国策クールジャパンの暴走、経済産業省主導で行う官民ファンド産業革新機構を使った法令無視の公金横流しスキームの実態(ヒロ・マスダのブログ)

 国策クールジャパンの暴走、経済産業省主導で行う官民ファンド産業革新機構を使った法令無視の公金横流しスキームの実態

今回はヒロ・マスダさんのブログ『ヒロ・マスダのブログ』からご寄稿いただきました。

国策クールジャパンの暴走、経済産業省主導で行う官民ファンド産業革新機構を使った法令無視の公金横流しスキームの実態(ヒロ・マスダのブログ)

2017年5月31日、産業革新機構はフューチャーベンチャーキャピタル(以下FVC)への株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS(以下ANEW)全株譲渡を発表した。ANEWとは、日本のIPでハリウッド映画を作るという目的で経済産業省が企画を主導し、その後押しを受け産業革新機構が100%、60億円の出資決定を行い設立された官製映画会社である。

産業革新機構はこれまでANEWに対し、資本金及び資本準備金合わせ22億2000万円の投資を実行しているものの、投資実行時に国が評価していた成長性、革新性、社会的意義、投資回収の高い蓋然性等の将来見通しは全て破綻していた。ANEW設立以降に撮影に至った映画は0本、一方、成果がなしにも関わらず今日まで少なくとも18億円以上の赤字を垂れ流している。

2014年に財務省は産業革新機構の出資会社への監査未実施に対し改善要求を行っている。当時の担当職員は「ANEWのような会社にはこれ以上公的資金からお金は出ないでしょう」という見解を語っており、ANEWの1年の赤字額が4億円程度であることを総合すれば、映画ビジネスにおいての持続的可能な経営は不可能だったといえ、このまま行けば近々破産するのが目に見えていた会社だといえよう。

経済産業省は毎年施策方針を発表しているが、これまで「コンテンツ海外展開の国策」の柱として掲げきたANEWを今年度の資料からは削除している。このことからも経済産業省も今年中のANEWの実質的な経営破綻やただ同然の身売りを予想していたに違いない。

そもそも、ANEWは設立当時から映画ビジネスにおける利益回収の根拠を一切示さず、「クールジャパンらしさの追求」、「グローバルモデルによるイノベーションで日本が生まれ変わる」など陳腐な経営理念のコピーのみで60億円の投資を決定した。また、映画製作で配当を得る将来見通しなどが完全に破綻しているにも関わらず、2014年の11億円を含2回の追加投資を実施し、損失を拡大させた。

その間、産業革新機構の業績をチェックするはずの監督官庁である経済産業省幹部は「ANEWの経営は順調」という旨の経営説明を国会等で行い、さらには、法令に定められた行政文書に虚偽記載まで行い本来行ってはいけない利益相反経営体制をごまかしている。

こうした行政ぐるみの法令及びガイドラインを歪めた巧妙な公金横流しスキームの中では、投資への客観性を欠くだけでなく、ガバナンスも効きにくい。映画コスト回収の責任を負うことなく国の金だからとハリウッドにばら撒くだけばら撒いても経営者は痛まない。映画作りの一番楽しいところだけを謳歌した経営はさぞかし楽しかったに違いない。

産業革新機構は官民ファンドとはいうものの、国が95%出資と実質は官ファンドであり、ANEWの巨額損失も一方的に国民に押し付けられる形になっている。また、官民ファンドという皮を被ると、国民に対し情報公開をしなくてもいい制度にもなっている。

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経産省による法令違反と利益相反経営体制への投資事実の隠蔽

ANEW投資には明確な法令違反が確認できる。95%以上が出資者「国」の産業革新機構には「産業競争強化法」に基づき、経済産業省による毎年の業績評価が義務付けられている。当然ANEWに対しての業務評価も行われてきたが、今日まで発表されている平成24年度から平成27年度の業績評価にはいずれも「社外取締役2名を派遣した」と記載されている。

これだけを見ると、報告書の書面上は株主の官民ファンドと投資先企業との「通常の株式会社」における健全な監視、牽制関係が存在するように思えるが、ANEWとは産業革新機構マネージングディレクターの高橋真一氏が事業設計を行い、設立後に代表取締役に就任した会社である。その後、ANEWの経営責任者はころころと何度も交代したが、高橋真一氏が社外取締役に就任し、中立的な見地でANEWの経営を監視、牽制する立場にいた事実は一度もない。

そればかりか、設立時の社外取締役は高橋真一氏の下で、共にANEWの事業設計に携わった長田志織氏が就任しており、産業革新機構の上司と部下が自分ら経営者になる会社に100%出資する利益相反関係にあった。こうした利益相反の経営体制が存在していても、ANEWのホームページには高橋真一氏だけでなく、これまで就任した産業革新機構の役員情報は一度も掲載されてこなかった。

経済産業省はこの設立に密に関係し、メディアコンテンツ課伊吹英明氏課長はロサンゼルスの出張で現地聞き取り調査を行っている。さらに伊吹英明氏と高橋真一氏はANEW設立前の2011年8月26日に外国人記者クラブで会社設立の報告まで行っている。さらに、経済産業省は設立直後に職員まで出向させていて、この事実からも、経済産業省が高橋真一氏のANEWでの立場を知りえないというのは考えられない。したがって、故意に「本来やってはいけない投資」を踏み切るために法令に定められた業績評価に毎年虚偽を書き続けたといえ、明確な違法行為によってANEWが設立、運営されてきたと言えるだろう。

その後、ハリウッドのエージェント時代に日本企業が関わる巨額買収契約締結の経験があるサンディ・クライマン氏がCEOに就任しているが、そもそもクライマン氏は産業革新機構が後から連れてきたCEOであるとの発言が議事録に残っている。また、ハリウッドの映画契約ではプロデューサーとは映画会社の幹部が自動的に名前が挙がるものではなく、プロデューサー契約では、映画での報酬、利益シェアにも参加できる。したがって、ANEW企画作品にプロデューサーとして名を連ねているクライマン氏は、日本の公的資金で運営するANEWと映画の両方から稼ぐことができる非常好都合な形にもなっている。

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官民ファンドガイドラインを歪め、国が国民に対する説明責任、情報公開を拒否できる制度

官民ファンドには、活用推進に関する 関係閣僚会議で決められた「官民ファンド運営に係るガイドライン」というものが存在する。その中の「監督官庁及び出資者たる国と各ファンドとの関係 」の項目には「投資決定時における適切な開示に加え、投資実行後においても、当該投資について適切な評価、情報開示を継続的に行い、国民に対しての説明責任を果たしているか」とある。

2012年9月15日発行『IPマネージメントレビュー6号』のインタビューにて、ANEWの最高執行責任者黒川祐介氏(当時)は「ANEWは数年に渡る経済産業省の企画を経て設立された」と述べている。また『2012年5月15日内閣府コンテンツ強化専門調査会第10回』において、経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課課長の伊吹英明氏は、ANEWに設立に関し、ロサンゼルスに出張し現地エンターテイメント弁護士から聞き取り調査を行ったと答弁していることが記録に残っている。

これらの事実を根拠に、経済産業省に対して情報公開請求を行ったところ、経済産業省はANEW設立に関する公文書は確認できないと不開示決定を行っいる。これに対しては異議申し立て(現在審議中)を行っているが、経済産業省はそこで黒川氏、伊吹氏の発言は個人の立場で勝手に言っていることだとし、公文書の不存在を主張し、異議の棄却を求めている。

なお、産業革新機構が経済産業大臣に提出した『日本コンテンツの海外展開推進会社設立について』(2011年6月27日)の資料は開示されたが、産業革新機構のロゴ以外すべて黒塗り開示となっている。

経済産業省は「当該法人の競争上の地位その他正当な利益を損なうおそれがあると認められる」との理由を述べているが、そもそもANEWとは「ハリウッド映画化のノウハウを広く国内に還元する」という理由で公的資金出資が認められている会社でもあるため、この不開示理由も極めて矛盾したものである。

産業革新機構は、今回のFVC社への株式譲渡についてはその金額を非公表と発表した。

官民ファンドのガイドラインに国民に対する説明責任が明記されていながらも、現状は、映画企画開発では考えられない18億円以上赤字を垂れ流した経営の事実があろうが、公の金で作られたANEWについての設立経緯、経営状況、Exitに関する情報は一切開示されない。

たとえ、ガイドラインには「投資実行後における、適切な評価に基づく、各投資先企業についての財務情報、回収見込み額、投資決定時等における将来見通しからの乖離等の把握」とも定められているが、経産省はこれらに対し「公文書は作成も保有もしていない」を押し通した。

すなわち、官民ファンドとは、国は決められた国民への説明責任を蔑ろにし、官民一体で公的資金に関わる情報を完全ブラックボックス化できる非民主的制度になっている。

(2017年7月20日、8月13日加筆)

6月29日にFVC社は有価証券報告書においてANEW買収額がわずか3400万円であったと発表した。また、8月10日にはANEW子会社化による負ののれん発生益 2億3200万円を特別利益として計上したことを発表した。

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ガバナンスが効かない利益相反行政と経営体制による公金横流し

ANEWはこれまで7作品の「映画企画発表」を行っているが、配当はおろか、撮影に至った映画は0本である。この成果に18億円以上を費やしたという結果は、映画ビジネスの常識では考えられないナンセンスなものである。

こうした無秩序経営と国民財産の毀損を野放しにした原因は、上に示した通り、監督官庁の経済産業省が設立を企画、職員を出向させ、100%株主だった産業革新機構の上司と部下が代表取締役と社外取締役の関係で経営を行うなどを行った利益相反の行政と経営体制にあるといえる。

その証拠に、ANEWは第4期の決算公告に2057万5000円の「賞与引当金」を計上している。また、第6期決算公告には初めて売上高1500万円を記録している。これは産業革新機構が株式譲渡を発表したプレスリリースにある「年内中に製作開始予定の作品」の脚本が売れた金額と推測できるが、ANEWの6年間の売上高は、経営者が自分たちで決められる自分たちへの1回のボーナスに満たない。ちなみに第4期といえば、すでに「3年で利益が出る」といった将来見通しの破綻が判明している年である。

ANEWとは単なるハリウッド投資での金儲けではなく、「日本を元気にする知的財産戦略」の一環として日本の産業再生までが約束事で公金投資が認められた事業である。しかし、こうした公的資金投資の社会的意義より、自分たちへの2000万円のボーナスを優先されている。これは「国の金だから」という甘えに他ならない。

こうした無秩序経営が行われ、巨額国民財産を毀損していても、利益相反の取締役会、株主総会では何の問題もないとされて来た。さらには、官民ファンドと国の関係が明確に定められてていても、経済産業省も本来定められた行政の役割と責任を果たすことなく、国民に虚偽の説明を行い、国策クールジャパンの暴走の片棒を担いできたといえる。

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”合法投資手続き”の瑕疵、経産官僚があらかじめ用意した大臣意見書

産業革新機構に関する法令には、経済産業大臣に対し出資先の対象事業者に対する意見を伺うことが定められている。

行政開示文書によると、平成23年6月27日に産業革新機構社長の能見公一氏(当時)が送った書面に対し、海江田万里経産大臣(当時)は同じ日の6月27日に「社会的意義を有するものとして高く評価できる」と回答している。また、能見氏と民主党の海江田大臣の関係であるが、能見氏はそもそも民主党が連れてきた社長であると政府関係者が発言している。

複雑な海外映画事業の書面と資料を受け取り、即日、その投資に成長性、革新性、社会的意義が認められると回答することは到底できるものではない。また、ANEWにおいては今日の結果が示す通り、映画ビジネスの専門性から見れば、事業そのものが一目でナンセンスだと判断できる虚業である。

すなわち法令で定められた大臣承認は形式的なものに過ぎず、経済産業省の関与が明らかなANEWは、官僚主導の出来レースであったと考えるのが自然である。従って、法令に定められた経済産業大臣の職務怠慢も今日の結果を招いた一因であるといえよう。

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ANEWの不当廉売による日本IPの独占

官民ファンドガイドラインには、「競争に与える影響の最小限化」も定められている。しかし、ANEWが行ってきた業務は、ANEW決算にある過去の売り上げ高が示す通り、日本企業IPの英語資料を作り、契約、法務、交渉を無料で行い、さらには脚本家に係る経費までANEWが負担するというものになっている。

ハリウッド映画コンサルティングであれば、本来対価を得るべきサービスであり、これを無料で不当廉売し、さらには採算性を度外視しで、開発資金を公的資金で支援するお土産までつける。まして国策支援の看板をつけて業務を行えば、国内で独占的な立場を獲得できる立場になりえ、競争における影響は多大だったといえる。

国はガイドラインで認められた職員出向だけは直ちに行っているが、こうしたチェックは行って来なかった。経済産業省報政策局文化情報関連産業課課長の伊吹英明氏においては『2012年5月15日内閣府コンテンツ強化専門調査会第10回』で、「日本のコンテンツはここに預けないとそもそも仕事ができない」などとANEWの独占的事業を宣伝している。

お墨付きを与える政府御用会議

ANEWには「コンテンツ強化専門調査会」と「知的財産本部、評価、検証、企画委員会」という政府会議も深く関わっている。

これらの会議は中村伊知哉氏が座長を務めており、同氏はANEWに言及した著書『コンテンツと国家戦略』角川出版から発売している。

「評価、検証、企画委員会」においてはANEWの検証を求める意見が委員から出されていた。しかし、ANEWを推進する「コンテンツ強化専門調査会」でも座長を務めた中村氏や、経営説明をしてきた経産省伊吹英明課長は、検証意見に一切答えることなくこれを聞き流していた。

結局、こうした会議は官僚たちの「私達こんなことにお金使いました」の発表会に過ぎず、無駄事業にお墨付きを与えるだけの御用会議化になっている。

2016年末には内閣府に「映画の振興施策に関する検討会議』が組織された。2017年に施策方針が取りまとめられた。そこでは、新たな官民ファンドのクールジャパン機構を利用したリスクマネーの供給を行う施策を講じることが取りまとめらている。これは第2のANEWになりかねないか今から注視する必要があるように思える。ちなみにこの会議の座長もまた中村伊知哉氏が務めている。


中村座長(@ichiyanakamura )「検証すべきと意見がでましたが、これを受けて行政は何かありますか?」

経産省伊吹課長「…」

大臣が冒頭に言ったハリウッド映画作りへのビジョン、官製会社で2年前からやって、こうして自白する発言機会もあるのに無視。本当にしらじらしかった

経済産業省と産業革新機構の責任を追及せよ

私は、ANEW設立の発表直後から5年間に渡りその産業支援のやり方に警鐘を鳴らしてきた。そもそもロサンゼルスと虎ノ門にオフィスを構え、アメリカ支社にはANEW Productionsなる子会社まで作り、ころころ変わる専門性を持たない役員や経産省出向役員を雇い、売上高0円ながら数千万円のボーナスを計上するような経営で利益が出るような映画企画開発ビジネスなど最初から存在していない。しかしこんな法令無視の虚業が「日本を元気にする知的財産戦略」の大成果だと評価され、結果国民財産の大きな毀損を生んだ。

ANEWの問題は単なる損得の問題ではなく、ANEWにおいては「莫大な国富を国内のクリエイティブ産業に還元し、日本のエンタテイメントを再生する」までが公的資金投資に含まれていた約束である。日本のエンタテイメント産業には未だ問題は山積で、多くの「困った人」がいる。こうした働く「人」を無視し、国民財産を毀損させた国策の損失は、決して金銭的損失にとどまらず、日本のクリエイティブ産業の発展や国際競争力という別の大きな損失を生んでいることになる。

個人的な意見としては、民間でファンドマネージャーが顧客の18億円を毀損させたら、その者の将来にこの分野の職があるとは思えない。ましてや毀損した原因が自らが設計し、経営する会社に100%投資した結果なら、出資者から訴えられるのが当然である。仮に民間の映画プロデューサーが「日本ではうちしかできないことだ」「3年で利益が出る」、経営途中で「撮影準備中の映画があり経営は順調だ」と偽り、金集め、5年後に映画すら存在していない場合、映画投資詐欺の罪で刑務所行きもありうる話だと思う。

ANEWへの投資については、規制、監督する立場の経済産業省が出向し、法令に反し偽りの業績報告を国民に対し行い、国会では虚偽の経営報告まで行っていた。法令、ガイドラインこそあるものの、現状では、それを行政がそれを歪め、本来定められた国民に対する説明責任も全て闇の中にできるのが官民ファンドの制度になっている。

映画ビジネスにおける「需要」と「供給」とは、日本の公的資金で食べるための「需要」と「供給」ではない。形骸化された民主主義制度を作り上げ、国民財産の損失を自己利益にかえるような不適切な投資が「クールジャパン万歳」「日本再生のて目の適正な投資」というのはあってはならない事である。

ANEWの件おける経済産業省と産業革新機構の責任追及は絶対に必要であろう。


後の事実を知ってから産業革新機構プレスリリースを読むと白々しさへの怒りが倍増

”INCJでは、映画製作開始の目途がついたことに加え、ANEWの今後の事業展開やFVCとの提携による成長可能性を慎重に検討した結果、保有する全株式をFVCに譲渡することが適切という判断になりました”

読者が普通の注意でこのリリースを読めば産業革新機構が何かいいことしたような印象を受ける。実際は「INCJは22億2000万円を投じ、役員が代表取締役と社外取締役を務める利益相反経営を続けてきましたが、何の成果も出ず潰れそうなのでこの度3400万円でExitする判断しました、てへ」

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https://hiromasudanet.wordpress.com/2016/01/14/anew_3/

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執筆: この記事はヒロ・マスダさんのブログ『ヒロ・マスダのブログ』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2017年09月27日時点のものです。

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