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過去の亡霊につきまとわれる中年男の救いなき人生再出発スリラー 『スモール・クライム』

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 「ゲーム・オブ・スローンズ」のニコライ・コスター=ワルドーが主演を務めた犯罪スリラーである。主人公はかつて警官だった頃に悪事に手を染め、6年間の刑期を終えた中年男ジョー・デントン。彼の望みは崩壊した人生を立て直し、愛するふたりの娘の父親として再出発することだ。
 
 冒頭の神父のセリフによって、本作のテーマが“人生のセカンドチャンス”であることがのほめかされるが、すでに別の町に去って行った元妻に面会を拒絶され、ジョーの切なる願いはあっさりと霧消する。それどころか地元の新聞には“切り裂き魔の元警官、出所”と仰々しく書き立てられ、実家の年老いた両親(ロバート・フォスター、ジャッキー・ウィーヴァー)には疫病神扱いされる。おまけにジョーに恨みを抱く者、新たな犯罪を強要してくる者が次々と現れ、アルコール依存の悪癖も絶ちきれない彼は、たちまち崖っぷちに立たされていく。
 
 主人公が過去の亡霊にまとわりつかれるプロットは、この手のジャンルではまったく目新しくないが、本作を覆い尽くす閉塞感はちょっと尋常ではない。何の変哲もない田舎町が舞台で、くすんだグリーンを基調とした映像は、観ているこちらまで憂鬱な気分にさせる。いっそのことフィルムノワール的な味わいを打ち出すためにモノクロで撮ったらどうかと思うが、2013年の『Cheap Thrills』以来の長編2作目となるE・L・カッツ監督は、そうした様式美の類いには興味を示さない。このバイタリティが完全に欠落した陰気なヴィジュアルこそ、ジョーを取り巻く救いのなさにふさわしいと判断したのだろう。
 
 悪いのはジョーの周辺環境だけではない。「俺は罪を償って生まれ変わった。過去を忘れて前に進みたい」と言い放つこの主人公は、その言葉とは裏腹に何事にも流されやすい男であり、かといって開き直ってワルにもなりきれない中途半端な凡人だ。そんな事態をややこしくするだけの行き当たりばったりを繰り返すジョーも、シャーロット(モリー・パーカー)という看護師との恋に束の間の安らぎを見出すが、この心優しき猫好きの女性もまた得体の知れない孤独の影をまとっている。本作はこうしたキャラクターの微妙なニュアンスの表現が実にうまく、奇妙な凄みさえ感じさせる。そして何かに呪われたかのように不運続きのジョーは、シャーロットを始めとする周囲の人々を否応なく巻き込み、血みどろの惨劇が相次ぐ破滅的なクライマックスへと突き進んでいくのだ。
 
 前半のやるせない閉塞感がいつしか絶望感へと変わりゆく終盤に至ると、本作は“人生のセカンドチャンス”を描く生易しい映画などではなく、もっと深刻で病的で恐ろしい“人生の不条理”の探求に主眼があったのだと気づかされる。それもそのはず脚本を手がけたのは、『ブルー・リベンジ』の主演俳優であり、Netflixオリジナルのブラックなクライム・コメディ『この世に私の居場所なんてない』で監督デビューを飾ったメイコン・ブレアなのである。
 
 ちなみにブレアはジョーの味方か敵か判然としないキャラクターで助演も兼任しており、『ブルー・リベンジ』を彷彿とさせる破れかぶれの大暴れを披露する。そしてその唐突な見せ場の先には、このどこにも救いのない人生再出発スリラーにふさわしい幕切れが待っている。
 
※Netflixオリジナル映画
「スモール・クライム」独占配信中
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80164212

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