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【音楽療法】自分らしさを引き出せる時間

最近私は、音楽療法に関するテレビの特集とインタビューの記事を拝見しました。

テレビの特集内容は、NHKで放送された北海道の音楽療法士 中山先生の音楽療法の実践についてです。「最後まで自分らしく生きること」を、音楽療法で支えた緩和ケア病棟での取り組みを主に紹介されていました。音楽療法はストレスや不安を軽減する効果をもたらし、思い出をよみがえらせ、残りの時間を前向きに生きることへの効果を生み出すという内容です。( 参考: NHK けさのクローズアップ

インタビュー記事は、医師であり音楽療法士でもある吉田先生の認知症の方との関わりを紹介する内容です。認知症を患っていても「今」をわかっているため、「今、楽しい」という時間を積み重ねることが効果的であると紹介されていました。( 参考:Yahoo!Japanニュース 「今楽しい」を続ければ認知症患者は変わる=吉田勝明・横浜相原病院院長

認知症の方が自分らしく生きるために

私は「最後まで自分らしく生きる」ことを支えるのは緩和ケア病棟に関わらず、認知症の方への音楽療法でも同様のことが言えると考えています。
認知症の方は、ご自身の機能が低下していること、出来なくなっていることに対する認識を持っている方もいれば、持っていない方もいます。「わからなくなったこと」に対する思いをどう感じるのかも人それぞれです。中には、何も出来なくなった自分が家族や介護する人にとっても迷惑だから自分の存在はいらない存在だと強く感じ、ネガティブな発言を繰り返したり、うつ病と診断される方もいらっしゃいます。

その人らしさを引き出すこと、認知症の方が持っている能力を引き出すことは、自分らしく生きることにつながると思います。その体験は自分の価値を高めるだけではなく、楽しい体験となるのです。「自分に出来ることがある」と感じられた時、その方は、とても活気のある笑顔を見せてくれます。
そんな笑顔を見ることができた時、認知症を患っているご本人だけではなく、ご家族や施設の職員などストレスをためている介護者にとっても「良かった」と感じられる心の栄養になるのではないかと思います。

ここでは、Aさんに対して行った音楽療法の実践で感じたことについて、お伝えしたいと思います。

意欲の低下した98歳認知症のAさん

Aさんは、98歳の女性でアルツハイマー型の認知症を患っています。BPSD(認知症に伴う行動・心理症状/周辺症状)とよばれるような行動はなく、落ち着かれています。
そんなふうに毎日を穏やかに過ごしていたAさんに異変が訪れます。熱をだし、食事がとれず、点滴の日々・・・。ついに、血液中の酸素が低下したため、酸素ボンベを使用する必要も出てきました。徐々に回復したAさんでしたが、体調が良くなっても、もとの元気なAさんの姿には戻りません。寝ている時間が増えたことによる筋力の低下は明らかです。また、調子を崩したことでご本人の不安感が増し、意欲も低下しています。身体の調子は戻っていても気持ちは落ち込んだままでした。ベッドから起き上がることは少なく、起きているときは「朦朧として。何が何だかわからないから寝かせて下さい」と訴えることが多い日々。

どうすればいいのか悩んでいたときに、音楽の活動があるときには起きてくださることに気がついた職員が個別での活動を提案しました。好きな音楽活動中は起きてくれるのであれば、歩行する機会や椅子に座る機会を増やすことができると考えたためです。
そして、Aさんの個別の音楽活動が開始しました。

音楽療法がもたらす、Aさんへの効果

「私は、何にも出来ないから」「こんな役に立たないのはおいて逃げたいって皆、思ってる。相手をするなんて大変だ。」
とご自身を否定するような発言を繰り返されるAさん。そんなAさんとのセッションを重ねるにつれて、集団の中ではみられなかったAさんらしさに出会うことができたのです。集団活動の中でも歌を歌うより、楽器を演奏する方が楽しまれている印象がありました。そのため、一対一の活動では積極的に楽器を取り入れることにし、Aさんは太鼓を演奏することになりました。
セッションを重ねるにつれて、Aさんの演奏する太鼓のリズムは軽快になり、複雑なリズムを刻んだり、音の大きさに変化があったり・・・と、とても生き生きとしています。演奏している楽器の音だけではなく、Aさんの表情も生き生きしていました。大きく目を見開き、微笑みながら、しっかりと覚醒した、活気のある表情をみせられています。Aさんの太鼓に合わせて、私もピアノ演奏に変化をつけていきました。
二人の音と音が合わさった後、Aさんは「私、本当に上手なんです。すばらしいでしょ。」とお茶目にも見える笑顔で感想を述べられました。

それからのAさんは、音楽療法の前後で変化があるようになりました。
音楽療法前に、不安感が強い発言や自分を卑下するような発言をしていても、音楽療法の活動中や後には、「皆にお披露目をしたい」「私達って本当にすばらしいですね」「あぁ楽しかった」と活気のある笑顔で前向きな発言をされます。ユーモアにあふれた発言をするAさんは、音楽療法の活動の中で、ご自身の存在意義を自分自身で再確認できているのではないでしょうか。

そんな時間を積み重ねていくことで、日常にも良い影響がありました。
ある日、Aさんの過ごしているユニットのリーダーから「Aさんが元気になって家に帰りたいって話しているの。これって音楽療法の効果だと私は思う」と声をかけられました。看護師やユニットリーダーをはじめとする介護スタッフ、そしてリハビリスタッフなどの同僚達からも「Aさん、すごく良い表情だね」と、お声をいただきます。元気になったAさんの笑顔は、介護職員にとってとてもうれしいもの。職員も自然と笑顔になり、嬉しそうな様子がうかがえます。
Aさんや共に働くスタッフのおかげで、私は音楽療法に向き合えていると感じる事もしばしばです。

音楽とともに、誰かとともに、自分らしく生きる

〝自分らしく生きること〟は一人で出来ることではなく、時には誰かの支えが必要です。誰かと支え合うこと、分かち合うことは大事なことであると私は思います。
音楽は、すっと心と身体に入ってきていろいろな感情を呼び起こさせます。音楽療法士が介入することで、ただ聞いているだけではない良い効果を提供することができます。
良いケアの提供のため認知症の方が自分らしく過ごすために、音楽療法が浸透し根付くことを心より願い、日々、活動をしていきたいと思います。

この記事を書いた人

小森亜希子

大学、大学院と音楽療法について学んだ後、認知症対応型グループホームに勤務。認知症の方とのコミュニケーションの取り方や終末期について多くのことを学び、音楽が様々な記憶と結びついていること、気持ちを落ち着かせるために有効であることを実感。認知症介護実践者研修、認知症介護実践者リーダー研修を終了。現在、介護老人保健施設で介護業務に携わりながら、音楽療法の効果をケアに結びつける具体的な手段を模索中。同居しているアルツハイマー型認知症の祖母(96歳)と出かけることが日課。【保有資格】日本音楽療法学会認定音楽療法士、介護福祉士

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