“クサイ飯”は本当にクサイのか?東京拘置所「矯正展」で売られる「プリズン弁当」を食べて真相を探ってみた

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東京スカイツリーライン小菅駅で電車を降りると、高架駅のホームから非常に変わった形をしたビルが見えた。

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窓を数えると縦に12、横はそれ以上の数がある。しかもそれが三方に広がっていた。さっそくグーグルアースで建物の形を確認してみる。すると電話の米印(*を横にした記号)と同じ形をしていることがわかった。放射状の形をした12階建てのビル。

こんな建物、今までに見たことがない ──

東京拘置所に来ていた。ここは全国に8カ所ある拘置所のひとつで日本最大のもの。

ここに収監されているのは未決拘禁者(刑事被告人)、死刑確定者(死刑囚)、懲役受刑者(移送待ちの一時執行受刑者)で収容人数は約3000名にのぼるという。

普段は建物の中の様子どころか、敷地にすら入ることの出来ないこの拘置所。しかし年に一度だけ開放される機会がある。

それが9月30日に開催された「東京拘置所矯正展~『まち』とともに~」だ。

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これは東京拘置所側が、地域とのつながりを深めるために行っているイベント。秘密のベールに覆われた拘置所にこの日だけ、近づくことが出来るのだ。

これは興味がそそられるではないか。ということで、筆者はわざわざこのイベントの機会にあわせて小菅にやってきた。

『メシ通』というサイトだけに、お届けするのは、食を中心としたレポートである。

塀の中と食という話題でいうなら最大の疑問がこれだ。

いわゆる”クサイ飯”は本当にクサイのだろうか。

どうやら、このイベントで売られている弁当が通称「プリズン弁当」として大変好評であり、うわさによれば「拘置所内で被収容者向けに提供されている食事をそっくりそのまま再現している」らしいのだ。

いったいそれはどんなものなのか? 果たしてどれほどの「再現度」なのだろうか。

いざ拘置所敷地内へ

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では、最寄りの小菅駅 からレポートをスタートしよう。

目指す東京拘置所は、小菅駅から10分ほどで到着。

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まずは荷物検査場で荷物チェックを受けなければならない。武器などの持ち込みを制限しているのだろう。場所が場所だけに、さすがに入場の時点で厳重だ。

いざ正門へ。

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なかなかにぎわっている。

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正門の「東京拘置所」と書かれた黒字に金ぴかの銘板がなんとも重厚だ。 場所が場所だけに正門の前に立つと人によっては怒りや悲しみ、悔しさといった感情が喚起されるのかも知れない。

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正門から向かって左、そこには監視塔をいただく旧庁舎がある。

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これはかつての見張り台だ。

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朝9時半からはイベント開始を告げるテープカットが行われた。来賓には男性ユニット「w-inds」の3人も含まれていた。

改めて拘置所本体の建物を眺めてみる。

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▲左上の金網に覆われた部分は未決拘留者用の運動場だ

この建物の中には現在、判決を待つ未決拘禁者の他、日本中を震撼させた数々の凶悪事件の死刑囚らも収容されている。彼らが建物の壁一枚隔てたところにいるわけだ。

がしかし、その事実が信じられない。実感がわかない。

それどころか、壁の内側にいるはずの死刑囚や受刑者ら約3000人の気配はまるで感じない。彼らは観客の声やイベントの音が聞こえたりしているのだろうか。

バラエティ豊かな商品たち

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この「矯正展」では、全国の刑務所で服役中の受刑者たちがつくった刑務所作業用品の数々が各ブースで売られており、かなりの評判を博している。

売られているのは、食品やまな板やテーブルなどの木工製品、靴、アクセサリー、子ども用のおもちゃ、などなど。

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中にはおみこしも。

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値段は108万円だった。

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多くの方が手に取っていたのは函館少年刑務所の商品。「マル獄」マークの入った前掛けやブックカバーなどが飛ぶように売れていく。

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イベントステージでは催し物が続々と。

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そして、ゆるキャラまで。

以上、ご覧のようにどのブースも結構な盛り上がりを見せていた。

東京拘置所というと、どこか身構えてしまう印象があるが、この「矯正展」だけは別。事実、近所の住人だろう、ほとんどピクニック気分で来ているファミリーも数多く見受けられた。

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もはや、すっかり地域に浸透している証しなのかもしれない。

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中にはいったいなにをしに来ているのか分からない光景もあって、それがかえって平和に思えたのだった。

監獄メシは大評判だった

さて、本企画の目的である、「プリズン弁当」が売られているコーナーへ。

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会場の一番奥にあるお弁当コーナーに到着したときには、すでに長蛇の列。

筆者はメシ通編集者のムナカタと手分けして、なるべくたくさんのお弁当やパンを買うことにした。

とりあえずコッペパンのお店の列に並ぶ。

ただのコッペパンではない。

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プリズンコッペである!

さらに、

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コロッケや、

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プリズンカレーまで!

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生姜焼きだって拘置所仕様なのだ。

カレー&コッペパンを実食する

あれこれ並び倒した後で手に入れた戦利品はこちら。

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左上から時計回りに説明すると、

①拘置所飯プリズンカレー(400円)

②酢豚弁当(500円)

③生姜焼き弁当(500円)

④網走監獄和牛コロッケ(300円)

⑤原宿ドッグ(チーズとカスタード。各100円)

⑥プリズンコッペ、あんバター味(300円)

⑦プリズンコッペ、ピーナッツ味(200円)

では実食!

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プリズンカレーは、豚肉、にんじん一切れ。じゃがいもが主な食材。野菜は固めだが、ほどよい辛口でなかなかの美味である。

麦が半分ほど入っていることでなんだか健康そう。

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カレーを売っていた販売員の方に話を聞いた。

このカレーを作っているのは拘置所内の職員用食堂で働いている人たちなんです。被収容者が食べているものは別の人たちが作っているのですが、普段、被収容者が食べているものをレシピ通り再現しました。麦飯の割合は、米7で麦3です。

思いのほか、麦の含有率は低かったが、ほぼこの味どおりとみていいのかもしれない。

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コロッケはオーソドックスなミンチとじゃがいもの練り合わせ。被収容者が育てた和牛のミンチらしい。

野生味のある油のにおいが強いがなかなかうまいじゃないか。が、これが拘置所内で食べられているかは不明だ。

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次はパンの類にかぶりつく。

コッペパン、いやもとい、プリズンコッペである。

すっぱみのある学校給食で出されるあのパンとほぼ同じ味だ。あんバターといってもマーガリンで、なかなか庶民的な味わいである。

注目すべきはそのデカさ。長さは20センチほどもあっただろうか。

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コッペパンを売っている業者の方にも話を聞いた。

ウチでは、東京拘置所以外にも少年院や警視庁管内の警察署の留置所、そして学校にも卸しています。男女の性別によって大きさは変えています。届けるときはコッペパンにジャムを塗っていますよ。

大きさはともかくとして中で食べられているものと、ほぼ同じものだと言うことがわかった。

にしてもだ。プリズンコッペが先に売り切れたということは、ここにくる来場者たちが、おいしさよりも、受刑者たちの味を優先しているということだ。

みんな、考えることは同じなんだろうか。もっとも、筆者もその一人なのだが(笑)。

本当に「クサイ飯」なのか

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次はお弁当。

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酢豚弁当は酢豚のほか、高菜スパゲティ、じゃがいもとスパムと豆の炒め物。容器の小さなポケットがなぜか2つあいていた。米は8、麦が2というところ。

一方、しょうが焼き弁当は豚生姜焼き、ナポリタンとシャキシャキするかぼちゃ。こちらも米が8、麦が2というところだろうか。こちらもなぜか容器のポケットが2つ空いていた。

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お弁当もパン同様に拘置所に搬入している業者が出店していることがわかった。レシピも指定通りに作っているという。

つまりコッペパン同様受刑者が食べている味そのものに近いのかもしれない。麦飯の含有量はカレーに比べて低く、ほとんど普通の白米飯。肝心の味は普通においしくて、臭さなどは全然、感じなかった。

世間では「クサイ飯」呼ばわりされるこれらの食事、どんなひどいものなのかと思っていたが普通にイケた。

「クサイ飯」は決して臭くない。

むしろうまい。

これがイベントに足を運び、実際に「プリズン弁当」を食べてみて得た結論だ。

とはいえ気になるのが、「クサイ飯」という言い方がなぜ一般化したのかという点だろう。

別の機会に、警察関係者に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

なんで「クサイ飯」って言われるかっていうとね、拘置所の構造のせいだよ。部屋の中に便所があるでしょ。だから臭いの。飯自体は臭くない。

なんだ、そういうことなのか。

※この記事は2017年9月および10月時点での情報です。

※金額はすべて消費税込みです。

書いた人:西牟田靖

西牟田靖

1970年大阪生まれのノンフィクション・ライター。多すぎる本との付き合い方やそれにまつわる悲喜劇を記した「本で床は抜けるのか」(本の雑誌社)を2015年3月に出版。代表作に「僕の見た大日本帝国」「誰も国境を知らない」など。最新作は「わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち」(PHP研究所)。 Twitter:@nishimuta62

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