大人の「人見知り」こそ実践したい、人の心を掴むコミュニケーション術とは?
コミュニケーション総合研究所代表理事の松橋良紀さん。そんな松橋さんに「コミュニケーションの極意」についてお話しいただくこのコーナー。第28回目は「人見知りでもすぐに実践できるコミュニケーションのテクニック」についてです。
「新卒採用で重視していること」という企業アンケートでは圧倒的にコミュニケーション能力を重視していることが以下の結果からわかります。
コミュニケーション能力 85.6%
主体性 60.1%
チャレンジ精神 54.0%
協調性 46.3%
誠実性 44.4%
責任感 27.4%
論理性 27.2%
潜在的可能性 20.8%
リーダーシップ 20.5%
柔軟性 16.8%
(出典)経団連「2015年度新卒採用に関するアンケート調査結果」一部抜粋
私が開催している話し方セミナーやコミュニケーション心理セミナーには、「上司から『お前はコミュニケーション能力がなさすぎるから、何かセミナーに行って来い』と言われて来ました」という方が何人もいます。コミュニケーション能力は、新卒だけが求められる能力ではありません。会社で仕事をする以上、常に求められるスキルなのです。
なぜこれだけ、コミュニケーション能力を重視する会社が多いのでしょうか?
それはやはり、コミュニケーション能力が低いために、育成に苦労をしている会社が多いためと考えられます。
コミュニケーションとは何か?
私は、コミュニケーション専門家として講師をしたり、コミュニケーション心理学の書籍の執筆をする仕事を始めて10年以上が経ちます。この仕事をしていてびっくりしたのは、多くの方が「大人の人見知り」に悩んでいるということです。
明るくてさわやかで初対面から笑顔で話が弾んだ人が、「実は私、人見知りなんです。知らない人ばかりのところに行くのが苦手なんです」「コミュニケーションが苦手なんです」とおっしゃいます。誰から見ても社交的なのに、本人は苦手意識を持っていることは少なくありません。人見知りは決して悪いことではありませんが、仕事柄人見知りを克服したい、という方のために、コミュニケーション能力を高めるテクニックについてお話します。
では、コミュニケーション能力とはいったい何を指すのでしょうか?
基本スキルは2つです。
伝える技術と、受け取る技術です。
伝える技術とは、話すことと、書くことです。
受け取る技術とは、聴くことと、読むことです。
初対面の人と話すことに苦手意識を持っている人は、伝えて、受け取って、また伝えるという、基本的なキャッチボールがうまくできないのです。
私は小学生のころ、野球をしていました。顧問の先生の指導で、練習は必ずキャッチボールから始まります。キャッチボールでは、適切なコントロールと、適切なスピードが大事です。コントロールが狂って、相手が受け取りにくいところに投げてしまうとキャッチボールは続きません。また、近距離なのに全力で投げたら、相手がキャッチできないどころか、大ケガをさせてしまう危険もあります。
コミュニケーションでの会話は、このキャッチボールに似ています。
コミュニケーションが苦手な人は、違う方向にボール(会話)を投げてしまったり、相手との距離感を考えずに、「ほら、私が投げるボール(話)ってすごいでしょ」と言わんばかりに、全力で投げたりします。
また、コミュニケーションが苦手な人は受け取る技術も下手です。
投げた相手が気持ちよくなるような受け取り方ができません。
次にどんなボールを投げようか、ということばかり考えて、相手がボールを投げ返したことに気づかない人もいます。
ひどい人になると、「あなたのボールには興味がない。自分にもっと投げさせろ」と、相手が投げ返してきたボールには見向きもしないで自分だけ投げ続けている人もいます。
コミュニケーションで大事なのは、スムーズなキャッチボールができるかどうかです。そのためには、適切な話し方と、相手が満足する聴き方の両方が大事なのです。
聴き方を磨く
あなたの周りにも、コミュニケーションがうまい人がいると思います。
彼らが話すと、なぜか周りの人は一斉に耳を傾ける。そして、多くの人が納得するような素晴らしい話をして、彼らのために人が勝手に動き出します。
そんな魔法のようなコミュニケーションを見て、ついつい勘違いしていますのが、「話し方を磨けば、あんな風に人の心を動かせるに違いない」と思ってしまうことです。
話し方が素晴らしいようにみえても、実は、コミュニケーションがうまい人ほど聴き方がうまいのです。
人が納得してくれる話をする方法は一つだけです。
相手のモチベーションである得と損のスイッチを押せばいいのです。
相手の得と損を把握するためには聴き方が必須なのです。
得と損のスイッチ
人間のモチベーションは大きく分類すると2つあります。
・そのことをやれば得をする。
・そのことをやらないと損をする。
これを読んでいるあなたは、毎日朝、決まった時間に起きて、決まった時間に出社をして仕事をしている可能性が高いと思います。
仕事に行くのが楽しみな日もあれば、仕事に行くのが嫌な日もあると思います。
では質問です。
なぜ毎日、今の仕事に行っているのでしょうか?
Aさんは次のように答えました。
「そりゃ決まってるじゃないか。働かなかったら、食えなくなるじゃないか。家賃も食費も働かなかったら、どうするんだ」
Bさんは次のように答えました。
「そりゃ、今の仕事はとてもやりがいがあって、楽しいからですよ。将来は独立して、○○をしたいので、そのためにも今、がんばっています」
Aさんのモチベーションは、「損」です。
やらなければ損をするから行動を起こします。
Bさんのモチベーションは「得」です。
やれば得をするから、行動を起こします。
もちろん、損か得だけというよりは、両者の混合タイプがほとんどでしょう。いずれにしても、得がある、もしくは、損をするから行動を起こすのが人間ということです。
ニーズを掴む聴き方
相手のモチベーションの元を把握することを、営業では、「ニーズを掴む」と表現します。ニーズには表面的なニーズと裏ニーズがあります。
「便利なものがほしい」「楽をしたい」「最先端のものがほしい」は表面ニーズ。
「尊敬されたい」「ほめられたい」「認められたい」「人にバカにされたくない」などが裏ニーズです。
この深い部分を読み取るには、相手の話を聴くしかありません。
他人には探られたくないことを聞き出すには、適切な質問とタイミングが必要です。
そのきっかけになるのが、「悩み」に対する質問です。
「どんなことで困っていたのでしょう?」
この質問から、すべてが始まります。
悩みを聞き出したら、
・なぜそれが悩みなのか?
・具体的にどんなところが悩みなのか?
・その悩みのせいでどんな損をしているのか?どんな得が欲しいのか?
こういったことを掘り出したら、解決に向けた提案をするだけです。
コミュニケーションがうまい人は、感覚的にこのことをやっているのです。
だから、人の心を掴むのです。
まずは、相手の話を注意深く聴くことから始めましょう。注意深く相手の話を聴くことは、人見知りでも抵抗なくできるはずです。
そして、どんな得を得たいのか?どんな損を回避したいのか?
このことを念頭に置きながら、聴くことで、コミュニケーション能力は飛躍的にアップすることでしょう。
松橋良紀(まつはし・よしのり)
コミュニケーション総合研究所代表理事/一般社団法人日本聴き方協会代表理事/対人関係が激変するコミュニケーション改善の専門家/コミュニケーション本を約20冊の執筆家
1964年生青森市出身、青森東高校卒。ギタリストを目指して高校卒業後に上京して営業職に就くが、3年以上も売れずに借金まみれになりクビ寸前になる。30才で心理学を学ぶと、たった1ヶ月で全国430人中1位の成績に。営業16年間で、約1万件を超える対面営業と多くの社員研修を経験する。2007年にコミュニケーション総合研究所を設立。参加者が、すぐに成果が出るという口コミが広がり出版の機会を得る。NHKで特集されたり、雑誌の取材なども多く、マスコミでも多数紹介される。
約20冊で累計30万部を超えるベストセラー作家としても活躍。「コミュニケーションで悩む人をゼロにする!」を合言葉に奮闘中。
著書
『「売れる営業」がやっていること 「売れない営業」がやらかしていること』(大和書房)
「あたりまえだけどなかなかできない聞き方のルール」(明日香出版社)
「相手がべらべらしゃべりだす!『聞き方会話術』」(ダイヤモンド社)
「人見知りのための沈黙営業術」(KADOKAWA)
「何を話したらいいのかわからない人のための雑談のルール」(KAODOKAWA)
「話し方で成功する人と失敗する人の習慣」(明日香出版社)
公式サイト http://nlp-oneness.com
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