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3,700匹の「たい焼き」と向き合った男が選ぶ、東京の名店とは?

3,700匹の「たい焼き」と向き合った男が選ぶ、東京の名店とは?

 『東京のたい焼き ほぼ百匹手帖』(立東舎)という書籍がある。

著者は、イワイサトシさんという男性。

無類のあんこ好きがこうじて、これまでにたい焼き約3,700匹、豆大福約2,500個を食べてきた、通称「あんこ食う大魔王」。本業はグラフィックデザイナーだそうな…。

一体どんな人なんだろう? と疑問に思っていたところ、ご本人にインタビューする機会を頂いた。

「たい焼き」のスペシャリストに、初心者が東京でまず足を運ぶべきお店について話を聞いてみると、次第に、イワイ氏がどんな想いで「たい焼き」と向き合っているのかが見えてきた。

「僕は、そこに寝そべってみたい。
 挟まれてみたい。
 たい焼き側になりたい」

───いきなりですが、たい焼きビギナーは、どの店から攻めればいいですかね?

「麻布十番の『浪花家総本店』さん、人形町の『高級鯛焼本舗 柳屋』さん。新宿四谷の『たいやき わかば』さん。歴史が古い順ですね」

───創業順っていうことですか?

「そうです。最初にたい焼きを作ったのが明治42年創業の『浪花家総本店』さん。次が大正5年創業の『高級鯛焼本舗 柳屋』さんです。

『高級鯛焼本舗 柳屋』さんはあんこ屋さんに勤めていた人が始めた店なので、あんこに自信があるんです。昭和28年に行って、『たいやき わかば』さん。皮にもちもち感が出て、だんだんステップアップしてきました。

この御三家をクリアしたら、次は一度にいっぺんに焼く『連式』という焼き方をしているお店をオススメします。これで有名なのが恵比寿の『たいやきひいらぎ』さん。一匹に対して、30分かけて焼くんです。間に合うの?って思うんですが、実際にお店に行ってもらえればわかります。カウンターがあって、周りが焼き型で囲まれているので、一回に50、60匹は作れるんです。

僕はいっぺんそこに寝そべってみたい。挟まれてみたい。たい焼き側になってみたいんです」

───行き着くところまで行くと、そうなるんですね。

「さすがに『危ないですよ』って、真っ当な指摘をうけました」

───(笑)。3,700匹の「たい焼き」と向き合った男が選ぶ、東京の名店とは? 麻布十番『浪花家総本店』3,700匹の「たい焼き」と向き合った男が選ぶ、東京の名店とは? 四ツ谷『たいやき わかば』3,700匹の「たい焼き」と向き合った男が選ぶ、東京の名店とは?

恵比寿『たいやきひいらぎ』

「たい焼きは『食べる民芸品』という
 ポジションで推してます」

───東京以外で、地域によって違いはあるものなんですか?

「そもそも東京のものなんですよ、たい焼きは。同心円状に広がってるんです。九州とか行っても、たい焼きはほぼないと思います。地方では、ご当地モノに変わるんです。有明海だったらムツゴロウの形になったりして、“たい” 焼きじゃなくなる、っていう宿命を背負っているわけです」

───局所的に熱がある場所とかは?

「あまり聞いたことないですね。地方の知人に聞いたら、お祭りの出店などで食べたことはあるけど、お店で買って食べた記憶はない、と言っていました。

やっぱり東京の文化だし、東京の民芸品。『食べる民芸品』というポジションですね。僕はそう推してます」

「1匹単価3万円くらいですが、
 このためだけに伊豆大島へ」

───イワイさんの中で、邪道だなっていうのはあるんですか?

「ギリギリで、クロワッサンたい焼きは除外ですかね。生地を流してないっていうのがやっぱり…。生地を敷いて、あんこを入れて、型でグッて押すんですよ。それはちょっと君たち…ってなっちゃう。でもやっているのがたい焼き屋さんだし、『銀のあん』さんみたいなお店もあるので、あまり強くも否定できない。最近はバリエーションのひとつとしてアリだな、と思っています」

───餡の種類とかバリエーションが増えることに関してどう思いますか? そういうのも食べますか?

「食べますよ。栗とか、季節ものも食べますし、最近だと抹茶ものとかもありますし。餡子、抹茶だけとか、皮も抹茶だけとか、緑色のたい焼きとか」

───そういう “外し系” たい焼きでオススメはありますか?

「伊豆大島『島京梵天』さんの「酵素玄米トマトリゾットたい焼き」ですね。純食事系。なかに玄米トマトリゾットが入ってるんです。泊まれる古民家カフェをやっていらして、朝食用にも出してるんですよね」

───なるほど。『東京のたい焼き ほぼ百匹手帳』の本の導入で書いてあるところですね。

「そうです。店構えもたまらないんです。店主がまたファンキーなオヤジでね。『島の恵みをふんだんに使った』って、これだけは言ってって言われてます」

───(笑)。まさか、伊豆大島には、これを食べるためだけに?

「そうです。これのためだけ。交通費含めたら、1匹単価は驚くほど高いですからね。3万円くらいかな(笑)。でも、この感じがたまらない」3,700匹の「たい焼き」と向き合った男が選ぶ、東京の名店とは?

伊豆大島『島京梵天』の「酵素玄米トマトリゾットたい焼き」

「食べ方の流儀…? ないです。
 お店側のメッセージが隠れているので」

───食べ方の流儀ってありますか? たとえば尻尾から、とか。

「よく聞かれますけどね。ケースバイケースです。たい焼き屋さんによって、袋への入れ方が違うんですよ。頭から入れたり、尻尾から入れたり。中には横開きの袋もあるので、背中から入れたりとか。ハンバーガーみたいに開いてる袋のやつとか。

これは店側からの何らかのメッセージだと思っているんです。出されたまんまを食べてほしいっていう。で、持ち帰ったのを頭から食べたり尻尾から食べたりしてみたんですけど、なんかあんまりね、どこから食べるっていうのは…。

でも、『一丁焼き』っていう、いわゆる薄皮のやつ。尻尾まであんこ入ってますよ、と推してるやつは、絶対に頭から食べたほうがいい。たいがい頭に餡子が密集していて、尻尾は平たいじゃないですか。最後のサクサク感を残しておくと、食後感がいいです。

そういえば、五反田の『ダ・カーポ』さんっていうところは、絶対に頭から食べてほしい。店長さんに重々言われてるんです。お店に行くと聞かれますからね。『うちのたい焼き知ってる?』って。知ってますっていうとなんにも言われないけど、知らないって言うと『必ず頭から食べてね』って」3,700匹の「たい焼き」と向き合った男が選ぶ、東京の名店とは?

五反田『ダ・カーポ』

「僕は自分の縛りで勝手に奥深くしてるので、
 好きに食べてください(笑)」

───まだ行けてないお店はありますか?

「5回行って5回食べられなかったお店がありますね。押上にある『工藤菓子店』っていうちっちゃい駄菓子屋さんで、おばちゃんがたい焼きも売ってるんですよ。

ウワサによると、14時から焼き始めてるみたいで。ここは子ども向けなんですよ。駄菓子屋さんだけに、案の定近くに小学校があります。大人を相手にしてないから、行くたびに外してます。でもネットで調べると『買った』っていう情報があるんですよ。大人がダメなのかなって最近思うようになりましたね。でもネットじゃ大人も購入している。あと夏場の購入報告がないので夏はダメなのかな?とか。けっこうあるんですよ、そういうところ」

───作戦を立てないとですね。

「本当ですね。初めて行くお店は基本的に焼きたてを食べたいので。開店直後だと焼きたてなんですけどね。時間を狙うのがけっこう難しい。

『秩父そば 東村山店』っていう蕎麦屋さんに、何時からですか?って聞いたら、朝の9時って。都心から東村山に9時はちょっときびしい。いつでも行ける距離ですけど、早起きして、テンションが上がらないとなかなか。気分としては伊豆大島に行くのと変わらないですから」

───つまり、たい焼き遠征ですね。

「そういう時間縛りで行けない、っていうのはありますね。自分の勝手な縛り。別に14時くらいに行って、焼いてあるのを食えばいいじゃんって言われるんですけど、やっぱり最初は焼きたてが食べたいですから」

───奥が深いですね。

「勝手に奥深くしてるんです。自分でハードルを上げてるだけなんで、自由に好きに食べていただきたいです(笑)」

 

 

                                                    *

『全てのたい焼きは平等に美味しい』がイワイさんの持論。

めちゃめちゃこだわりが強くて、熱狂的に語られるのかな…と少し身構えていたけれど、そんな気持ちを抱いていたことが少し恥ずかしくなった。

イワイさんは、どこまでも低姿勢。どんなたい焼きでもまったく否定することなく、それでいて押し付けがましくもない。その愛はどこまでも深く、話を聞いていた私の心をほっこりと温めてくれた。Photo by 「東京のたい焼き ほぼ百匹手帖/立東舎 刊」3,700匹の「たい焼き」と向き合った男が選ぶ、東京の名店とは?『東京のたい焼き ほぼ百匹手帖』著:イワイサトシ(立東舎)

今までに約3,700匹を食べたという著者が、東京のたい焼き店を紹介。その数はタイトルのとおり、ほぼ100店!(実際は102店) 。各店のたい焼きの魚影はもちろん、著者の目線から語られる店の雰囲気なども詳しく載っています。たい焼きに対する、異常なまでの愛が、じんわりと優しく伝わってくる一冊です。

イワイサトシ

東京のたい焼き約3,700匹、豆大福約2,500個を食べまくり、“その筋”では「あんこ食う大魔王」と呼ばれる。その知見をもとに『東京のたい焼き ほぼ百匹手帖(立東舎)』、『私がしあわせな東京豆大福五〇の覚書き(TOKYO NEWS BOOKS)』を執筆。二冊共にグルメ本としては異例のロングセラーとなり、現在もテレビ、ラジオ、新聞でも「たい焼き」「豆大福」の魅力を伝えている。たい焼きを始め、あんこを使うお菓子の開発アドバイザーも手掛ける。本業はグラフィック・デザイナー。

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