麻生太郎氏のスーツ、フルオーダーとしては決して35万円は高くない理由

麻生太郎氏のスーツ、フルオーダーとしては決して35万円は高くない理由

フルオーダーのテーラーなら仕立て代だけで15万円以上かかる

少し前に、麻生氏のスーツが35万円で創られていると話題になっていましたが、一般的なフルオーダーのテーラー(Tailor:仕立て屋)でオーダー(Be-Spoke:誂え)すると、仕立て代(付属&工賃)だけで、15~25万円ほどかかります。店によっては30万円以上のところもあります。

※参考として、ある百貨店では16万円、銀座の有名洋服店25万円、昭和天皇のスーツを仕立てていた洋服店では30万円と聞いたことがあります。ちなみに、弊社は13万円です。

その上に、生地代を加えると35万円は決して高額ではありません。どちらかというとフルオーダーでは一般的なプライスです。国際社会で世界の首脳と会って会議を行う政治家の着るスーツとしては、高いとは言えないと思います。

安価なスーツとフルオーダースーツとの違いは「生地」と「仕立て工程」

ここで感じる疑問として、以下のようなものが挙げられるでしょう。

Q 3着5万円でオーダースーツを売っているお店もありますが、麻生氏の35万円のスーツとどこが違うのか?
A 一言で言うと、生地の品質の差と仕立て工程の違いです。

スーツのオーダーには大きく分けて次の3種類があります。

1.パターンオーダー

既製品メーカーの仕様規格のスーツを試着した上で、上着は着丈や袖丈を、スラックスはウエストや裾丈の縦寸法の調整は可能ですが、体型補整は出来ません。
特徴としては低価格、短期納品の商品だと言えるでしょう。

2.イージーオーダー

安価なオーダースーツは、このイージーオーダーと呼ばれるものがほとんどです。縫製工場独自のマスターパターンのゲージ服を試着し、顧客の体型を確認します。工場仕様の範囲内でシルエット、デザイン、ディテールを、オプションとしてボタンや裏地も選択できます。

しかしあくまで、補正工場仕様のマスターパターンが基準ですので、細かな補正には限度があり、顧客とフィッターとの完成品のイメージが、異なったものが出来上がってくる可能性は否定できません。

3.フルオーダー

本来のテーラー(Tailor:男子の仕立て屋)が創る、Be-Spoke(お誂え)注文服の原型。1着のスーツを創るのには、延べ100時間以上かかります。

フルオーダーは、顧客だけのために、顧客の身体にフィットして、着易く、着心地よく、こだわりに応え、自然にスマートに見えるように創られます。

スーツ創りは、採寸者(フィッター)が、手書きで製図、裁断を行って進めていきます。お客様とのコミュニケーションを大切に、細かいくせ、体型の捻じれやバランスを観察しながら、20か所以上を採寸します。この段階でフィッターとしては、大まかな製図を思い描いています。そして、デザインやこだわりのディテールなどの要望をお聞きし、生地、裏地、ボタンを選びます。

ひとの身体は、千差万別、10人10色、左右対称ではありません。採寸した寸法を基に、一人ひとり、1着1着手書きでお客様のこだわりのデザイン、ディテールなどを加味して製図を行います。身体が極端にアンバランスな場合は、パーツごとに左右、前後、上下を違えて型紙を作ることもあります。その型紙を選ばれた生地の上に載せ裁断します。

そして、フルオーダーで、もっとも重要な工程の「仮縫い」をします。裁断された生地を仕付け糸で仮に仕上げ、身体のバランス、フィット感やこだわりのデザインなどを確認します。場合によっては2、3回することもあります。

基本的には一人の職人がその1着を縫い上げます。顧客の身体に合わせた芯造り、肩パットの左右差、付け位置、肩や袖付けのいせ込み、追込み、ダーツ量、コテ(アイロン)操作の手加減をし、自然と身体に馴染むスーツ創りをします。

仕立ての良いスーツは威厳があり周囲に安心感を与える

麻生氏をはじめ、安倍晋三首相のスーツも手縫いの味が随所に見られ、素晴らしい仕上がりのスーツです。特に肩周りが身体に添うようにフィットしています。かなり良い生地です。

欧米の要人や金正溫の国民服や習近平、アメリカのトランプ大統領のスーツも身体にフィットした仕立ての良い、上質の生地のスーツを着ています。仕立ての良いスーツは威厳を持って、周囲に安心感を与えます。

話題になった麻生氏の着ていたスーツですが、あの生地ならもっと高いのではとも思いました。もしかすると、永年の顧客(お得意様)としての割引があるのかもしれませんね。

また、前アメリカ大統領のオバマ氏のスーツスタイルは身体に添って素晴らしいスーツです。聞くところによると、あのスーツはスキャーバル社の生地で8,000ドルほどとの事です。

ちなみに、弊社のお客様は政治家、学者、医師、弁護士などソサエティーの方もいらっしゃいますが、多くは一般市民の方がほとんどです。ただ、言えることは、皆様こだわりのポリシー、デザインを持っておられます。自分だけの、自分のために創られた、オリジナルの手づくりのスーツ。こだわりの対価としての35万円は決して高額ではありません。

スーツの生地の違いについて

最後に生地に関して簡単に説明します。ポリエステル100%やウールとポリエステル混紡の生地は仕入れ値でメーター1,000円前後からありますが、スーパー150s、スーパー220sなどの極細番手の生地やカシミヤなどは仕入れ値だけでメーター30万円以上のものと幅広くあります。

ちなみに、弊社でお仕立てしたもののなかで過去最高価格はビキューナー100%のコートでお仕立て上り125万円でした。バブル全盛期の頃です。

当然のことながら、仕立て上り3着5万円では生地もそれに見合うものを使用することになります。

35万円のスーツと言いますが、仮に仕立て代が30万円ならまさか、1,000円の生地は使わないでしょう。基本的に、仕立て代に見合った生地が使われていますので、麻生氏の仕立て上り30万円~35万円というのは妥当なところではないでしょうか。

(田中 輝彦/オーダースーツ職人)

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