映画『マトリックス』の“深すぎるセリフ”から英語と人生を学ぼう

映画『マトリックス』の“深すぎるセリフ”から英語と人生を学ぼう

『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)など数々の英語学習に関する著書を出されている西澤ロイさん。英語の“お医者さん”として、英語学習の改善指導なども行っている西澤さんに「正しい英語学習の方法」についてお話しいただくこのコーナー。第21回目の今回も大好評企画の「映画に学ぶ英語フレーズです。今回は映画『マトリックス』を題材にしたいと思います。

プロフィール

西澤ロイ(にしざわ・ろい) イングリッシュ・ドクター

英語の“お医者さん”として、英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)他、著書多数。さらに、ラジオで4本のレギュラーがオンエア中。特に、木8の番組「めざせ!スキ度UP」が好評を博している。

1999年に公開された映画『マトリックス(The Matrix)』。スローモーションを駆使した格闘シーン、銃弾を避けるようなアクションなど、画期的な撮影技法によって、その後の映画作品などに多大な影響をもたらした名作です。

20年近く前の映画ですから、若い方はご覧になったことがなかったり、映像は少し見たことがあっても詳しいストーリーまでは知らないかもしれません。映画「マトリックス」が描いているのは、人間がAI(人工知能)にほぼ支配されてしまった世界。人類は、マトリックスと呼ばれる仮想空間に生きていますが、ほとんどの人は「仮想」であることに気づかずに、それが「現実」だと思っているのです。

ちょっと哲学的なお話になりますが、実はこれ、私たちの身の回りでも非常によく似た状況が起こっています。私たちが「現実」だと思っているものは、私たちの脳が「仮想」的に作り出したり、「思い込んで」いたりするだけかもしれないからです。

今回は、映画『マトリックス』に登場する深いセリフを英語のままご紹介します。人生にも役立つレッスンが学べるだけでなく、AI時代に生き残れるヒントにもなるかもしれませんよ。

How would you know the difference between the dream world and the real world?

(夢の世界と現実世界の違いは、どうやったら分かるのだろうか?)

夢じゃないかと確認するために頬をつねって、痛いからこれは現実なんだ……。そうやって、夢か現実かを判定するシーンが、漫画やドラマなどに時々登場します。

どうして、わざわざ体に痛みを与えて判定するかと言うと、私たちの脳にとって、夢と現実の明確な区別は存在しないからなのです。例えば、スポーツのプロ選手はイメージトレーニングを行ないますよね。脳内で「仮想」的にイメージをしているだけなのですが、「現実」にプレイしているのと近い感じで脳が働くことが分かっています(もちろん、体は動いていないですから、全く同じではないですよ)。

自分がいま思っていることや、出来事に対する認識は、「現実」に基づいているのか、それとも単なる「思い込み」なのか――。そこはしっかりと検証した方がいいのかもしれません。

What is “real”? How do you define “real”? If you’re talking about what you can feel, what you can smell, what you can taste and see, then “real” is simply electrical signals interpreted by your brain.

(現実とはなんだ? 現実をどう定義するのだ? もし、触ったり、匂いがしたり、味がしたり、見えたり…というのであれば、現実とは脳が解釈している単なる電気信号になってしまう)

では、「現実」をどう区別できるかというお話ですが、実はこれが非常に難しいのです。

先ほどの「頬をつねる」ケースで言えば、体感覚(例えば「痛み」)を伴っているかがヒントになっています。また、記憶が一貫性のある形でつながっていることも、現実だと判断する材料になるでしょう。

しかし、客観的な形で現実というものを定義することはムリだと言えます。なぜなら、私たちが感じている「現実」は既に、五感を通じて脳が解釈した結果でしかないからです。

つまり、キーワードは「解釈する(interpret)」ということ。「通訳する」という意味合いも持つinterpretは、語源的にはinter-が「間」であり、-pretが「つかむ」を意味します。

あなたは目で見たり、人から聞いたりしたことを、そのまま鵜呑みにして、信じていませんか?

思い込みの色眼鏡で見てしまうのではなく、現実を正しく捉えるためには、「(間で)解釈する(interpret)」というプロセスが必要になるのです。最初のうちは、現実を正しく「通訳」してくれる誰かの力を借りることも大切でしょう。

Everybody falls the fist time.

(誰だって最初は失敗する)

主人公のNeo(ネオ)が仮想空間で挑戦したトレーニングの1つが、ビルの屋上から、おそらく10メートル以上は離れている隣のビルの屋上へと飛び移る……というもの。結果、Neoはそれまでの常識から抜け出せずに、失敗して地面へと落下してしまいます。その時に、別の人が言っていたセリフがこれなのです(文字通りには、誰だって初めての時には「落下する(fall)」ですね)。

さて、何かに挑戦した時に、1回やってみてダメだった場合、あなたはどうしますか?

できるまでやり続ける、という人もいるでしょう。しかし例えば、あまりに下手くそだったり、その失敗を人に笑われたりしたら、「もう二度とやらない!」などと思ってしまうのではないでしょうか。

本当の「現実」としては、1回やってうまくいかなかっただけなのです。何度も挑戦すれば、前よりもうまくできるようには、きっとなるはず。しかし、イヤな思いをしたくないから、それ以上はやらなかっただけなのです。

でもそこで、「できない」のが「現実」だと思い込んでしまう人が多いので、ぜひご注意ください。

No one can be told what the Matrix is. You have to see it for yourself.

(マトリックスが何なのかを誰もあなたに教えることはできない。自分の目で見て、掴むしかないのだ)

Neoは、人生や世の中に対して、うまく言語化できないモヤモヤを抱えて生きていました。そこでたどり着いた「マトリックスとは何か?」という問いへの回答がこれだったのです。

この英文、「the Matrix」の箇所を別のものに置き換えても、同じように意味が成立します。

「人生」とは何か? 「仕事」とは何か? 「成功」とは何か?

「幸せ」とは? 「恋愛」とは? 「親友」とは? 「パートナー」とは?

そもそも「自分」とはどんな人間なのか?

「see」という動詞は、「(目に入ることによって)自然と見える」ことや、それによって「(自然と)理解する」ことを意味します。つまり、(問いは何だって構いませんが)自分にとっての「本当の答え」は、自分で導き出すものなのです。

私たちはつい「できない」「無理だ」などと思い込んでしまいがちです。場合によっては「仕事なんて…」「自分なんて…」「人生なんて…」などと、否定的な思いに駆られてしまうかもしれません。

しかし、それは本当に「現実」だと思いますか? そもそも「思考」に過ぎませんから、「脳」が作り出している「仮想」に過ぎないのです。

I can only show you the door. You’re the one that has to walk through it.

(私が示すことができるのは扉だけだ。それを通って、進んでいくことはあなたにしかできない)

ここで使われている動詞はwalk。2本の足を使い、一歩ずつ前に進むという(地道な)動作がwalkです。

Neoは、既に目覚めている仲間の力を借りることで、「仮想」の世界を「現実」だと思うところから抜け出すことができました。そして、「仮想」空間の中で自分の力をより発揮できるように変身していきます。しかしそれは、Neoがそう選択し、自分の足で前に進んだからこそ得られたものなのです。

映画『マトリックス』には、ここでご紹介した以外にも、深いセリフがたくさん登場します。一度パッと見たり聞いたりしただけではその意味が掴み切れないものも多いです。よろしければぜひ、映画『マトリックス』をじっくりと味わってみてください。

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