉が織田信長に懐で温めた草履を出したという逸話がありますよね。これは秀吉が草鞋を出すという単純作業を、信長を気持ちよくさせるチャンスだと意味づけしたから温かい草履を出したわけじゃないですか。その一瞬で信長に才能を見抜かれて後の出世に繋がっていった。このエピソードと同じで、今もどんな作業でも意味づけしてやっていると、わらしべ長者的なことが起きてくるんです。

仲山 確かに起きますね。意味をもって作業をしていると同じ意味をもつ人と繋がっていく。僕はこれを「わらしべ長者戦略」と呼んでもいいと思います。

佐渡島 常に「何のためにこの作業をやってるか」という意味づけをしている人間って、会った瞬間ぱっと見抜けますよね。

全体像を理解しようとする癖をつけよ

仲山 この作業を何のためにやっているかを考えて意味付けできるということは、少なくとも全体像を見て、全体としてプロデュースしようとしてるってことです。

佐渡島 全体像を理解することもすごく大事ですよね。全体像を見ることができると、全体を自分事として捉えることができるので、一部分だけを担当していても結局チーム全体のことを考えながら仕事ができるようになります。逆に全体像を見ようとせずに一部分の自分の担当業務だけをやってる人は、「なんでそこで終わるの?」ということが平気で起こる。それを言うと「でも言われた通りやってますよ。完璧ですよ」と返ってくる。これは全体像を見ることができていないからで、それは意味付けができていないからなんですよね。

仲山 編集者って全体像が見えやすい職種だと言えますか?

佐渡島 いや、見えやすくはないと思いますね。ほとんどの編集者は自分の仕事を、自分が担当した作品を雑誌に載せることと単行本を作ることで、しかもそれらを会社から割り振られた作業だと定義してると思うんですよ。だからプロデューサーになれる人はほとんどいないんですよね。でも例えば僕は自分の仕事を、担当した『ドラゴン桜』という作品のIP(知的財産)の社会的影響力を最大化する全責任者であると捉えていました。さらに『ドラゴン桜』を使いつつ『週刊モーニング』という掲載雑誌の影響力も高めて部数増を目指そうと考えていたので、雑誌の中の記事・企画もどんどん思いついた。その結果、『ドラゴン桜』のIPの価値自体を上げながら雑誌にも貢献するということができたんです。それは、常に全体像をイメージして、すべての作業に意味付けをしていたからだと思います。

仲山 まさに「仕事=作業×意味」の実践ですね。僕が大学卒業後、最初に入社した大手電機メーカーでは全体像を自分のものとして把握するにはサイズが大きすぎて、作業に意味が付けられませんでした。転職理由としては、そのモヤモヤが一番大きかったかもしれないです。

佐渡島 そもそも「意味付け」という意味では、僕は小学生の頃からこの世界に存在するすべての事象について意味を考えずにはいられない子どもでした。「生きる意味とは?」とかずっと考えてて。そんなある日、書店で柄谷行人(哲学者・文学者・文芸批評家)が書いた『意味という病』という本を見つけた時、「まさに俺にぴったりだ!」と思って買って読んだんですが、書かれてある文章は1行も意味がわからなかったんです(笑)。そんなことがあったくらい子どもの頃から本当に意味ということをずっと考えていました。講談社に入社しても「この会社で働く意味は?」ということをずっと考えながら仕事をしていて、ある時期からその意味がうまく見出せなくなったことが辞職した大きな理由なんです。

全体が見えると成長スピードが早くなる

佐渡島 全体を見なさいという話では、「全体が見えるとつながりがわかるようになります。つながりがわかると工夫ができるようになります。工夫できるようになると責任をもてるようになります。責任をもてると成長スピードが早くなります」というくだりにもすごくうなずきましたね。成長の変化はまさにこの順番でしか起きないと思うんですよ。常に全体が見えることが最初の変化の始まりで、ある作業をする際には時間軸による長期的な全体と、ステークホルダーによる短期的な全体の両方を見渡さなければなりません。でも、ステークホルダーの全体を見渡すことができる人は多いのですが、時間軸による全体を見ることができる人は少ない。漫画のストーリーって時間軸のコントロールなので、時間による全体像も見られることが有能な編集者の条件の1つ。僕は結構見えていて、それをいろんなところで喋るようにしてるんですよ。でもそうすると「神目線で話してて偉そう」と全体像を聞こうとしない人も多いなと感じるんです。

仲山 「予言者かよ」みたいな(笑)。

佐渡島 そうそう、すぐそんな話になっちゃって(苦笑)。でも全体を理解できないと今やってる作業工程も何もわからないからうまく動けないんじゃないかなと思うんです。そういう人は1つひとつの作業に繋がりや意味が感じられないので、作業が終わった瞬間に次の作業を予測してやるということができなくて、次の作業を待ってしまう。僕は「全体を理解する」という行為に時間と労力を最も費やすべきと思っているので、学長の言ってることが超わかると思いながらこの本を読んだんです。同時に、実は「どのようにすれば全体が見えるようになるのか」というテーマだけで一冊書けるんじゃないかなとも思うんですよね。

仲山 確かに全体像は見ようとしなければ見られないですからね。

佐渡島 そうですよね。でもどのようにすれば全体が見えるようになって、1つひとつの行為に意味を見出すことができるようになるんですかね。例えば今日ここで僕と学長が話すこと1つ取っても、僕と学長は立場も仕事内容も違うので、2人だけで90分集中して話すのって残りの人生であと5回あるかどうかの出来事なわけじゃないですか。全体像としてそう考えると今日の90分は意味合いが変わってきて、めちゃめちゃ貴重なものになるわけです。だから僕のことを一方的に話すんじゃなくて、普段誰にでもする質問を学長にもしてみようとか、僕が学長の本を読んで感じたことをぶつけてみようという時間の使い方になるんですよ。

また、例えば最近は正月くらいしか実家に帰らないので、親と死ぬまでに話せる時間ってあと20時間くらいしかないんだなと思いながら毎回喋ってるんです。そういうふうに考えると時間にもめちゃめちゃ意味が見えてきますよね。

仲山 それを考えていない時には見えていなかった意味が見えてきますよね。

佐渡島 僕は新しい人が入社してくると一緒に食事に行くんですが、多分今在籍している社員と2人きりで1時間喋ることってあと5回もないかもしれない。君はその内の貴重な1時間を今使っているんだよと思うし、僕も相手と過ごす貴重な時間だと思っているんですが、ほとんどの社員はそうは思ってくれなくて僕との打ち合わせを忘れたりするんです(笑)。社員とは時間に対する感覚がすごく違うなあって常に感じています。

 

ビジネスパーソンにとって働く上でヒントになる金言が盛りだくさんの対談。次回は、佐渡島さんの心に刺さった「課題=理想-現実」「人が働く動機は6つに分類できる」「上司のために許可を得ないでやれ」などについて語り合っていただきます。乞う、ご期待! 取材・文・撮影:山下久猛 協力/青山ブックセンター

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