銀色夏生さんの詩集は、詞の伝え方が変わった一冊——アノヒトの読書遍歴:北澤ゆうほさん(前編)

銀色夏生さんの詩集は、詞の伝え方が変わった一冊——アノヒトの読書遍歴:北澤ゆうほさん(前編)

ガールズバンド「the peggies」(ザ・ペギーズ)でボーカル、ギターを務める北澤ゆうほさん。中学生でバンドを結成し、高校在学中にさいたまスーパーアリーナに立つ偉業を達成。今年5月は念願のメジャーデビューを果たした現在勢いに乗っているバンドです。今回は、そんな北澤さんの本との出会いや日頃の読書生活についてお話を伺いました。

——まず最初に、最近印象に残った本があればご紹介ください!
「沼田まほかるさんの『猫鳴り』という小説です。この本は人間の持つ深い闇の部分やそこに生まれる愛の形とか、絶対みんなが持ってるけどなかなか目に触れない部分っていうのが日常の景色の中に描かれている点で、目を見開く部分がいっぱいあります。これは一匹のモンという名前の猫を中心にした話が三章に分かれているんですが、それぞれ主人公も時間軸もバラバラなんです。でも読み進めていくと、一貫して人間の優しさと残酷さ、生と死のような表裏一体のものが表現されている一冊です」

——この本を読んで変わったことは何かありますか?
「全体的に不思議な魅力のある本なんですけど、最後にモンが老いて死んでしまうときに、お医者さんがモンは自然に死んでいくんだって、命の自然の流れに従っているだけなんだって言っていて。人間にとって死ぬっていうことは、どうしても恐いこととか辛いことなんだけど、それをただ単に命が突き進んでいった先にあるものって純粋に考えたら、生の反対にあるものが死という考えがちょっと揺らいだというか。自然の流れに沿っているだけなんだという言葉で、必要以上に反するものという風に考えなくてもいいんだって思えました」

——死生観が変わった一冊なんですね。ちなみに、北澤さんはいつ頃から本を読み始めましたか?
「読書については幼い頃から、家族で本屋に行ってはおもしろそうな本を買って読んでいました。その中でもすごく印象に残っているのが、森絵都さんの『カラフル』です。これは小学校低学年の頃に読んだんですけど、真っ黄色の表紙に『カラフル』って書いてあるのが印象的で、おもしろそうだと思って初めて自分の意思で選んだ本です。すごくおもしろくて何度も読み返しましたね」

——なるほど。大人になってからよく読む本はありますか?
「自分が作詞をする立場になってからは詩集を買うことが増えました。以前は結構難しい本が好きで、自分でも難しい言葉を使おうと思っていたんですけど、銀色夏生さんの詩集を読んだりして『あ、こんなに自分でもシンプルな言葉で心に響くんだ』と思って。そのまま発するだけだと、ふわっと宙に浮いてしまうような軽さが出る言葉もあるんだけど、言葉のニュアンスや工夫次第ですごい重みが出るんだって、そういう勉強になるので詩集はすごく読みます」

——詩集が音楽活動に影響してたりするわけですね。
「ええ、シンプルなものこそノスタルジックな気分になったり、『あったな、そういうこと自分にもあった』っていう感情がエモーショナルな気分にさせてくれることもあるので、最近はあえてシンプルな言葉で等身大に伝えるっていうのを意識しています。あとは、もっといろいろ勉強したいって意味で、女性誌で連載もされてる唯川恵さんは女性から支持されたり、女性だからわかる表現をしてらっしゃる方なんだって思うので、すごく勉強になります。私の恋愛体験にも限界があるので、読んでいて『あ~恋愛だとこういうことがあるのか、なるほど~』と(笑)。自分で音楽を作る立場になってからは、それを自分だったらどうするかなって考えたりするので、本の楽しみ方が変わりましたね」

——北澤さん、ありがとうございました! 次回は心を掴む「the peggies」の恋愛の詞にも影響を与えた2冊の本をご紹介します。

<プロフィール>
北澤ゆうほ きたざわゆうほ/東京都出身。石渡マキコ(Ba)、大貫みく(Dr)からなるガールズロックバンド「the peggies」(ザ・ペギーズ)のギター、ボーカルを務める。中学校の軽音楽部にてバンドを結成し活動を開始すると、多くの支持を得て高校在学中にも関わらずさいたまスーパーアリーナに立つ。2015年11月にリリースされた初のフルアルバム『NEW KINGDOM』のリード曲「グライダー」が話題となり、2017年5月にはついに「ドリーミージャーニー」で華々しくメジャーデビューを果たした。

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