「全員リモートワーク」それって意識高い系?いや、フツウです―株式会社働き方ファームが「職場=チャット」にした理由
「チャットが職場です」
株式会社働き方ファームの従業員数は約30名。しかし、渋谷区にあるオフィスはほぼ無人。代表の石倉秀明さんが、郵便物回収や宅配便受け取りのためにときどき立ち寄る程度だ。
同社のスタッフは全員がリモート勤務。中には東京に住んでいない人もいる。
業務上の社内コミュニケーションは、すべてチャット上。定例ミーティングや相談事の共有などもオンラインツールを使って行われるのだという。
石倉さんは自社のビジョンをこう語る。
「100人いたら100人がオンラインで働くという選択肢を持てるようにしたい。時間や場所に縛られずに働き、役割と結果によって正当な評価がされる。それが当たり前の世界になればいいと思うんです。当社ではそれを実践していますが、オンラインだから不都合…ということは全く起こっていません」
「時間」で評価される働き方に、限界を感じた
以前の石倉さんは、少人数のスタートアップやメガベンチャーで早朝から深夜までオフィスで働いていた。1つの事業や数千名規模の人事を担うやりがいと自身の成長。それが自分にとって重要な軸であり、そんな働き方に疑問も不満も抱いていなかったという。
そんなとき、実家の事情により、故郷の群馬と東京を往復しなければならない状況になったことがあった。有給休暇を取って対応していたが、会社から「一旦、ポジションを降りてはどうか」という打診を受けた。
「『無理するな』という気づかいからの申し出でしたが、自分の中で納得できなかった。スキル不足や成果を出せないのが理由で降ろされるならともかく、働く時間を基準にジャッジされてしまうのか、と。時間や場所にとらわれずに、自分らしく働くためには独立するしかないと考えたんです」独立して1年間は、1人で人事コンサルティングや事業開発支援を手がけた。その中で、人事の課題は「運用」の部分に多くあることを実感。上流工程だけでなく、実務や運用まで一貫して支援するサービスを提供しようと考える。
採用実務の多くはリモートでも可能。そこで、採用アウトソーシング事業を立ち上げ、リモートワークで働く30人体制ができあがった。雇用形態は自由だが、多くの社員が「社員」を選んでおり、出社はしないが、週5日・フルタイムで勤務している。
「リモートワーク初体験のスタッフがほとんどですが、『意外と普通にできる』という声が多いですね。大阪に住んでいた社員が福岡に引越した際も、金曜だけ有給を取り、翌週月曜からいつもどおり仕事をしていました」
コミュニケーションの頻度と質は、リアルよりもむしろ高い
社長と社員、社員同士がオフィスで顔を合わせることはない。
では、メンバーの稼働状況をどのように確認しているのだろうか。
同社ではビジネス用チャットツール『Slack』を活用している。「チャットがONになっていれば、オフィスにいるのと同じ」という。
「チャット上のコミュニケーションは、リアル以上に密度が高いと感じています。一般社会でも、1~2回しか会ったことがない人とも、FacebookやLINE上で頻繁にメッセージのやりとりをして親密になることは多いでしょう。それがメンバー全員同士で起きている感覚です。コミュニケーションの頻度はかなり高いですね」
また、個別のダイレクトメッセージのやりとりはほぼ禁止。フルオープンにして、誰もがやりとりを閲覧できる環境をつくっているという。
「こうして情報の透明性を高めれば、僕もメンバーも、各現場で何が起きているかがすぐにわかる。リアルオフィスであれば、会話している現場に立ち会わなければ知らずに過ぎていくことも、オープンなチャット上であればすべてが見えるわけです。これはマネジメント側にとっても、正確で鮮度が高い情報を得られるという点で非常に都合がいい。メンバーにとっては、ほかのメンバーの事例や経験を共有でき、知見を蓄えられる。これらはやってみてから気付いた利点ですね。だからメンバーには、自分に起きていること、考えていること、全部伝えるように言っています。『透明性がなくなれば、うちの会社は死ぬよ』と。そのためにも、『一緒に働いているメンバーを無条件に信頼してほしい』とも伝えています」
メンバーの成功事例・失敗事例は、情報共有ツールにまとめ、業務オペレーションに落とし込んで共通化する。それにより、業務のクオリティーが全体的に向上。全員が同じ内容・同じレベルで業務を遂行し、一定の成果を出せる仕組みとなっている。
リモートワークの導入をためらう企業からは「マネジメントや評価が難しい」という声がよく聞こえてくる。
石倉さんは「行動を管理・評価しようとするから、難しくなる」と指摘する。
「マネジメントとは何かを考えると、『行動のマネジメント』と『結果のマネジメント』があると思うんです。当社では、最初から『行動』をマネジメントする気がない。会社にとって本質的に大切なのは『結果』ですから。会社が求める役割に対して、遂行できたかできなかったか。それだけを判断基準にしています」
子どもがお昼寝しているかたわらで、新規事業企画を推進
働き方ファームでは、「新規事業企画」もリモートで進行している。
2018年4月に参画した高橋真結さんは、新規事業開発の担当者だ。
大手情報サービス会社で営業・企画を手がけ、新規事業の立ち上げも経験した。順調にキャリアを積んでいたが、入社5年目、夫の転勤についていくため退職した。転勤先に移住してまもなく妊娠・出産。そして、東京に戻ってきた高橋さんは「やっぱり仕事がしたい」と思った。「当時、子どもは0歳。そばで成長の過程を見ていたいから、保育園に預けることは考えていませんでした。前の会社に戻ってリモートワークをするという選択肢もありましたが、話を聞く限り最低でも週1回は出社するのが現状の様子。週1回すらも、私は子どもから離れたくなかったんです。」
会社に所属することをあきらめた高橋さんは、自身で子どもに関するサービスを起業しようと動き出していた。そのころ、働き方ファームから希望通りの働き方を提示され、参画を決意。雇用形態は自由に選んでいいと言われ、業務委託契約を選んだ。
高橋さんは前職での経験を活かし、新規事業のプランニングから、マーケット調査、事業計画策定、営業資料の作成まで一手に担っている。勤務時間は1日2~3時間。子どもがお昼寝中、あるいは夜に就寝後、集中して取り組む。平日に時間が取れなかった場合は土日を使って調整する。
石倉社長との進捗共有は、もちろんすべてチャット上。週1回の定例ミーティングはテレビ電話ツールを使って行う。
子どもは現在3歳。来年から幼稚園に入園するが、しばらくはこの働き方を続けていくつもりだ。
リモートワークをするのに、身構える必要はない
高橋さんが週10時間勤務を開始してから2カ月。手がけた新規事業は立ち上がり、すでにオーダーも入っている。
その内容は、フルリモートワークの導入・運営のコンサルティング事業。
このサービスにより、リモートで働ける企業をもっと増やしたいと、高橋さんは言う。
「私たちのコンサルティングサービスによって、リモートワークの仕組みを導入する企業が増え、育児や介護、そのほか個人的な事情で働きづらさを感じている人たちが、もっと自由に働けるようになれればいい。そのお手伝いをしていきたいと思います」
石倉さんは、リモートワークの活用に「高い意識」は必要ないと言う。
「普通にやればいいじゃん、と思いますね。リモートワークに関する記事を見ると、『意識高い系』の内容が多いけれど、そんな気負いは必要なくて。絶対普通にできるんですよ。今、オフィスへの出社勤務が定着しているように、リモートワークを当たり前にする設計をすれば、当たり前にできるんです。特別なものと考えないほうがいい。そんな意識変革が進んでいけばいいと思います」株式会社働き方ファーム EDIT&WRITING:青木 典子 撮影:平山 諭
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