テレビのないリビングでゆったり暮らす。家庭にもたらす有意義な時間とは?
一昔前は家電における『三種の神器』として欠かせなかったテレビ。しかし、今ではテレビ離れが叫ばれ、リビングにテレビを置かない家庭も増えてきているという。家族が長い時間を過ごす生活空間からテレビを取り除くことで、どんなメリットが生まれるのだろうか。そこには、家族が充実した暮らしを営むためのヒントが隠されているのかもしれない。今回は実際にテレビから距離を置く家庭を訪れ、その生活について語ってもらった。
3つのステップでテレビ依存を解消
最初にお話を伺ったのは、ライフオーガナイザーの香村薫さん。著書『トヨタ式おうち片づけ』で知られるミニマリストの香村さんは、子どもが生まれたのをきっかけにテレビを購入したものの、家族がテレビに依存し、会話やコミュニケーションが減ってしまうのを危惧していたという。
「私は家族のテレビ依存を解消するために3ステップでリビングからテレビをなくしていきました。最初のステップでは『テレビの見にくい環境づくり』です。リビングとつながっている隣の和室にテレビを配置することで、物理的な距離をとりました」【画像1】まずはリビングから見るには距離がある位置にテレビを置いた(写真提供/香村薫)
距離をとることでテレビへの執着が軽減され、自然とテレビをつける頻度が減ったとのこと。また他の方法として、画面に対し普段座るイスの角度が90度に配置することで首に負担がかかり、長時間テレビを見ることを防止できるそうだ。
「これを続けていくと、次のステップでは録画が増えていきます。録画をすることで安心感を得られますし、自分にとって必要な番組かどうか、情報の取捨選択が行えるようになるんですよ。これが次のステップになります」
そして、最後のステップではテレビを全く別の部屋に移動。『テレビ専用部屋』とし、あえてテレビを見に行く部屋として位置づける。【画像2】子どもが成長したときに使用する予定の部屋を「テレビ部屋」として活用(写真提供/香村薫)
「リビングにあったころはずっとテレビに釘付けだった子どもが、今では見たい番組を見終わったら、ちゃんとリビングに戻ってくるようになりました」
時には家族そろってスポーツ観戦をしたり、映画鑑賞を行ったりしているという香村さん家族。専用のテレビ部屋を作ったことで、より集中してテレビを見るようになったため、満足度は高いそうだ。
テレビは固定家具じゃなく移動家具
ただし、年末年始など親戚やお客さんが大勢集まる時期にはテレビをリビングに移動することもあるという。
「テレビがあると人は集まりますよね。だから、ライフステージに応じてテレビを置く場所を変えれば、一つひとつの部屋が有効活用できると思いますよ」【画像3】リビングテーブルをテレビ台として使用(写真提供/香村薫)
テレビがリビングにあったころと比べて、家族内の会話が一段と増えたという香村さん。さらには、これまでテレビに取られていた時間を活かし夫が資格の勉強を始めるなど、思いもよらぬ効果もあったようだ。【画像4】テレビがないからこそ家族同士が向かい合える(写真提供/香村薫)
テレビのある生活が当たり前になった今、なんとなくテレビをつけている家庭も多いのではないだろうか。香村さんのように、テレビをその時々によって使い分ける方法を試してみるのもありかもしれない。
個々のやりたいことが明確に
続いては、3年前の引越しと同時にテレビのない生活を始めた今西ゆかりさん。新生活のバタバタで配線工事が後回しになり、3カ月ほどテレビが見られない状態が続いたとき「テレビがなくても支障がない」ことに気づき、家族に内緒で売却してしまったのだという。【画像5】長屋をリノベーションした今西さん宅のリビング(写真撮影/小野洋平)
「最初はみんな悲しんでいましたね。でも、夫はテレビがないおかげで早寝早起きの体質になり、体の調子がよくなったと喜んでいました。子どもたちも以前はテレビを見ていた時間にやりたいことを考えるようになったので、無駄な時間が減ったと思います」
そんな子どもたちの日課は工作。夕食後には「制作していい?」と決まって聞いてくるそうだ。【画像6】テレビがない代わりに工作に必要な材料・道具が常備されている(写真提供/今西ゆかり)
「テレビって受け身なんですよ。でも、なければないで『読書しよう』『お風呂入ろう』など頭の中で次の行動を考えて自発的に動くようになるんです」
今ではリビングで同じ空間を共有しつつも、各々が仕事、宿題、読書、楽器演奏、工作など思い思いの時間を過ごしていることが多いのだとか。時間が自由に使えるからこそ、自分にとって有意義な選択ができるのかもしれない。
テレビがなくても家族は盛り上がる
また、家族6人の時間が取れるときにはリビングに集まり、「音楽鑑賞会」や「ボードゲーム大会」を行っているという。
「音楽鑑賞会では自分が今、ハマっている音楽を家族に聴いてもらいます。ルールとしては聞きたくなくても最後まで聴き、貶(おと)してはいけないんです。世代、ジャンルの違った音楽を聴き合うので会話のきっかけにもなっていますよ。また、月に数回おこなうボードゲーム大会でも家族のつながりを感じることができます」【画像7】珍しいボードゲームが多数用意されている(写真撮影/小野洋平)
ちなみに、子どもたちがどうしても見たいテレビ番組があるときは、近くに住んでいる祖父母の家で鑑賞するそう。祖父母からすれば孫と一緒に過ごすきっかけとなり、同じ話題で盛り上がれる良い機会になっているに違いない。あえて距離を取ったからこそ、テレビは日常ではなく「特別な娯楽」の一つになっているようだ【画像8】見たいテレビがあるときは、予定帳にスケジューリングするという(写真提供/今西ゆかり)
「私も昔、家族とテレビを見て盛り上がった経験があります。それは一つの思い出です。でも、そのなかに音楽を聴きあったり、ボードゲームで盛り上がったりした思い出があっても面白いと思います」
いずれの家族も「家族内のコミュケーションが増えたこと」「時間を有意義に使えるようになったこと」が大きな実感だったと語る。流行に乗り遅れてしまうことは否めないというが、それでも続けられる理由は目に見えないメリットがあるからだろう。テレビのない生活で家族のつながりをつくる。これも家族円満の秘訣といえるかもしれない。●取材協力
・香村薫
・今西ゆかり
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