【舌対音感】第9回:オカモト“MOBY”タクヤ(SCOOBIE DO)「俺が恋した香港フードたち」

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「旅をしない音楽家は不幸だ」という言葉を残したのはモーツァルトだが、では、旅する音楽家の中でもっとも幸せなのは? それはやはり、その土地土地ならではの旨いものを味わい尽くしている音楽家ではないだろうか。そこで! ライブやツアーで各地を巡るミュージシャンたちに、オススメのローカルフードや、自分の足で見つけた美味しい店をうかがっていこうという連載企画。

今回は、2017年10月に通算13枚目のオリジナル・アルバム『CRACKLACK』をリリースしたバンド=SCOOBIE DOのドラマー、オカモト“MOBY”タクヤさんが登場。

全国各地のラーメン店や酒場を巡るのが好きな彼は、ここ10年近くは香港に何度も行き来しているのだそう。好きが高じて香港政府観光局からも「香港通」の称号までもらうようになったMOBYさんに、香港にハマったきっかけ、そして独自に進化を遂げた意外なローカルフードを語ってもらいました。

話す人:オカモト“MOBY”タクヤ

オカモト“MOBY”タクヤ

1995年結成のファンクバンド「SCOOBIE DO(スクービードゥー)」のドラマー。早稲田大学第二文学部卒。バンドのマネージャーも兼任。近年は執筆やラジオMC、DJ、MLB中継の解説者としての活動も行う。音楽、グルメ、旅などさまざまな情報を自身のTwitterやブログ で発信し続けている。

香港のシャコに衝撃を受け……

── MOBYさんは、音楽業界の中でもラーメンの食べ歩きや酒場巡りの通という印象がありますが、そもそもどのようにしてはじめたんですか?

SCOOBIE DOは2002年にメジャー・デビューしたんですけど、デビュー前に全都道府県ツアーというのをやりまして。その頃、僕らのマネージャーをやっていたのが、この連載にも出ていた田中貴さん(サニーデイ・サービス)だったんです。そこで彼からラーメン店巡りの薫陶を受けまして。全国各地の美味いラーメンを食べ歩いて一気にラーメン偏差値が上がったんですが、どちらかというと街の老舗ラーメン店に行くのが好きで。それから、いろんな街を歩くようになったんです。

── 酒場巡りも街歩きの延長線上にあるんでしょうね。

もともと大学時代に通ってた、早稲田の〈やきとり一休〉って酒場があるんですけど、そこがなぜかしっくりくるというか。あとインディー時代のレコーディングスタジオの近くにあった、西船橋〈まる福〉。スタジオで練習が終わってから煮込みをつまみに飲んで帰るっていうのが定番で。だから学生時代から大衆酒場になじみがあったんです。で、バンドでツアーをまわるようになったら、そういう酒場っていろんなところにあるんだなって知って。たとえば福岡なら屋台や角打ちに行ってみたり。なんでみんな酒屋さんで飲んでるんだろう? 無駄がなくて最高だ! なんて面白さを感じてた頃に、BSで吉田類さんの『酒場放浪記』を知ったり、太田和彦さんの本を読むようになって、酒場巡りもするようになったんです。

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── 酒場の話はまたあらためてうかがうとして……そんなMOBYさんは、ここ10年近く香港にハマっているそうですね。

初めて香港に行ったのは2006年12月。本当にいろんな偶然が重なって、いとうせいこうさんに香港に連れていってもらうという幸運に恵まれまして。それまで、とくに香港について知識があったわけでもないし、そもそも海外旅行自体が学生時代以来10年以上ぶりで。何もわからず香港に連れられて、現地で最初に入った〈東寳小館〉という市場の中にある食堂で食べた「シャコの素揚げ」が、なんだこれ! って驚くほどに美味しくて。

── 「シャコの素揚げ」ですか!? シャコといううと寿司ネタのひとつぐらいの認識しかないですが。

寿司ネタの大きさとは全然違う、伊勢海老ぐらいにデカいシャコなんですよ。『風の谷のナウシカ』の王蟲を想像してもらえれば近いと思うんですけど(笑)、それを刻みニンニクと一緒に揚げただけっていうシンプルな料理で。結構トゲトゲした甲羅を剥いて食べたら、エビとカニの美味しさを足して、しかも2で割ってない(!)ものすごく濃厚な美味しさだったんです。

── 足して2で割らないって! それって甲殻類最強の美味じゃないですか(笑)。

もうね、これさえあればエビもカニもいらないやってぐらいにうまかった。その〈東寳小館〉ってお店は、何を食べても美味しいし、どの料理も何かひと工夫されてて、地元の人にすごく評判のお店だったんです。そこで香港への興味が一気に湧きまして。2006年12月に初めて行って、翌年5月にはもう単独で2回目行ってましたからね。そうして香港の街を探索しているうちに、自分は街歩きが好きなんだってあらためて気づいて。それからだいたい年1回のペースで行くようになりましたね。

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超級香港迷に任命される

── 田中貴さんから薫陶を受けたラーメンの食べ歩きや、各地の酒場巡りに感じていた街歩きの面白さが、香港という街にも詰まっていた、と。

いきなり知らないところに放り込まれたけど、そこで面白いものを見つけちゃったって感じで。スタンプラリーじゃないけど「次はあのお店に行こう、このお店に行こう」って感じで、帰国したらすぐにガイドブックを開いて復習したり。あとは「今回は香港島の良さをみつけたから、次は九龍を攻めてみよう」とか、行くたびになにかしら目標を決めて行っています。そんな風に行き来しているうちに、香港の面白さをメディアで紹介する仕事をもらうようになって。ついには香港政府観光局から〈超級香港迷(スーパーホンコンマイ)〉に任命されるまでになりました(笑)。

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▲超級香港迷の名刺。THEホンモノ感!

── 政府から直々に香港通に認められるって、それはすごいことですよ! そんな超級香港迷であるMOBYさんが、衝撃を受けたお店は?

去年初めて行った〈端記茶樓(デュンゲイチャーラウ)〉。ここはバスを乗り継がないとたどり着くことができない、山間のど真ん中にある飲茶店で。まず香港の中心部から地下鉄に40分ほど乗って、そこからミニバスに乗り継いで30分ぐらい揺られて……。

── そのミニバスに乗り継ぐ時点でハードル高いです(笑)。

香港には路線バスの他に、トヨタのコースターみたいなロケバスに使われる車両が乗り合いバスとして機能してるミニバスという乗り物がありまして。完全に地元の人向けの交通手段で、降車する時には「降ります」って言わないと止まってくれない。でも、目的のお店は終点にあるから、まだわかりやすいんですけどね。でも、このお店がすっごくよくて。何食べても美味しいけど、豆腐花(ダウフファ)っていうプリンみたいな食べ物とか美味かったですねぇ。香港人って実はあまり酒を飲まないので、食事しながら酒を飲む人が多くないんですけど、ここは飲茶店にしては珍しくビールが置いてあるのもいいですね。こういうお店には、仲間同士で香港旅行に行って、それぞれ行動は別にしているけど何日目かの昼にこのお店に集合してみんなで昼飯食う! みたいなのが楽しいだろうなって思うんですよね。

── そのツアーにぜひとも参加したいです!(笑)。バスを乗り継がないとたどり着けないほどの場所じゃなくても、ディープなお店って他にもありますか?

最近行ってすごくよかったのが、香港島の中環(セントラル)にある、普通の屋台。工事現場で働いてるおじさんが、夜勤明けとかに来てはガンガン飲んで食って、そこらへんに空き瓶が転がってるんですよ。ここで食べた臓物の料理とか、どれも美味かったですね。香港には屋台が多いけど、実は今後新たに免許が下りないそうなんです。だから今あるお店を誰かが継ぐか廃業するしかなくて、ここから増えることはないという。

ネオらせ料理の街、香港

── 博多の中洲もそうだし、バンコクも大通りでの営業が禁止になったり、屋台文化は世界的に縮小傾向にあるんですね……。ディープなお店じゃなく、もうちょっと気軽に行けるお店もあるんですよね?

もちろん。日本でいうファミレスと喫茶店と食堂の中間に位置するような〈茶餐廳(チャーチャンテン)〉なんかは、普通の香港人が気軽に食べるローカルめしが味わえますね。B級グルメ的なもので言えば「スープマカロニ」っていう、『あまちゃん』でいうところの「まめぶ汁」みたいなポジションの料理がありますね。これ本当に美味いのか? って見た目で、食べてみたらやっぱり大したことなくて。だけど、なんかクセになってまた食べたくなるっていう(笑)。

── 大して美味くないのに思わずクセになっちゃう感じ、よくわかります。

あと、香港でわりとスタンダードなのが、コーヒーと紅茶を混ぜた「鴛鴦茶(ユンヨンチャ)」。パンも「パイナップルパン」っていう日本のメロンパンに近いのがあったり、タマゴサンドもスクランブルエッグがそのまま挟んであるスタイルだったりと、面白いメニューがありますね。うちのワイフのトミヤマユキコ(ライター/早稲田大学文化構想学部助教)の言葉でいう「ネオらせてる」料理が、香港には意外と多いんですよ。

── 奥様のトミヤマさんは、海外からやってきた料理が、日本で独自に進化してもはや原型をとどめなくなったローカルメニューを「ネオ日本食」と名付けて研究されていますね。

同じような感覚で、英国統治時代のイギリスから入ってきた西洋マナーを、中華圏の独自のマナーでネオらせてる。ミルクティーにしても、エバミルクを入れた「香港式ミルクティー(港式奶茶)」になってたり。あと、香港にもあんかけスパゲティがあるんですよ。いわゆる名古屋のあんかけスパゲティとは違って、ケチャップ味のあんかけがかかってる。最近はそういう料理も探して食べてますね。

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── やっぱり中国だけに、香港も麺類がすごそうですよね。

そういえば、香港は日式ラーメンのブームなんですよ。〈豚王〉って日本でも評判のラーメン店が香港に進出した時にブームになって、そこから〈一風堂〉や〈一蘭〉など日本のラーメン店が続々オープンしてますね。

── さすがにわざわざ香港で日本のラーメンなんか食べに行かないですよね?

いや、この間〈豚王〉に行きましたよ(笑)。ちゃんと美味しかった。話が逸れますが、去年アメリカに3週間ぐらい行ったんですけど、現地でラーメン店を見つけたら、とにかく食うっていうのをやってて。

── どんだけラーメン好きなんですか!

いや、世界的なラーメンブームはどこまで来てるのか現地調査しようと思って。アメリカで食べた中でもブルックリンの〈YUJI RAMEN〉は、とくに美味しかったですね。今、期間限定で新横浜ラーメン博物館に出店してます。ニューヨークでもラーメンは大ブームですね。でも高い! 最低でも1杯15ドル(約1,700円、2017年11月15日現在)ぐらいするから。

── いつの間にかニューヨークのラーメン店の話題になってましたが、香港は麺料理の天国でもありますよね。

そうですね。最近よく食べるのは「米線(マイシン)」。麺の形状が丸くて、太めのパスタのような感じ。〈譚仔雲南米線〉っていう香港でも有名なチェーン店があるんですが、ピリ辛で美味しかった。米線屋は香港にもいくつかあって流行ってるけど、日本にはまったく紹介されてないですね。あとは麺料理でいえば「雲呑麺(ワンタン麺)」も美味いし、「撈麵(ローメン)」っていうオイスターソースがかかった汁なし麺も美味しいですね。

── 聞いているだけでヨダレが……。どれも日本ではなかなか食べられない麵ですよね。

あ! 麺料理で美味いお店といえば、香港島の北角にある「小辣椒」。最初に話した〈東寳小館〉の近くにあるお店なんですが、街中華ならぬ「街四川」って感じの食堂で。ここの担々麺が美味いんですよ! ここの辛さは使ってる唐辛子たぶん違うのか、日本人が考える辛さとまったく違う角度から攻めてくる辛さで、すごく美味いです。

f:id:Meshi2_IB:20171116185542j:plain▲MOBY氏撮影による数々の香港中華画像に、アジアンフード大好物なライター宮内も思わず身を乗り出す

広東語ができなくても無問題!

── それにしてもいろんなお店の情報を、MOBYさんはどのようにして入手してるんですか?

香港に関する書籍って、そこまで多くないんだけど、グルメガイド以外にも、香港の道の名前に特化した本だとかマニアックな書籍までシラミつぶしに買ってますね。あと香港を行き来しているうちに現地の友だちが増えてくるんですよ。それこそ食堂でたまたま隣りで食べてた人だとか。香港のレコード屋やDJ仲間に「とにかくガイドブックに載ってるところじゃないお店に連れていってくれ」って頼んで案内してもらったり。あと香港には〈Open Rice〉というネット上のレストランガイドがあって。ユーザー評価とか星の数とかは気にしないんですけど、ショップデータを知るには便利ですね。

── 知らないメニューを注文する時はどうしてるんですか?

香港の人は基本的にみんな優しくて。何かわからないことがあったら教えてくれるし、あとはわからなかったら隣の人が食べてるものをそのまま頼む。とくに香港の若い人は、英語がしゃべれる人も多いですから。僕は十数回も香港に行ってるのに広東語もろくにしゃべれないですけど、「ありがとう」とか「すいません」みたいな意味合いで使う「唔該(ムゴイ)」と、「これひとつください」って意味の、「呢個(ニーゴ)一個(ヤッゴ)」を覚えておけば、だいたいなんとかなります(笑)。

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【SCOOBIE DO 最新情報】

2017年10月4日発売、13枚目のフルアルバム『CRACKLACK』好評発売中。ツアー「Funk-a-lismo! vol.11」ファイナルは2018年2月11日(日)Zepp Tokyo。

その他ライブ・出演イベント情報はオフィシャルサイトでチェック! CRACKLACK

CRACKLACK アーティスト: SCOOBIE DO 出版社/メーカー: インディーズレーベル 発売日: 2017/10/04 メディア: CD

インタビュー撮影:石川真魚

※この記事は2017年10月の情報です。

書いた人:宮内健

宮内健

1971年東京都生まれ。ライター/エディター。『バッド・ニュース』『CDジャーナル』の編集部を経て、フリーランスに。以降『bounce』編集長、東京スカパラダイスオーケストラと制作した『JUSTA MAGAZINE』編集を歴任し、2009年にフリーマガジン『ramblin’』を創刊。現在は「TAP the POP」などの編集・執筆活動と並行してイベントのオーガナイズ、FM番組構成/出演など、様々な形で音楽とその周辺にあるカルチャーの楽しさを伝えている。 Twitter:@powwow

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