『都知事失格』は、知事を経験した人が知る正しい情報を伝える一冊——アノヒトの読書遍歴:舛添要一さん(前編)
元東京都知事として知られる舛添要一さん。政治・経済などの分野で活躍を続け、マスコミなどで論評活動を繰り広げてきました。かつて北九州市に住む母親を、5年もの間、遠距離介護した経験から、1998年に『母に襁褓をあてるとき』(中央公論社)を上梓し、介護保険導入にあわせて世間に介護の在り方を訴えました。ほかにも数多く執筆しており、単著だけでその数は50冊以上にも上ります。知事退任後の2017年6月には『都知事失格』(小学館)を出版した舛添さん。普段から多く本を読むといい、今回は日頃の読書生活についてお話を伺いました。
——まず、昨年出版された『都知事失格』。こちらはどんな内容になっていますか?
「知事退任後はいろいろと反省することもありましたので、一年間くらいは静かに暮らしていたんですけど、その間、小池都政になっていろいろな問題も出てきました。その中には現実に知事をやった人しか知らない問題もあるので、非常に誤った報道、例えば豊洲の問題にしても間違ったデータが出たりしていましたので、やはりこれは正しい情報を世に出したほうがいいなと思い、そういったことをメモにして綴ったのがこの本です」
——確かに、豊洲の問題はかなり大きく報道され、今もなお世間から注目されています。
「実は、都庁のホームページにアクセスすれば、私がどういう議論をして、どういう指示をしたかが全部記録として残っているんです。この本もその記録をそのまま写したような面があります。しかしそういった情報が無視された状態で記事になって大きく報道されました。そこで正確なデータに基づいて、改めて豊洲の問題は何が問題なのか。具体的にどうすればよいのか。築地はどうすべきか。オリンピックは大丈夫か、などといったことの基本的な資料を集めたつもりなので、関心がある方はぜひお読みいただければと思います」
——実際に知事になられた舛添さんだからこそ書ける一冊ということですね。ところで普段から多く本を読まれているそうですが、頻度はどれくらいでしょうか?
「政治活動をしていた頃は月に一冊くらいでしたが、今は一日に一冊くらいのペースですね。片一方では政治や経済の本を読んで、時事物も読んでいく。もう一方では歴史が非常に好きなので、日本史だと特に幕末〜明治維新に掛けての本はかなり多く読みました。あとは国際政治の理論も読みますが、最近は朝晩必ず読んでるのは中国とか日本の古典なんです。例えば論語や四書五経などといった中国の古典。それを朝読んだら、今度は寝る前は日本の古典を読むというようなサイクルでしょうか」
——やはり幼少の頃から本はお読みになっていた感じでしょうか?
「高校の頃から非常に好きで、受験勉強をやりながら、例えば夜中の12時ぐらいまで受験勉強をしたら、そこから2時とか3時くらいまで本を読んでいました。特にレフ・トルストイが好きで『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』などを読みました。あとは夏目漱石。なので文学青年みたいになりたいなぁと思っていたんですが、大学では政治学を勉強したのでさまざまな分野の本を読みました。政治学というのは文学から経済から社会学から何もかも含まれますから。それからヨーロッパへ留学したのでヒトラー関連やフランス文学など、東大の助教授に就いたときにはビジネスに関連した本を読んだりしまして、かなり幅広く読んでいましたね」
——その中で、今世の中に対しておすすめしたい一冊というのはありますか?
「ご承知のように、今は仮想通貨が非常に話題になっていますが、中島真志さんの『アフター・ビットコイン』という本はおすすめです。すでにやっていらっしゃる方は分かると思うんですが、『そもそもビットコインってなんだ』『仮想通貨ってなんなんだ?』という方におすすめです。中島真志さんは非常に分かりやすく書いています」
——仮想通貨に関してさまざまな本が溢れている中で、この本はどんなところがおすすめという理由を教えてください!
「ほとんどの本が、コンピューターやインターネットに非常に強い方が解説しているんですが、それはそれでもちろん分かります。一方では経済の専門家が解説するんですが、両方専門な人ってなかなかいないんですよ。中島真志さんは日銀にいた経済の専門家なので、通貨などといったこの技術がよく分かっていらっしゃる。だから非常にわかりやすい本なんです。それで、結論としては『やっぱり仮想通貨はちょっと危ないよ』ということが言えると思います。ビットコインを一から知りたいという人はもちろん、実際に取引やっているという方にもおすすめです」
——ありがとうございます。後編では舛添さんの人生に影響を与えた本などをご紹介します。お楽しみに!
<プロフィール>
舛添要一 ますぞえよういち/1948年生まれ、福岡県八幡市(現北九州市)出身。国際政治学者、政治家。2001年7月、第19回参議院議員通常選挙に自由民主党公認で比例区から立候補し、参議院議員に初当選した。その後、参議院自由民主党政策審議会長、第8・9・10代厚生労働大臣、新党改革代表などを歴任し、2014年2月に第19代東京都知事に就いた(2016年6月退任)。その傍らで著書も多く出版し、『日本人とフランス人――「心は左、財布は右」の論理』(1982年、光文社)をはじめ、『東京を変える、日本が変わる』(2014年、実業之日本社)など、単著だけでその数は50冊以上にも上る。知事退任後の2017年6月には『都知事失格』(小学館)を出版した。
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