『ニグロ・スワン』ブラッド・オレンジ(Album Review)
ブラッド・オレンジ名義では通算4枚目のスタジオ・アルバム『ニグロ・スワン(Negro Swan)』。前作に引き続き人種問題や政治的・宗教的内容が基となっていて、 黒人社会の不安や、自身の経験・トラウマを取り上げながらも、あくまで「希望」について歌っていると、本作のコンセプトについて話している。
タイトルをイメージしたカバー・アートには、自身が監督を務めた「Jewelry」のミュージック・ビデオにも登場する、白鳥に扮した黒人男性が車の前窓に座り、はめ込まれたような姿が映し出された。黒人という存在がどう扱われているか正直に見てもらうこと、そしてそれを克服するためにすべきこと。生々しく綴られたメッセージを、どこか他人事である我々日本人も、しっかり受け止めなければいけない。
本作も、全曲自身による制作・プロデュース。祈りを捧げるようなコーラス、オリエンタルな旋律、無慈悲で心地良い生音で奏でられるソウル・ミュージック。強いメッセージに匹敵するサウンド・クオリティも、言うまでもなく完成度高く、70年代前期のニューソウルを彷彿させる一面も垣間見える。冒頭の「Orlando」なんかは、まんまスティーヴィー(・ワンダー)。ジャジーな展開が、ディアンジェロっぽさも感じる。
どこか聞き覚えのある、ノスタルジックな旋律のアシッド・ジャズ「Saint」、宙を舞うようなコーラスと笛の音、癒しと刹那が入り混じる「Take Your Time」、中毒性高いベッドルーム・ポップ 「Dagenham Dream」、ブッカー・T・アンド・ザ・エムジーズの「ジャマイカ・ソング」に匹敵する、美しいフォークギターの弾き語り「Smoke」など……魅力を語り出せばキリがない。先行でリリースされたヒップホップ・ファンク「Charcoal Baby」は、本作のハイライト。良い意味で、ハイセンスな店主が選曲した、都内のおしゃれショップでかかってそうなアルバム。
ディディから再びパフ・ダディに改名したショーン・コムズのボーカル&ラップと、米ブッルクリンの女性シンガーソングライター=テイ・シの透明感あるボーカルをフューチャーした「Hope」、言わずと知れたニューヨークの代表格=エイサップ・ロッキーと、スリー・シックス・マフィアなどのヒットで注目されたメンフィスのラッパー、プロジェクト・パットの2人がタッグを組んだ「Chewing Gum」、ブルックリン出身のR&Bシンガー=イアン・イザイアが独特の世界観を醸す「Holy Will」、先月新作をリリースした、ジ・インターネットのメンバー=スティーヴ・レイシー参加の「Out of Your League」、超個性派・女性シンガー/ラッパーのジョージア・アン・マルドロウの熱を帯びたボーカルが光る「Runnin」など、ゲスト・クレジットもセンス抜群。
ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズは、英ロンドン出身、1985年生まれの現32歳。2004年から2006年までトリオ・バンド=テスト・アイシクルズとして活動し、カイリー・ミノーグやエイサップ・ロッキー、ケミカル・ブラザーズ、カーリー・レイ・ジェプセンなどの楽曲を手掛け、2007年にはNME誌が発表した『クール・リスト』で49位と上位入賞した。2011年にはブラッド・オレンジ名義初のアルバム『コースタル・グルーヴズ』をリリース。2013年に発売された2ndアルバム『キューピッド・デラックス』は、同年のR&Bアルバムの中でも大傑作だと絶賛され、前作『フリータウン・サウンド』は、米R&B/ヒップホップ・チャートで最高6位をマークするヒットを記録した。
Text: 本家 一成
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