伊藤忠、ロレアル、NHKラジオ英語講師…キャリアを大胆に変える「決断」のコツとは?――関谷英里子(同時通訳者)

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伊藤忠、ロレアル、NHKラジオ英語講師…キャリアを大胆に変える「決断」のコツとは?――関谷英里子(同時通訳者)

新卒で伊藤忠商事に入社後、世界最大の化粧品会社ロレアルの日本法人に転職し、その後起業。NHKラジオ「入門ビジネス英語」の講師を務めるなど華やかな経歴を持つ同時通訳者の関谷英里子さん。

周囲から見ると大胆なキャリアの選択をしてきたように見えるが、実際はどのような軸で決断してきたのか、未経験のことにチャレンジする際の心構えを伺った。

関谷英里子さん

国内外一流講演家の同時通訳者。日本通訳サービス代表。

アル・ゴア アメリカ元副大統領、ダライ・ラマ 14 世、フェイスブック CEO マーク・ザッカーバーグ氏など一流講演家の同時通訳者。NHK ラジオ「入門ビジネス英語」元講師。「英語でしゃべらナイト」など テレビ出演多数。『同時通訳者のカバンの中』 など著作多数。慶応義塾大学経済学部、スタンフォード大学経営大学院修了(経営学修士)。伊藤忠商事、日本ロレアルを経て日本通訳サービスを開業。日本通訳サービスを経営するかたわら、自身も同時通訳者として活動。現在は同時通訳のほかにも、アメリカ・シリコンバレーの戦略コンサルティンクグファーム Blue Field Strategies 社勤務、非営利組織 Japan Society of Northern California 理事。

決断するときは、「理想vs.リアル」の対極を考える

関谷さんが日本ロレアルに転職した頃は、転職が今ほど一般的ではなかった。実際、転職活動らしいことはほとんどせず、応募したのはロレアルのみだったという。

転職理由を伺ってみると「伊藤忠を辞めたかったというより、次にやってみたいことがあったのが大きかった」という答えが返ってきた。

商社は自社製品を持たない業態のため、次は自社ブランドや商品を扱うメーカーで、商品開発をやってみたいと考えてロレアルに転職したのだという。

ロレアルでは、ニューヨークに本部のある化粧品メーカー「メイベリン」のリップとネイルのマーケティングを担当。

パッケージに表示する文言を考えたり、リップの色の名前を決めたりするような細かい仕事から、商品の年間発売スケジュールやテーマを決めるなど、商品開発や広告活動に関わる全てを担っていた。

「友人と東南アジアに旅行で訪れた際、街角で同僚たちと考えた新商品のポスターが貼ってあるのを見かけたときは、すごくロマンを感じたというか、国境を超えたプロジェクトに携わることができて嬉しかったですね」

ロレアルを辞めて通訳会社を起業したのは「自分で会社を運営したい気持ちが強くなったから」と関谷さんは言うが、転職より起業のほうが心理的なハードルは高いはずだ。

なぜその一歩が踏み出せたのだろうか。

「起業に限らず、例えば『社内異動で海外事業部に行きたい』みたいなことでもいいんですが、私はいつも対極を考えるようにしています。理想とリアルと言い換えてもいいかもしれません。

すごく上手くいったとき、ワクワクできるか。逆に上手くいかなかったとき、どんなリスクがあるか。その両方を天秤にかけて『できたらいいな』と思えたら、まず行動に移します。それからどうやったら実現できるかを考え始めればいいと思います。

メリット・デメリットの軸で考えてもいいですが、自分の中にある『好き』という気持ちや熱中できるかどうか、意味があると思えるか? という感覚を大切にしたいんです」

起業する際、関谷さんは「会社経営が上手くできる人になっている」「自社の通訳者たちが国際カンファレンスなどで活躍していたらいいな」など「上手くいったとき」のイメージと、最悪なパターンとして「会社が全然上手くいかない」「収入が得られない」などのケースを考えた。

その上で、半年収入が無くても生きていけるか? というリスクと、1年経ってもこれくらいの成果しか出なかったら辞めるか? という引き際のボーダーラインを考えてから、起業を決意したという。

「事前に目的を考えておく」ことが大切

関谷さんはスタンフォード大学のビジネススクールを卒業後、現在もサンフランシスコ・ベイエリアに住んでいる。同時通訳者として引っ張りだこだった日本での仕事を一旦置いて留学を決めたのも大胆な決断だが、その理由は2つあったという。

1つは通訳を担当しているクライアントがテック系企業やカンファレンスが多かったこと。当時日本進出を検討していたFacebookや、まだユーザー数の少なかったDropboxなどの創業者や社員が来日した際、関谷さんが通訳を担当していた。

「みんな仕事がすごく楽しそうで、活き活きしているんです。彼らがいるシリコンバレーはどんなところなのかなと思っていました。実際に訪問してみたらすごく素敵な環境だったんです」

もう1つの理由は、自分が新しい経験をしなければアウトプットが枯渇するという危機感だった。

当時の仕事は、今まで蓄積してきた経験を元に本を書く、ラジオ番組で話す、あるいは通訳の現場でも、理解した内容を通訳という形で発揮するというアウトプットが中心。「1冊目の本を書いたときから、いつか枯渇するんじゃないかとずっと思っていた」という。

「ビジネス英語で使う単語は決して多くない」という考えの元に出したのが初の著書『ビジネスパーソンの英単語帳』だった。収録されている単語数はわずか60個。英語本は収録されている単語数が多いほど売れる……というセオリーに反して、大ヒットした。

「ビジネス英語に対する自分の信条の1つとして、現場で実際に使われる単語は限られているという思いがあります。なので単語数を増やすのではなく、どうやったらもっと楽しんで英語を学んでもらえるか? を考えているうちに、自分自身が海外留学にチャレンジしてみたい……という選択肢が出てきたんです」

入試では「何のためにスタンフォードに入りたいのか」「卒業後に何がしたいか」についてのエッセイが課せられ、「卒業後のことをイメージしたら、すごくワクワクした」という関谷さんだが、実際に留学してみたら当初とは違う思いが湧いてきたという。

「卒業後には帰国して自分の会社をどう成長させていきたいとか、英語教育をこう変えていきたい、みたいなビジョンを持っていたので、『リーダーシップ』や『スケール』に関する授業を選んでいました。

でも、途中で自分は0→1を生み出すような、何かを創造することが好きなんだと改めて自覚したんです」

自分が考えていることと、実際に起こることは違う。しかし、何の目的でやるのか? を「考えておくことに意味がある」と関谷さんは語る。

新しいことにチャレンジする際は、その目的を明確にしつつ、一方で半年後の自分は考えが変わる可能性もある。そうなってもいいように、事前の目的とそうならなかった場合の両方を考えておくのが良さそうだ。

やりたいことが分からなくてもいい

やってみたいことが見つかったら、理想とリアルを考えてチャレンジするかどうか決めればいい。

しかし、そもそも「やりたいこと」が見つからない、「自分の好きなことが分からない」場合はどうすればいいのだろうか。

関谷さんは「明確に分かっている人のほうが少ないんじゃないかな。だから分からなくても大丈夫」と笑う。

仕事の楽しさは、友だちと一緒にいるときのような「楽しさ」とはちょっと違う。

全てが上手くいくわけではないし、厳しい面もあるが、ときどき「やった!」という瞬間がある。「それが仕事を続けるポイントの1つなのかな」と関谷さん。

その瞬間を感じるためには、たとえ追い込まれても「やり切った」経験が不可欠だという。ただ言われたことを何となくやっているだけでは、その瞬間を見出だせないままかもしれない。

「もしかしたら『一生懸命やること』を遠慮している風潮があるのかもしれません。やり切った経験はちょっとしたことでもいいんです。会社の歓送迎会で幹事をやって、参加者全員が楽しめる会をやるのでもいい。

一生懸命頑張ったことが良い結果に結びつくという経験を日々積み重ねると、新しいことに取り組む際の一歩が踏み出しやすくなるのではないでしょうか」

その上で、一生懸命やることを互いに応援し合える環境に身を置くといい、と関谷さんは語る。

関谷さんの住むベイエリアでは何に対しても前向きな人が多いという。

「ちょっとした世間話でも、『That’s amazing!!(それ、とってもステキ!)』って相槌を打ってくれるんです。え、私が今言ったことのどこがamazingなんだろう? みたいな(笑)。でもamazingって言ってくれると想定外に嬉しいし、話している方も気持ちが盛り上がるんです。

ベイエリアには前向きで、周りを応援する空気があるけど、日本でも自分から発信してみたらいいと思います。自分がすごいと思ったこと、感動したことをアウトプットしていくうちに、周りも『自分もやってみようかな?』と徐々に前向きな空気感ができていくのではないでしょうか」

感情を出して、泥臭く一生懸命何かに取り組む際、最初は「失敗したらどうしよう」「上手くいかなかったら恥ずかしい」と思うかもしれない。

でも、失敗して泣くようなことがあっても、それは悪いことではない。心が折れそうな問題だらけのプロジェクトも、後から振り返ったら「あれも良い思い出だ」と思えるようになる日が来るはずだ。

小さなことでもいいから「一生懸命やったら上手くいった」という経験を積む。

その上で、チャレンジしたいことが見つかったら「理想とリアル」の対極を考え、自分の中のワクワクした気持ちを大切に決断する。

その繰り返しで、半年後には考えてもいなかった自分と出会えるかもしれない。

まずは目の前の仕事から「やり切る」クセを身に着けよう。

文・筒井智子 写真・壽福 憲太

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