『嫌われる勇気』著者が教える、「人生の悩み」との向き合い方

アルフレッド・アドラーの個人心理学を初心者にもわかりやすく紹介した書籍『嫌われる勇気』がロングセラーを続けている。2013年12月の発売以来売り上げを伸ばし続け、発行部数は168万部を突破。2014年~2017年の4年連続で年間ベストセラートップ3位入り(ビジネス書)を果たした。

アドラー心理学は、「どうすれば人は幸せに生きることができるか」という哲学的な問いにシンプルかつ具体的な“答え”を提示していることから、悩み多き若手ビジネスパーソンからの支持も高い。そこで、本書の著者であり哲学者の岸見一郎氏に、「我々は悩みとどう向き合うべきなのか」を伺うとともに、若手ビジネスパーソンが抱きがちな悩みに対する具体的なアドバイスをもらった。

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岸見一郎氏

哲学者、日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問

西洋古代哲学、特にプラトン哲学を専門とする。1989年からはアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動を積極化、精神科医院などで多くの若者のカウンセリングも行ってきた。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』『人はなぜ神経症になるのか』、著書に『嫌われる勇気』 『幸せになる勇気』 (古賀史健氏との共著、ともにダイヤモンド社)、『アドラーに学ぶ よく生きるために働くということ』(KKベストセラーズ)など。

「他者貢献」を目標にすれば、道に迷わない

仕事に、キャリアに、対人関係に…さまざまな悩みを抱えるビジネスパーソンは少なくありません。

人が悩みを持つのは当然のことです。例えば、この会社で働き続けていていいのか、この仕事は本当に自分に向いているのか、などの悩みは誰もが一度は抱きますが、何の疑問も持たずに働くよりもむしろ精神的には健全です。ただ、世間が悩みを持つことを良しとしないだけ。

会社を辞めたい、仕事を変えたいなどと周りに言ったら、「せっかく入った会社なのだからもう少し頑張りなさい」「仕事を変えたいだなんて我慢が足りない」などと言う人は多いものです。でも、自分の人生なのだから、自分が決めればいいのです。なぜなら、誰しも「働くために生きている」のではなく、「幸せに生きるために働いている」のだから。自分が「幸せではない」と感じるならば、無理にその会社に居続けなくてもいいし、その仕事をやり続けなくてもいいのです。

よく「仕事は何のためにするのでしょうか?」と聞かれますが、私は「他者貢献」であると答えています。「幸せ」とは人の役に立ったと感じること、すなわち「貢献感」から生まれるものだからです。自分のしている仕事が誰かの役に立ったと思えるとき、頑張ろうという意欲が湧きますし、幸せを覚えるようになるのです。

アドラーはこれを「導きの星」と表現しています。旅人が北極星を頼りに旅をするように、「他者に貢献する」という導きの星さえ見失わなければ、迷うことはありませんし、その限りでは何をしてもいい。「他者貢献を感じられる方向に向かって進めば、幸福がある」と考えればいいと思います。

どんな仕事であっても、必ず誰かの役に立っています。それに気づくことが大切です。

私の家の隣にはコンビニエンスストアがあり、執筆中に文房具を切らしたら夜中でも買いにいくことができます。朝まで待つ必要がない。とてもありがたいことです。

コンビニエンスストアの店員は、「朝まで待たなくていい」という便利さと時間を私に提供してくれています。本人がこの存在価値に気づければ、「単なるレジ担当」ではなくなり、働き方もモチベーションも変わるはず。もしも、仕事にやりがいを見いだせないならば、いろいろな角度から自分の仕事を見てみることをお勧めします。

人生とは、連続する刹那。いま、この瞬間を丁寧に生きればいい

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「自分には何が向いているのかわからない」「キャリアの目標が立てられない」などという悩みもよく聞かれますが、全く問題ありません。「計画的に人生を過ごす」ことは不可能なのですから。

人生とは、「連続する刹那」です。私たちは今、ここを生きることしかできず、未来はまだ何も決まっていません。「今日という日」を丁寧に生きていけば、この1日が「点」になり、この点をつないでいくことで「線」になる。まだ何も決まっていない未来を考え不安に思うのではなく、今日を精一杯、丁寧に生きることが何より大切。そうして毎日を丁寧に生きていれば、ある日ふと周りを見渡した時に「こんなところまで来ていたのか」と気づくものなのです。

そもそも自分のキャリアプラン、人生プランを明確に決めたからといって、その通りには行きません。綿密に計画を立ててみても、その通りに行かなかった場合、途端に目標を見失ってしまう恐れがあります。

以前、中学生が私に自分の人生設計をとうとうと語ったことがありました。中高一貫校に進学した彼が目指す大学は、東京大学法学部。国家公務員資格を取って外務省に入り、結婚は25歳、子どもは1人だとかわいそうだから2人はほしい…と言うのです。おそらく、大人に刷り込まれた「成功した人生を送るためのレール」なのでしょうが、どこかで計画外のことが起こったときの彼がどうなるか私は心配になりました。

彼のように、周りから刷り込まれた目標を「自分で考え、立てた目標」と勘違いしている人も多く見受けられます。例えば、「代々続く医者の家計だから、医者を目指す」「父も祖父も東大だったから、自分も東大に入る」など。しかし、自分で考えたうえで今を生きないと、後々やるべきことを見失います。

私の友人の医師は、3代続く開業医です。しかし、初めは法学部に進学しました。子どものころから後を継ぐことを期待されていたはずですが、いったんは医者の道に進むことを自らの意思で止めています。いったん道から逸れてみたからこそ、「やっぱり自分は医師になりたい」という思いに気づいた。だからこそ、彼は夜中の急患にもすぐに対応するような、患者に寄り添う医師になりました。もしも、周りに敷かれたレールに乗ったまま医者になっていたら、ここまで意欲が持てなかったかもしれません。

もしも「自分が決めた人生を生きていない」と気づいてしまったら、自分が幸せだと思えること、誰かの役に立てると思えることをやってみてください。その結果、別の道に進もうと決めたら、親の期待を裏切ることになってもそちらの方に踏み出すことです。親は怒り、悲しむかもしれませんが、それは親が解決すべき課題であって、あなたの課題ではありません。

歌舞伎役者とか、お寺の跡継ぎとか、「別の道に進みたくても、環境が許さない」というケースもあるでしょう。それでも、自分の人生なのですから自分で考えなければなりません。周りに敷かれたレールの上を疑問も持たずに進むのと、悩み、考えた結果、同じ道を進むのとでは、全く意味合いが異なります。それに、どんな世襲制の家柄に生まれたとしても、別の道に進むことは決して不可能ではありません。

「自信がない」という人は、「自信を持たない」と決めているだけ

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「自信が持てない」という悩みも多く耳にします。しかし、これらの悩みに対する答えは簡単です。「自信を持たない」と、自分が決めているだけなのです。

例えば、大好きでできればお付き合いしたい人がいるとします。自信があって、自分自身が好きならば、告白すればいい。もしも断られたとしても、その時はショックでしょうが自信があれば次に進めます。でも、自分に自信がない人は、断られて傷つくぐらいならば、はじめから告白しないでおこうと思います。「断られたくないから、自信を持たない」のです。

仕事でも同じです。これから取り組まねばならない課題があるけれど、荷が重いから逃げたい。自信を持たなければ、課題に向き合わなくて済むし、結果を出さなくてもいい…全て後付けの理由なのです。

つまり、自信がないのではなく、「課題から逃げるために、自信を持たないでおこうと自分で決めている」ということに気づくべき。それに気づくことができれば、変わるきっかけになります。

ちなみに、やる気のない部下に「まだ本気を出していないだけ。本気を出して取り組めば、必ず成果を挙げられる」などと叱咤激励する人がいますが、これは間違いです。こう言われて本気を出した結果、いい成果が挙げられなかったら叱責されるだけ。「本気を出したら成果を挙げられる」という可能性の中に生きていたほうが、成果を上げられないという現実に直面するよりもいい…と考える部下は本気を出しません。

その逆で、「あんな上司の下にいるから自分は出世できない」という部下の主張も、単に可能性の中で生きるラクな道を選んでいるだけ。上司のせいにしないで現実を受け入れ、必要であれば努力するしかないのです。

過去は全く関係ない。「自分は変わり得る」ことにどうか気づいてほしい

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「すぐに自分と人と比べて劣等感を抱いてしまう」という悩みも多いですが、これも「自分を好きにならない」と決めているのです。劣等感を持つために、他人と自分とを比べているのであり、劣等感を持てば、そのことを頑張らないための口実にできます。

「自分の価値は人と比べられるものではない」ということに、気付いてほしい。自分は自分。他人とは違うのです。

例えば、写真を趣味にする人がいたとして、「どうしても他の人が撮った写真のほうが断然よく見えてしまう」とします。その人のような写真が撮りたくて、全く同じカメラで、設定も同じにして、同じ場所で撮ったとしても、同じ写真は撮れません。たとえ同じ写真が撮れたとしても、それは他の人の写真であってあなたの写真ではありません。「同じ写真を撮る必要はないし、撮れない」と気づくことができれば、無意味な競争から降りることができ、心が楽になるでしょう。

「自分は自分」と現実を受け入れるのは、ときに怖いものです。自信がない場合はなおさらです。でも、当然ですが、自分の人生は自分が作るしかありません。

では、自信がない人が、どうやって自分自身と向き合えばいいのか。私は、「自分は変わり得る、という絶対的な信頼感を持つこと」だと思っています。

「今までこういう生き方をしてきたのだから、今さら変えることはできない」と言う人がいるかもしれません。でもそれは「変わらない」と決めているだけで、誰もが必ず変わることができます。

これまでの人生に何があったとしても、今後の人生をどう生きるかについては何の影響もありません。過去には戻れないのだから、過去にこだわる必要は全くありません。自分の人生を決めるのは、今ここに生きる自分自身なのだということを、ぜひ理解してほしいと願っています。

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▲4年連続で年間ベストセラートップ3位入り(ビジネス書)の『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:延原優樹

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