ガジェット通信 GetNews

見たことのないものを見に行こう

体験を伝える―『ガジェット通信』の考え方

面白いものを探しにいこう 本物を体験し体感しよう 会いたい人に会いに行こう 見たことのないものを見に行こう そしてそれをやわらかくみんなに伝えよう [→ガジェ通についてもっと詳しく] [→ガジェット通信フロアについて]

造形作家・澤奈緒さんがVRアートに挑戦──VRクリエイティブ・プラットフォーム「STYLY」を活用

浮遊し増殖する巨人像。時空の広がりに立ちすくむ

深く落ちくぼんだ眼窩。目、鼻、口を覆う白い皮膚は削り出された岩のようでもあるし、骨のようでもある。そんな人の顔をした石像が、夕闇迫る空を背景に浮遊する。一つ、二つ、いや数え切れないぐらいに増殖する。

石像に近づこうと一歩足を踏み出すと、いつか像は巨大化し、天空を覆う。手が届きそうだが、触われそうで触われない。

眼下には水平線さえ見えない広大な海。吹きすさぶのは成層圏の風の音。自分の位置の高さを自覚して、一瞬足がすくむ。いま自分はどこにいるのか。ここは地球か、それとも別の惑星か。これは夢なのか現実なのか……。

そんな不思議な体験ができるのが、石塑粘土や古布などを素材とした制作する造形作家・澤奈緒さんの「Quantum Composition by SAWANAO」と題された展示会。といっても、リアルな立体作品がどこかに展示されているわけではなく、作品をバーチャルな世界に投影したVR展示会だ。

VR空間で鑑賞できる澤奈緒さんの「Quantum Composition by SAWANAO」。WEBブラウザからVR空間を閲覧したり、動画で鑑賞することも可能だ

作品はVRスタートアップのPsychicVR Labが提供する、VRクリエイティブ・プラットフォーム「STYLY(スタイリー)」を使って制作された。観客はVR用のヘッドマウントディスプレイを装着して観賞する。

コンピュータによって作り出された人工環境を現実として知覚させる技術「バーチャルリアリティ(VR)」。人間の知覚を拡張する技術の一つとして、科学技術分野における情報の可視化や疑似体験システム、医療、アミューズメントなど幅広い領域での応用が進んでいる。

一方、芸術表現とVRの結合についてさまざまな試みも始まっている。バーチャル世界のギャラリーで、世界中の美術館に所蔵されているアート作品の鑑賞を可能にする「Google Arts & Culture VR」や、ソニー・デジタルエンタテインメントが運営する世界初のVRアート専門ギャラリー「VR GALLERY」が登場したのは2016年。この年はVRアート元年とも呼ばれる。

芸術の歴史は、それぞれの時代の最先端テクノロジーを使いながら、人々の視聴覚体験を拡張し、人間の心理を含め、見えないものを見ようとしてきた歴史ともいえる。

20世紀中盤からは芸術表現にコンピュータを積極的に利用するメディアアートという分野も誕生した。VRという新しい技術に表現の可能性の新境地を託すアーティストがいても、なんら不思議ではないのだ。

そんな一人が、澤奈緒さんだ。武蔵野美術大学で視覚伝達デザインを学び、卒業後にイラストレーションの専門塾にも通い、最近の作品は2次元の制約を超え、立体へと向かうようになった。

造形作家 澤 奈緒さん
仏教や神道をベースとした精神世界と科学をテーマに、主に石塑粘土や古布などを素材とした立体作品を制作し、国内外で作品を発表している。2014年、IMA展にて外務大臣賞を受賞。NAO SAWA WEBサイト

2013年の個展『零度の惑星G』は、ディストピアを乗り越えユートピアを実現した、とある惑星の生物たちというのがテーマ。

その中心には、そぎ落とされた骨のように肉体が独自の進化を遂げた全長約1mの「宇宙の弥勒菩薩」が鎮座している。それらの造形には澤さん自身の幼少期のトラウマへの鎮魂や、理想の世界への祈りが込められているという。

澤 奈緒さんの作品「宇宙の弥勒菩薩― SPACE MAITREYA」

VRで、クリエイターの発想や表現の幅が変化する

しかし、澤さんとVRの出会いは実はごく最近だ。

「4カ月前まで、自分がVRの世界に足を踏み入れるなんて考えもしませんでした。以前から作品のテーマとして精神世界への興味はあり、古代エジプトで死者とともに埋葬された『死者の書』の世界をいつか自分の作品で実現したいと思っていました。

ただ、リアルな立体作品でそれを構成するのは展示スペースに限りがある。VRならもしかしたら可能かもしれないと思ったんです」

その可能性が現実になったのは、PsychicVR Lab 代表取締役の山口征浩氏との出会いからだ。同社は、以前からリクルートが渋谷に開設するスタートアップアクセラレータラボ「TECH LAB PAAK」に参加しており、2016年の成果発表会では特別賞を受賞した。

その副賞として日本マイクロソフトのテクノロジーセンターを同センター長の澤円氏自らに案内してもらえる権利を獲得した。実は、この澤円氏の夫人が澤奈緒さんというわけだ。

1 2次のページ
CodeIQ MAGAZINEの記事一覧をみる
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

山寺宏一&高木渉で『ポプテピピック』

GetNews girl / GetNews boy