【「本屋大賞2018」候補作紹介】『キラキラ共和国』――妻となり母となった代書屋の物語
BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2018」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは小川糸著『キラキラ共和国』です。
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「本屋大賞2017」にノミネートされ、多部未華子主演でドラマ化もされた『ツバキ屋文具店』。依頼人になりきって手紙を代筆する「代書屋」の活躍が描かれましたが、本書はその続編として新たに物語が紡がれます。
主人公の雨宮鳩子は、確執があった祖母の死を知り8年ぶりに鎌倉に帰省。祖母は「ツバキ文具店」を営みながら、江戸時代から続く代書屋を家業としており、鳩子の師匠でもありました。鳩子は代書屋を受け継ぐことになります。
代書屋は依頼人の内容に合わせた文章や字体、使用する筆記用具に至るまで、本人の思いに応えるべく、全身全霊で手紙と向き合う仕事。もともとは右筆(ゆうひつ)と呼ばれた職業で、お殿様に代わって代筆をしていました。前作『ツバキ屋文具店』では、鳩子のもとに、様々な事情を抱えた人々がやってきましたが、本書でもそれは健在です。
今作は前作から1年後の物語で、鳩子はご近所のカフェを営む守景蜜朗と結婚したと同時に6歳の陽菜の母になりました。陽菜とはかねてから文通相手として交流があり仲良し。そんな鳩子に代書屋としての仕事が舞い込みます。
目の不自由な少年が母に感謝の気持ちを伝える手紙のサポート、「離婚したい妻」と「離婚したくない夫」の双方の手紙を代筆など、どれも家族を持った鳩子には、他人事ではない胸に刺さるようなものばかり。鳩子はどんな文章で応えていくのでしょう。本シリーズの特長である鳩子の直筆が挿絵として見ることができるのも大きな魅力です。
さらに本シリーズでは、代書屋の仕事だけでなく、鳩子の心情描写も読者を惹きつけます。前作では代書屋という仕事を通して、自らの過去に向き合い、祖母の気持ちを理解していきました。今作では通り魔に殺された蜜朗の前妻・美雪という存在の大きさに葛藤。妻となり母となった鳩子の心情も数多く描かれます。彼女が導き出した答えとは?
前作と引き続き代書屋の仕事とともに、「家族」というテーマが胸を揺さぶる本書。読後には、きっとあなたにとって大切な人の存在がキラキラと輝き始めるはずです。
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