『YURI GAME JAM』とは!? 埃をかぶっている「百合ゲーム」に光をあてよう!
共通のテーマに基づいた自作のゲームを作成しアップロードする海外のゲームジャムをご存知だろうか? 『YURI GAME JAM 2017』は名前の通り「百合」をテーマにしたゲームジャムだ。
2017年9月1日(金)から10月31日(火)にかけて行われた2ヶ月間のゲームジャムで、女性同士の関係についてより多くのゲームを作り出すことを意図されている。実際にこのジャムが終了を迎えたのは11月9日(木)で、69タイトルの百合ゲームが作成された。日本国内でも人気を得ている百合ジャンルだが、「YURI」というワードが世界共通であることがわかる。この催しで以下のようなルールが掲げられている。
あなたのゲームは、女性と女性の関係性に焦点を当てる必要があります。これには、レズビアン、バイ、トランス、ノンバイナリ、アロー、エース、パン、女性とみなされるどんなLGBTQIAのキャラクターも含まれます。
これは包括的なジャムであり、誰でも参加できます。ただし使用されるテーマ・素材、および仲間のクリエイター・プレイヤーを考慮してください。偏見を促進する(すなわち横暴/人種差別)エントリーは許可されていません、不快な主題は踏査されます(そして奨励されます!)。
未完成の作品も許可され、奨励されており、作品を完成させることが必須条件ではありません。未完成の作品は、実現していない、光の当たらなかった古いプロジェクトです。 それらの埃を落としてもう一度やり直してください!
LGBTQIAについて、前の四文字はご承知だろう。Qとはクィア、またはクエスチョンを示す。クイアは主に男性の同性愛を示す用語だがクエスチョンとは、性別や性的指向が定まらない・定めない傾向のこと。Iとはインターセックスで両性具有や身体に両方の性を備える状態のこと。AとはAセクシュアルで無性愛者のこと。
ノンバイナリとはノンバイナリージェンダーのこと。男性女性どちらにも分類されない性のことだ。アロー、エースとはそれぞれアロマンティックとエーセクシュアルの略。エースは日本ではAセク(エーセク/アセク)とも呼ばれている。Aセクシュアルとは先述の通り、どの性別の対象にも性欲を感じない傾向のこと。アロマンティックとはどの性別の対象にも恋愛感情をもたない傾向のことだ。
パンとはパンセクシュアルの略でどのような性別、つまり全性別(トランス/ノンバイナリなども含む)に対しても恋愛感情を感じる傾向のことだ。こうした条文が掲示されることは全世界からの参加が見込まれるJAMならではの配慮だろう。
折りしも2018年1月からNHKで放映される『女子的生活』というドラマの主役がトランスジェンダー女性でレズビアンであると宣伝され、百合好きの間では話題になっている。トランスジェンダー女子とは、ここではMtF(Male to Femaleの略。身体的には男性であるが性自認が女性であること)のことを示している。近年、レズビアンを登場させるアニメーションやドラマは徐々にではあるが確実に増加傾向にある。
「百合」という言葉ひとつとっても、どのような状態を「百合」と定義するかは個々人の解釈によって異なっている。国内でも百合への「解釈違い」はしばしば話題になる。例えば主人公に彼氏がいる作品は百合ではない、一方の女性が両性具有であったり、男の娘(トランスジェンダー)である作品は百合ではない、などの好みの相違は千差万別だ。だがそれはあくまでも見物者(読者や視聴者)側の「趣味の違い」の話題にすぎず、同性愛の当事者に対する配慮はどうなっているかといった視点は深刻になりがちで論じられる機会はまだ少ない。
トランスジェンダーの女性を主役に据えたNHKのドラマはこれまでの百合ドラマと違って『禁断』といった文字がキャッチコピーに躍らず『ポップでコミカルな痛快ガールズストーリー』としている時点である種の配慮が感じられる。単に百合ファンだけではなく一般的な人々やセクシュアルマイノリティへの配慮だ。
百合ドラマといえばツナミノユウ先生の『ふたりモノローグ』(講談社・サイコミ)が百合ファンの間で話題だ。2017年10月9日からAbemaTVで実写ドラマ化され放映中である。同じクラスの隣り合った席に座る女子高生二人の心理描写が特徴的で、クールなギャル主人公が隣の席の地味なクラスメイトの少女に萌え、愛し、執着する様子が百合萌えと笑いを引き出してくれる。
2017年は『おねロリ』(年の差がある百合カップリング)や『実の姉妹百合』といった百合が人気だった。
共通傾向としてコミカルな作風のストーリー百合作品の台頭がみられた。なんといってもツイッターで公表されるや否や10万RT・いいねを獲得し、連載と出版が決まったもちオーレ先生の『出会い系サイトで妹と出会う話』(KADOKAWA・電撃コミックスNEXT)。2017年1月より月刊化された『コミック百合姫』(一迅社)では百合の文脈を劇的に演じるカフェを舞台にした未幡先生の『私の百合はお仕事です! 』などもコミカルな百合の代表例だろう。そして『ふたりモノローグ』は笑いを催す点においては群を抜いている。
もちろん、これまでのように秘密の恋愛としての百合作品から出色の名作は輩出されている。だが恋愛色だけではない笑いのある作品はこれまでの百合になかった新しい風を感じさせる。かつてのように百合が「禁断で神聖なる少女だけの秘密の花園で育まれるもの」といった定石を覆すパワーがある。これは単に百合文化が飽和し、そのような旧式の文脈が破壊される必要に迫られての変化かもしれない。
また専門誌だけの作風であった百合が一般漫画でも取り入れられていることも2017年の特徴だろう。それらの新しい百合の一般化された要素が必然的に現実の人々と共有しやすいポップ路線への移行を招いているとしたら、無意識的にも人的配慮の感じられる作品となりえるだろう。
もちろん従来の百合路線を否定する必要はないが、確実に百合ジャンルは新しい可能性を感じさせる変化の時期を迎えている。
『YURI GAME JAM』は2015年から開催されている新しいイベントであるが、そのルールには既に成熟した視点が備わっている。『YURI GAME JAM』は全世界からの参加が可能だ。もちろん百合の原産国である日本からの参加者も歓迎されるだろう。
『YURI GAME JAM 2018』の開催が今から待ち遠しいところだ。未完成の百合ゲームをパソコンに眠らせている人は、今から埃を払って光をあててみてはいかがだろうか?
YURI GAME JAM
https://itch.io/jam/yuri-game-jam-2017 【リンク】
YURI GAME JAM 公式ツイッター
https://twitter.com/YuriGameJam 【リンク】
―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 小雨) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。