ヒット商品“ゾンビスナック”のヒントは、身近な声にあった!意識したのは「弱者の戦略」――株式会社MNH取締役 小澤尚弘さんの仕事論
小澤尚弘さん
1983年生まれ。専門学校卒業後、2002年からNPO法人チェロ・コンサートコミュニティー(ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール事務局)で事務局業務に携わる。2010年11月、地域資源を活かした商品の企画・製造・販売事業を行う株式会社MNHに入社。2011年、同社の取締役に就任し、「オレキエッテ」「ゾンビスナック」など、業界のスキマをついた売れる商品で、地域資源の活用・課題の解決を図っている。
・株式会社MNH(http://mnhhappy.com/)地域資源と課題を、「お金」と「雇用」に変えるのをモットーにしているソーシャルビジネスの会社。
良いことをしているのに、稼げない――NPOの壁
――前職のNPO法人チェロ・コンサートコミュニティーでの事務局の仕事は、どんなことをしていたのですか。
NPO理事同士の社内調整、寄付をくださる方と支援する方との資金調整、コンクール運営にかかわる文化財団と市役所との調整など、あらゆるコーディネート業務です。学生ボランティアでもやっていた時を含めると、10年間ぐらいやっていました。NPOは、利益を上げることが目的ではないため、団体として活動を通してお金を稼ごうとはしません。また、助成金や寄付金で運営しますから、関係者が多くなります。ですから、3年に1回行うコンサートのために、長期的に多方面の関係者と良好な関係を保ったまま事業を進めることは、非常に困難なことなんです。
――長い期間をかけて多様な人と仕事を進めるのは、苦労もありましたよね。
そうですね。どうしても運営に限界があり、人を雇うこともできずに、本来やるべき活動もどんどん尻すぼみになっていました。それに、組織内の調整が大変で、物事を進めるのが難しい。理事が20名近くいて、何かを決めるためには8割以上の賛同が必要で、1回の会議のために、1週間かけて社内調整や根回しをすることもありました。外部団体との調整もあり、それらに忙殺されて本来やるべき仕事が進まないこともありました。
閉塞感を感じ始めた矢先、仕事上でつながりのあった信用金庫の人から、不意にMNHの社長(現在の会長)を紹介されたんです。MNHはソーシャルビジネス(ビジネスを手段として社会課題を解決する)に取り組む会社。NPOの1つの進化系として、「ソーシャルビジネスは、すごく面白いカタチだな」と思っていたので興味を持ちました。
――不意の紹介がきっかけで、転職することになったのですね。不安はありませんでしたか。
仕事を通して信頼を持てていた人からの紹介だったので、不安はありませんでした。それに、子どもの頃から僕は、年長者から言われたことは素直に実行するタイプで、そうしたことでうまくいった体験をいくつもしていました。「まずは頭でっかちにならずに、素直に聞こう」と思ったんです。
また、今までのコーディネーター業務経験も生かせる仕事でしたし、MNHのミッションでもある社会課題解決のために「自分たちで稼ぐ」ということが、魅力に感じました。NPOで従事する人間からすると、とても衝撃的で、抱いていた閉塞感を打ち破る言葉で転職を決意しました。
ソーシャルビジネスで稼ぐための戦略
――MNHに転職してみてどうでしたか?
入社した当時、会社も創業から2年ほどで、社員は1人で、パート社員と会長を入れてもわずか4人でした。でも、「自分たちで稼ぐことと、ゼロから組織を作り上げていくこと」に面白みを感じました。MNHでは、会長の方針で創業当初から、「長期計画、売上予算を持たない経営」を行っています。通常、NPO組織は予算と計画を立て、報告と決算を行うのが常識となっているので、それを聞いたときは衝撃の事実でしたよ。▲デスクで話す小澤さんと社員。商品のアイディアは、こうしたフランクな雰囲気の雑談から生まれています。
――衝撃的な事実を、小澤さんはどう思いましたか?
会長は「創業したばかりでは、商品がどれだけ売れるかなど読めないのだから、売上予算は意味がない。読めるのは、経費の予算だけ。売れる商品かどうかをとことん考え抜いた方がいい」と言っていました。それを聞いて「そうか、それならそれでやってみよう」と、素直に受け止めていました。とは言っても、実際に自分自身がそのことを「なるほど」と体感できるようになったのは、2016年頃からですね。
――どんなことで、体感できたのでしょう?
去年販売を開始した《ゾンビスナック》がはねたとき(=ものが売れ始めた瞬間)でした。初め、ゾンビスナックは小売店ではなかなか置いてもらえず、あるつながりでたまたまサービスエリアに置いてもらったところ話題になり、その時から売れ始めたんです。バイヤーは、いろんなところでアンテナを張ってみているからでしょうね。商売なんて、やってみないとわからないもんですよ。▲ゾンビスナック(左から焼肉味、コンソメ味、のりしお味)
――《ゾンビスナック》は、見た目から話題性がありますよね。他にも、アイディア勝負でユニークな商品を作り続けていますが、大手メーカーがひしめく製菓業界で、MNHはいかにして勝負をしているのでしょうか。
「商売なんて、やってみないとわからない」と言えど、もちろん無計画にやっているわけではありません。ただ、大手メーカーが得意とするマーケティングは、当社ではしません。資金力も宣伝力もない当社が、大手と同じことをやっても勝てるわけがないですから。僕たちは“弱者が勝てる戦略”をとっています。
(1)小ロットからの販売から始める
まずは小ロットで売り場に出して、損失を抑えます。まずは出してみて、お客さんの反応をみてみることで次の展開につながります。
(2)大規模な消費者アンケートはとらず、購入者からの感想や女性の好みを傾聴する
大手は予算が潤沢にありますし、上司や関係する部門を説得のためにさまざまなエビデンスをそろえる必要があるので、大規模な消費者アンケートを実施します。しかし我々はアンケートをしません。その大きな理由は「顧客が潜在的に求めているものは、アンケートなどの数字には出てこない」と考えているから。その代わり、商品を買いそうだと思う人に、商品についての感想をとことん聞きます。また、女性は流行に敏感なので、周囲の女性の好みにも耳を傾けます。
(3)売り場に足を運ぶ
顧客のふりをしながら、手に取っているお客さんの反応を見ています。彼らの反応や会話の中には、「はねる」ヒントがあります。とにかく現場を大事にするんです。
――「現場を重視する、小さく試してみる」といったスタンスで、売れ筋を探しているんですね。
壁を乗り越える時に、これまでに取り組んだ経験が生かされる!
――“弱者が勝てる戦略をもってヒット商品を生み出し成功していますが、小澤さんにとっての仕事での「壁」はありますか。
企画を実現させることが、一番の壁です。10個企画を出したら、2個実現できればいい方。実現させるのにまずすることは、企画の商品を作ってくれるメーカーを探すこと。そのためには、担当者と接点をつくり、試作の依頼まで持ち込み、取引を実現させなければいけません。この、商品を世に出す手前の段階が、一番難しいです。
――その壁は、どうやって突破しているのですか?
NPOでやってきた交渉力が役立に立っています。NPOの事務局で話し相手との交渉のためにやっていた調整や根回しは、今の仕事と本質的には変わりません。違いは、今はビジネスとして利害がはっきりしているので、スッキリとした交渉ができます。また、強い信頼関係をもつことも有効です。
――信頼関係を築くために、どんな工夫をしているのですか?
一言で言えば、雑談力ですね。初対面で、どれだけ相手に話をしてもらえるかが一番大事で、そのための引き出しを準備しておくことです。例えば、地方出身の人と会うときは、その県内の市町村と特産品を事前にチェックしています。出身を聞いて「○○が有名ですよね」と言えれば、会話のきっかけになります。また、交渉相手とカラオケに行くのなら、歌いたい曲が被らないよう、世代などに配慮して選曲するなどをしています。「気持ちよくなってもらうためには?」と考え、いかに相手の気持ちと合わせていくかが、話してもらえるための鍵になります。実はこれも、NPO時代での調整業務で得たものです(笑)
――相手に喜んでもらうためにどうしたら良いかを、良く研究されるのですね。その真摯(しんし)な姿勢が、信頼につながっていくのでしょうね。
好きな言葉で信条にしていること――“一所懸命”と“弁証法”
――仕事をする上で、大切にしていることは何ですか?
僕は、いわゆる「一生懸命」という言葉の語源となっている、“一所懸命”という言葉が好きです。1つのことを、それがたとえ自分の好きなことじゃなくても、与えられたことはしっかりやる。そうすれば、次の道が見えてくる。目の前のやるべきことをすっ飛ばして、好きなことだけしようとしても、うまくはいかないものです。それに、一所懸命していると、誰かが必ず見ていてくれてくれるものです。転職のきっかけをつくってくれた信用金庫の人も、そんなところを評価してくれ紹介してくれたのだと思います。
――一所懸命にする事で、次の仕事につながっていくのですね。最後に、仕事で悩み事ができた時の解決法を教えてもらえますか。
そんな時ヒントになるのは、僕の好きな考え方の“弁証法”です。机上の勉強では、例えば、1+1=2というように、解答がある問題を解いていますよね。でも、仕事や社会では、解決できない問題の方が多くあります。しかも「正しさ」は人それぞれ違うのに、対立したときでもどうにかしなきゃいけないんです。だから、何か共通点を見つけて、「新しい正しさをつくる」――それが『弁証法』です。ですから、「なぜ相手が自分と違う意見を持つのか?」を考えると良いと思います。どっちの意見も組み入れて、どっちも納得できる答えを導き出す。そうすることで解決していけるのではないかな。▲「周りが楽しそうにしているのを、はたで見ているのが好き」と笑顔で話す小澤さん
文:Loco共感編集部 原田真里
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