遠藤周作から生き方を学び、筒井康隆から発想を学んだ——アノヒトの読書遍歴:石黒謙吾さん(前編)
「著述家」「分類王」として活動し、多くの書籍の執筆に加え、プロデュースや編集も手掛ける石黒謙吾さん。著書ではノンフィクション作品の『盲導犬クイールの一生』は映画化され大きな話題となりました。分類王としても『図解でユカイ』『ナベツネだもの』などでさまざまな図表を駆使し、あらゆる物事を分類する内容の書籍を執筆しています。プロデュース・編集した作品も『ジワジワ来る○○』シリーズや『負け美女』などをはじめ多数で、その数は200冊を超えます。6月に発売されたばかりの『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』は、多くの読者を魅了し発売からわずか2カ月で10万部を突破。このようにプロデュース・編集・執筆の仕事に熱く取り組む一方で、キャンディーズとビールと高校野球と犬と笑い、そして熱いものをこよなく愛するという石黒さん。今回はその人生に大きな影響を与えた本をご紹介します。
——人生において影響を与えた本というとどんな作品が挙げられますか?
「遠藤周作さんの『ぐうたら人間学 狐狸庵閑話』というエッセイですね。僕が13歳のとき、たぶん一番最初に自分のお金で買った本なので、その後の人生においてすごく影響を受けている一冊です」
——どんな点が印象に残り、影響を受けましたか?
「ぐうたら人間学は、どこがすごく印象的というシーンがあるわけではないんですけども、とにかく全体を通してこの緩さ。小説を書くなんてすごい人たちの、日々こうして作家仲間とお酒を飲んでいるだとか、こんな風に芝居をやって楽しんでいるだとか、さまざまなことが盛り込まれていて、こんなに伸びやかにやんわりと、ある意味適当に暮らせるんだな、と。すごく楽しく暮らしている感じがあって、そこにかなり影響を受けました。内容は何でもないことの連続なんですけど、軽いタッチで日々の何でもないことを記していくというのがさすがだな~と思います。僕は楽観主義で生きてきているんですけども、『人生何とかなる』と思わせてくれたのはこの本です」
——現在の仕事にも影響を与えている一冊という感じでしょうか?
「僕は自分で書く本の中にはシリアスな文章もあるし、分類王というややこしいクリエイションもあるし、そしてプロデュースも、とさまざまなジャンルをやっていて、本を作るのは楽しいと思っています。ではこの『ぐうたら人間学』が僕が今やっているクリエイションに影響してるかっていうと、さほどしていないんです。ただし、僕が編集者として生きようと思ったのは『出版の世界は何とかなる世界なんだ』っていう大前提がこの本によって刷り込まれていたからなんじゃないかと。絵に挫折して芸大を諦めたとき、出版の世界っていうキーワードが出てきたのは、一つにキャンディーズのランちゃんに会いたいっていうのと、もう一つは遠藤周作先生が『ま、何とかなるよねこの世界』っていうメッセージを13歳の僕に残してくれたんじゃないかと思っています」
——どんな人におすすめしたい一冊でしょうか?
「意識高い系の人におすすめしたいですね。僕は、意識高いってすごく良いことだと思うんですけど、あんまりみんながっついてると、がっつかない方が格好良いんじゃないかっていう気持ちがあって、それがぐうたらシリーズからきてるんですけど。あなた肩の荷降ろしてぐうたら人間学でも読みなよって言いたくなるくらい緩めていただきたい人、自分が緊張してまずいってテンパっている人にぜひ読んでいただきたいです。ぐうたらって素晴らしい言葉で、ぐうたらにやっているから集中できるわけで、僕もオンとオフ、ぐうたらと集中の差はけっこうつけていて、それが楽に生きられる肝だと思っているんです。だから一事が万事一生懸命突き進んでしまうという人にはおすすめしたいです」
——『ぐうたら人間学』以降に影響を受けた本はありあますか?
「遠藤周作さんと親交があった吉行淳之介さん、安岡章太郎さんのエッセイや小説を読みましたね。それから世界文学も気になり始めて、いわゆる王道の海外文学も読みましたけど、やっぱり難しいなって思いながら読んでいました。中学の終りか高校に入った頃に、筒井康隆さんの『乱調文学大辞典』という実験的な一冊に出会い、この人天才! って思ってかなり影響受けましたね。今やってる分類王というクリエイションとか、今回の『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』っていう本も、遊んでいいみたいなところはたぶん筒井康隆さんの影響が大きくて、僕の中には相当染み込んでいますね。遠藤周作先生からはリラックスして生きていけるということを学んだし、筒井康隆さんは僕の発想の源みたいな感じです」
——ありがとうございました! 次回は石黒さんがお薦めする、ものの見方、考え方を変えてくれる本のご紹介です。お楽しみに!
<プロフィール>
石黒謙吾 いしぐろけんご/1961年金沢市生まれ。著述家・編集者・分類王。高校時代はキャンディーズの追っかけにすべてを賭り、高校卒業後に上京。芸大浪人生活を始めるもドロップアウト。絵を描くことを諦め編集の道に進むべく「日本ジャーナリスト専門学校」に入学。卒業後は講談社でライターの見習いを経験したり、編集者としての仕事も始める。『Hot Dog Press』で契約編集者として多忙な日々を送り32歳で退職、フリーに転身。書籍の執筆、プロデュース、構成・編集を始める。2001年、著書である『盲導犬クイールの一生』が刊行となり、徐々にヒットし映画化される。今年6月にプロデュース・編集を手掛けた『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』が各メディアで取り上げられ話題となる。
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