南房総低山ハイク。とみやま水仙遊歩道で満開の水仙を愛でる旅
車窓に広がる海は、東京湾と相模灘をつなぐ浦賀水道だ。遠く対岸には神奈川の三浦半島が見えている。今回の低山ハイクは、千葉県南房総の富浦と岩井を歩く。1日目は海と岬の冒険、2日目が山行の予定だ。岬の冒険と里山歩きを存分に楽しむべく、動きやすくて滑りにくい靴、そして海風や自然道に適した服装で向かう。油断なく、万全の格好でいざ房総へ!
JR東京駅を出発し、JR蘇我駅で内房線に乗り換え、JR富浦駅まで約2時間半。早朝に都内を出てかなり眠いはずだけれど、富浦駅への到着を前に、すでに気分はアゲアゲである。至極の南房総旅、いよいよスタートだ。
平日でも正午過ぎにほぼ完売!人気店でランチ
始発で東京を出発したので、早朝の原岡海岸に立つことができた。富浦駅からは徒歩10分ほどだ。目の前には真っ青な東京湾の外海と憧れの原岡桟橋。静かに波を受けながら、沖合まで真っすぐにのびている。対岸には神奈川、その隣は東京なのだから、なんというか“職場”が見えている安心感のようなものがある。平日の朝っぱらから遊んでいるという罪悪感のようなものを感じないのは、いつ仕事で呼び出されても戻れる気がするからだろうか。いや戻りませんけど。
誰もいない海を眺める。都会の喧騒の中でもがきながら仕事をする日常と相当なギャップがあり、それだけでも波とともに心も洗われる思いだ。さあ、最初の目的地は大房岬(たいぶさみさき)の「おさかな倶楽部」。評判の高い海の幸を“餌”に、20分ほどてくてく海岸線を歩く。
“浜の台所”とも呼ばれる岩井富浦漁協直営の「おさかな倶楽部」は、とにかく魚がうまい。メニューボードには旬な魚がズラリと並び、目移りしてしまう。とにかくおなかがすいていたので、定番の「まんぷく定食」一択で。刺身、フライ、煮魚と欲張りなメニューに舌鼓を打ち、大満足である。
ここは開店から1時間が勝負だ。平日のこの日ですら、11時の開店とともに順調にお客さんが入り、12時過ぎにはほぼすべてのメニューに「完売」の札がついた。なんとも衝撃。
小さいけど大満足!大房岬でオトナの大冒険
食後はいよいよ大房岬を探検する。地図で確認してみると、大きな房総半島の中に極めて小さな突端がちょこっと飛び出している。南房総国定公園の中にあり、自然や文化遺構がよく残っている小さな岬で、その昔は「大武佐」と書いたそうだ。
腹ごなしに向かったのは、芝生が広がる「海岸園地」だ。竹林に囲まれた遊歩道から一気に視界が広がると、まぶしい海が目に飛び込み、日差しと海風が気持ちいい。
荒波と強い風とに浸食された断崖がダイナミックで、波打ち際の「南けい船場」付近からは、およそ1,000万年前に堆積した火山灰などが幾層にもなる様子がよくわかる。
小さな岬だが、南房総の歴史はしっかり刻まれている。室町時代にこの地を平定し、安房里見氏の始祖となった里見義実(よしざね)は、ここ大房の行者窟の不動滝で身を清めて武運を祈った。「大いに武を佐(たす)けた」ことから大武佐となり、現在の「大房」の地名由来となった。時を経て幕末から近代になると、外国船などから首都・東京の防衛を果たす要塞となり、今もその軍事遺構が生々しく残る。
岬の西端には、弁天さまこと弁財天の洞穴がある。弁財天とは、もともとヒンドゥーの女神サラスヴァティが起源とされ、日本では九州の宗像に祀られる女神のこと。厳島、天河、竹生島、金華山そして江ノ島が日本五大弁天として知られており、水辺に祭られることが多く、海はもちろん山中の湖沼などでもよく見かける。一年の多くを各地の低山で過ごすぼくとしては、山でよく会う女神だったりする。というわけで、日ごろの感謝にお礼参り。
洞穴の岩肌はいささか滑るので、慎重に下りる。誰もいない洞穴なんて、ともすれば不安になりそうなものだが、ここは包み込まれるようで素晴らしく居心地がよい。現地に行けば普通に案内板が出ている場所だが、厳かに守られてきた場所だけに、荒らさず静かに過ごしたい。
その昔、この付近の海賊を役行者(えんのぎょうじゃ、修験道の開祖)が捕らえてこの洞穴に封印した。後に比叡山延暦寺座主となる慈覚大師(じかくだいし)によって海賊の子孫だった娘が救い出され、金龍となって天に昇ったという。ちなみに、龍は弁財天の化身でもある。そういうことを空想してみると、この洞穴ひいては大房岬の物語が面白くなる。
表に出ると、ドラマチックな落日が始まろうとしていた。岬から急いで桟橋に戻り、地球の営みの大きさと、対岸にともる都市の営みとの共生を目に焼き付けた。
さて、日がな一日遊んだが、動いた範囲は富岡駅から大房岬の間だけ。おまけに宿泊するホテルもこの大房岬にある「南房総富浦ロイヤルホテル」だ。(2018年4月1日よりホテルの名称がHotel&Resorts MINAMIBOSOに変更予定)コンパクトに冒険できるのが、このコースの良さだ。先にチェックインして荷物を軽くするのもいいだろう。
名物「さんが焼き」とアジフライをお供に水仙の里へ
朝から快晴の中、富浦駅から電車で一駅のJR岩井駅で降りる。徒歩約15分の距離にある、道の駅「富楽里(ふらり)とみやま」を目指して歩くのだ。途中、やたらと目立つ双耳峰の山が目に入る。犬の耳のようにふたつの山頂を持つこの山は、『南総里見八犬伝』の舞台となった「富山(とみさん)」で、歴史ロマンと山頂の大展望が魅力の、千葉の名低山である。
富楽里とみやまは、水仙の群生地である「とみやま水仙遊歩道」の玄関口。『とみやま水仙遊歩道を歩こう!』という地図と最新情報を入手し、山上の展望所で食べるお昼ごはんも購入する。土地の名物「さんが焼き」は欠かせない。取れた魚を味噌などと一緒に細かく叩いた“なめろう”を、山仕事の際に山小屋で焼いたり蒸したりして食べる房総漁師の料理のことだ。漢字だと「山家焼き」と書く(山小屋で食べたことから“山家=さんが”ということらしい)。大好物のアジフライと、おにぎりも忘れずに購入。
道の駅からさらに歩くこと20分ほど、水仙が美しい里山の入口にたどり着く。入口はいささかわかりにくいが、自動販売機が2台並んでいるのを目印にするとよいだろう(道の駅で入手した地図に詳しい)。
竹林と畑を抜けると、さっそく無数の水仙が出迎えてくれる。勾配は小さく裏山のようだが、風景は実に美しい。
お稲荷さまが現れたらいったん下り、道標に従って登り返すと、岩井海岸が一望できる展望所に出る。入口からここまでのんびり歩いて20~30分ほど。あずまやとベンチがあるので、ここでお昼ごはんといこう。
ここから一望できる海は、魚の質の良さで知られている。当然だが、さんが焼きもアジフライもめちゃめちゃうまい。山の上で魚を食べるというのも乙なものだ。
下山は沿道に素晴らしい水仙が咲き誇る一本道で、このコースのクライマックスにふさわしい“花道”だ。房総は花の栽培で知られ、中でもひときわ温暖な南房総は水仙の名所となり、江戸にたくさん出荷した歴史を持つ。
岩井駅を起点に3~4時間もあればのんびり散策できるお手軽コース。明るいうちに電車に乗って、車窓の風景を楽しみながら帰路に就ける。
コンパクトだけど、充実の2日間コース
今回の現地での移動は、隣り合う富浦駅と岩井駅間のみ。1日目を過ごした富浦は、原岡桟橋と大房岬との往復はすべて徒歩で、宿泊地も同じエリア。2日目は岩井駅から水仙遊歩道を経由して再び岩井駅まで戻る全行程を歩いた。コンパクトだが、海あり山あり、たくさん歩いて楽しめる充実のコースである。水仙は冬がシーズンだが、これからやってくる桜の季節も素晴らしい。さんが焼きとアジフライを持って、花見ハイクなんていうのもよさそうだ。
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