「映画づくりは他者を見つめること」:8月26日公開『わさび』『春なれや』外山文治監督ロングインタビュー

access_time create folderエンタメ 映画

葵のお父さんが心の病気という設定だったので、実は現場にずっと精神科医を付けていました。鬱病やメンタル障害にも様々なものがあるので、どう描くと良いかを色々相談して、お父さんのお芝居を付けていただきました。精神科医の方々って、日頃から、映像で描かれる”病気の表現”に違和感を感じていたみたいなんです。なので、病気の設定もちゃんと作っていただいて。リアリティというより、やはりそこは嘘をついてはいけないところだと思うので。

―― カットしたセリフがあるそうですね?

はい。予告編には入っている「楽しいことばかりの人生なんて、さび抜きの寿司みたいなものだ」という言葉があって、この作品のテーマでもあるのですが、演じて頂いた俳優さんにはお手紙を書いてカットさせて頂きました。テーマは台詞ではなく、作品を通して感じてもらえればと思っています。

映画監督 外山文治短編集② 『春なれや』

【あらすじ】櫻の花が咲く季節、ひとりの老いた女性が警察に保護された。身元不明の老婆には、どうしても行きたい場所があるという。「ソメイヨシノは60年咲くことができない——?」そんな噂の真偽を確かめるべく、老人ホームを抜け出してきた女性と、彼女を案内することになってしまった青年。春の日に永遠とは何かを問う物語。

名優・吉行和子と村上虹郎が共演した『春なれや』は、熊本地震のわずか数日前に熊本県菊池市の“万本桜”で撮影され、その美しい情景の中、叙情的な物語が紡がれている。

―― すごく情景的な作品ですね。

詩的な作品にしようと思ったんですよね。吉行さんが俳句を詠まれるので、「俳句みたいなものを作りましょう」って。意外と台詞書くのが大好きなんです。なので、台詞に逃げちゃう時がある。台詞が上手くいくと、場がまとまっているように見えるし、上手く収めた感が出てしまう。だから、説明過多にならないように極力削除してるんです。画で語る、喋らない雄弁さ、みたいなことを、今回は俳句でやってみようと。

―― 高齢者と青年という設定はなぜ?

希望を描きたかったんです。「永遠なんてものはあるのか?」みたいな話なんですが、永遠なんてないわけですよ。でも、作品の中ではずっと肯定して前向きで終わる。実はチャレンジだったんですよ、絶対に否定しないってことが。青年はきっと町を出るんだろうと思いますが、世代の違う人とのコミュニケーションで、彼に新しい価値観が芽生えて、踏み出す一歩に繋がるっていう。それが何なのかは、あえて描かないんですが、吉行さん演じる小春にもそれはちゃんと伝わるから、最後に微笑む。

―― 外山監督の作品にはお花が出てきますよね?

お花、好きですね。決して裕福ではない家庭だったのですが、家にはいつもお花が飾ってあったので、苦しいとは感じなかったです。映画という仕事も、お花と一緒でなくてもいいものではあるんですけど、豊かにしてくれる。実生活を豊かにするには家電を買った方がいいところを、お花を買うわけですよね。なんだかそういうところに魅力を感じているのかもしれません。その代わり苦労はするよっていう……映画づくりもそんな活動ですね(笑)

―― 小春にとっての桜のようなものってありますか?

小学校低学年の頃は、体が弱くて成長も遅い子だったんです。普通の学級で大丈夫か?みたいな。ままならないことも多くて、そういう時は本を読んでいました。ふと振り返った時に、自分の作品もいつか、ああいう時に見てもらえる一本になりたい、と思いますね。

映画監督 外山文治短編集③ 『此の岸のこと』

【あらすじ】夫は長年に渡る妻への介護生活の果てに自らの体を患い、妻よりも命の燈火が少ない事を知った。頼る宛てもなく、世間との交流も蓄えも持たない夫は、ひとり出口を失っていく。老老介護の現実は厳しく、次第に生きる力を枯渇させていく夫。彼が最後に求めたのは、部屋に飾られた一枚の旅行写真。かつて森の湖畔で撮影したスナップ写真に象徴される妻と自分の笑顔だった。

蜷川幸雄が設立した高齢者のための演劇集団、さいたまゴールドシアターの座員を主演に、台詞を一切使わずに老老介護を描いた『此の岸のこと』。タイトルには、この物語は「遠いかなたの対岸のことではなく、此の岸のこと」であるというメッセージが込められている。

―― 老老介護を描くのはしんどくなかったですか?

作品を作っている時は、不思議だなと思ってました。当時、老老介護をしている人は600万世帯いると言われていて、こういう日常を毎日送っている人たちがこんなにいるのかと。普通に暮らしているんです。普通に暮らしているけど、心中に向かっていく。普通に暮らしているだけで。その不条理みたいなものを感じながら撮っていました。ただ、「悲惨だ」という声は、実は若者からしか挙がらなかった。高齢の方からは「こんなに一生懸命愛してもらえて、羨ましい」と。最初はこの作品を実際に老老介護をしている人たちに見せることに、抵抗があったんです。でも、「自分たちの想いを代弁してくれた」と好意的に受け取ってくれて。完成後にそういった声を聞いて、しんどさはなくなっていきました。

前のページ 1 2 3次のページ
access_time create folderエンタメ 映画
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

スマホゲーム タラコたたき
ガジェ通制作ライブ
→ガジェ通制作生放送一覧