仲良しすぎてパンツも貸す!? 今再注目されている日本の文豪について聞いてみた。【石井千湖インタビュー】

レトロ風なデザインが素敵な『文豪たちの友情』。

最近、日本の文豪について目にする機会が増えたと思いませんか? ゲームなどで人気が再燃しているそうなのですが、学校で習ったことくらいしか文豪についてはわからないし……。そんな人のための、文豪同士の関係を「友情」をテーマにわかりやすく紹介する『文豪たちの友情』(立東舎刊)という本が出ました。今回は、著者である石井千湖さんに、文豪たちの魅力について語ってもらいました。

今回お話を伺った著者の石井千湖さん。

ーーご著書の『文豪たちの友情』は、明治から昭和までに活躍した文豪同士の友人関係にスポットを当てた本ですね。最近こういういわゆる「文豪」はどうして人気なのでしょうか?

石井 『文豪ストレイドッグス』『月に吠えらんねえ』『文豪とアルケミスト』など、文豪やその作品をキャラクター化した漫画、ゲームがヒットしたことが大きいでしょうね。モデルにした人物を写実的に描くのではなく、作者の取り入れたいエッセンスだけを取り入れているところがそれらの作品の特色だと思います。

彼らの関係は、とてもややこしくて、とても美しい。

 たいていの人は、国語の教科書で文豪と出会います。学校の授業で強制的に読まされるわけですよね。押しつけられたものには興味を持ちづらい。生きていた時代が違うから、すんなり理解できない部分もありますし。いったん実在人物と切り離して、物語のキャラクターとして見ると愛着がわきやすくなるのかもしれません。キャラクターとして好きになった文豪のことをもっと知りたくて、多くの人が実際に作品を読む。で、文学そのものの魅力に目覚めてしまう。そうやって読書の楽しみが広がっていくのは素晴らしいことじゃないでしょうか。

ーー『文豪たちの友情』では全13組を紹介していますが、中でもお気に入りのエピソードを教えてください。

石井 うーん、どのエピソードも気に入っているので難しいですね。もちろん仲良くなるまでの過程や別れの切なさには惹かれるのですが、細かい話が好きです。国木田独歩と田山花袋が同居していたときに豆腐ばっかり食べていたとか、中原中也と小林秀雄がドミノで遊んでいたとか、芥川龍之介が佐藤春夫にパンツを貸したとか(笑)。

パンツを貸したエピソードが載っている「芥川龍之介と菊池寛」のイラスト。(『文豪たちの友情』より)

ーーこの本を読んで一番気になったのは佐藤春夫でした。彼はやたらと交友関係が広いですよね。こんなに友情にあつい人は他にいないのではないでしょうか。

石井 この本に出てくる人はみんな友情にあついと思いますよ。ただ、佐藤春夫は誰かと親しくなると、その人について記憶していることを詳しく書く。だから資料がたくさん残っていて。あと、自分は筆不精だけれども友達からの手紙は一切捨てなかったそうです。本を読んだくらいで「こんな人」というのはおこがましいのですが、愛情が濃くて深い人だったんじゃないかなと。
 交友関係が広いのは、頼まれた仕事は断らず、誰でも家に出入りさせたからでしょう。門弟だった井伏鱒二、檀一雄、中谷孝雄、安岡章太郎、山本健吉が「文芸」(1964年7月号)の座談会で春夫の思い出を語っていますが、怒ると怖いけど話はおもしろくて、聞き上手でもあったと。何か事件が起こると〈それは解決しなければならん〉と言って関係者を呼び出すんだそうです。なんだか安楽椅子探偵みたいな感じ。でも、檀一雄いわく〈解決は主眼ではない〉(笑)。興味があるから聞きたいだけなんですね。人間に対する好奇心が強かったのかなと思います。

ーー鈴木次郎さんとミキワカコさんによる挿絵も印象的ですね。このお二人にお願いしたのはどういう経緯だったのでしょう。

石井 鈴木次郎さんは単純に大ファンだったのでお願いしました。もう自分の本なんて二度と出ないかもしれないし、一生の記念にと思って(笑)。引き受けていただいたときは、ものすごくうれしかったですね。本文中で引用した檀一雄の『小説太宰治』の〈笑うと眉毛の尻がはげしく下る〉というくだりをカバーイラストの太宰の表情に反映してくださっていて感激しました。

鈴木次郎による「太宰治と坂口安吾」のイラスト。太宰の表情に注目!(『文豪たちの友情』より)

 ミキワカコさんは『くれなゐの紐』(須賀しのぶ著、光文社)の装画を描いていらして、色っぽくてかっこいい絵だなと印象に残っていたんです。ラフを拝見したとき愛猫家の室生犀星に猫を抱かせてくださっていたので、愛犬家の川端康成のイラストには犬を描いていただくようにリクエストしました。

ミキワカコによる「室生犀星と萩原朔太郎」のイラスト。猫がポイント。(『文豪たちの友情』より)

ーーこの本を読み終えると、学校の授業で習ったせいか、なんだか近寄りがたいイメージもあった文豪がぐっと身近に感じられました。いい意味で人間っぽくて、『文豪たちの友情』を読んでからそれぞれの作品を読むと、新鮮な驚きがありそうです。『文豪たちの友情』を読んだ後に読んでほしい、という小説はありますか。

石井 芥川龍之介をはじめとした作家や詩人が実名で登場する室生犀星の『杏っ子』とか、自伝的な要素がある小説は交友関係を知って読むとより楽しめるかもしれません。あとは友情のおかげで今も読めるという意味で梶井基次郎の『檸檬』でしょうか。
 どの文豪の作品でも、わたしの本を読んだことがきっかけで手にとってくださったら書いた甲斐がありますね。

いかがでしたか? 私は、特に佐藤春夫と堀口大學の関係がとても気になりました!「友情」なんて身近なテーマで文豪を見てみると、こんなにも新しい魅力が見えてくるのですね。『文豪たちの友情』を読んで、ぜひ彼らの世界をのぞいてみてください。

撮影:Rの広報ガール


『文豪たちの友情』

著者:石井千湖
イラスト:鈴木次郎、ミキワカコ
定価:本体1,500円+税
立東舎発行/リットーミュージック発売

PROFILE 石井千湖(いしいちこ)
1973年佐賀県生まれ。書評家、ライター。早稲田大学卒業後、書店員を経て、現在は書評とインタビューを中心に活動。執筆媒体に「読売新聞」「産経新聞」「週刊新潮」「週刊文春」「小説すばる」「ダ・ヴィンチ」などがある。共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』(どちらも立東舎刊)。

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