コバエとの死闘も辞さない鳥類学者の規格外な日常

コバエとの死闘も辞さない鳥類学者の規格外な日常

 「おにぎりを食べていると、しばしば愕然とさせられる。なんと梅干が入っているのだ。ウメはアンズやモモの仲間、紛れもない果物だ。フルーツを塩漬けにして、ご飯に添えるなど、非常識にもほどがある。私が総理大臣になったら果物不可侵法案を可決し、梅干を禁止、フルーツの基本的権利を守ることを約束する。ついでに酢豚からパインを排除しよう。とおにぎりに話しかけながら、24時間の船旅を過ごし、小笠原諸島に向かう。これが私の仕事である。 無論、私はおにぎり屋の跡継ぎではない。鳥類学者だ。」(本書より)

 こんな出だしから始まる本書『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』は、ツイッターのネタ投稿本かしら? と勘違いしてしまうほど独自のユーモアが”ふんだんに”ちりばめられている、れっきとした「科学エッセイ本」です。

 東京大学農学部林学科を卒業し、現在は国立研究開発法人森林総合研究所主任研究員である川上和人氏。鳥類学者に必要なのは勤勉さでしょうか、それとも知能? いえ、1に体力! 2に体力! 我々の想像以上に過酷な研究内容なのだそう。川上氏の日常は、噴火が続く火山島へ海鳥の安否確認をしに飛んでゆき、南硫黄島では多数の鳥の死体に囲まれながら口に飛び込んでくる無数のコバエと死闘を繰り広げ、ある時は森永チョコボールのキョロちゃんについて生物学的見地から8ページにも渡って想いを巡らせる…なんてことも。

 さも昔から鳥が好きだったにちがいない、と思われがちなのだそうですが、川上さんは鳥とは無縁の子供時代を過ごしてきたとのこと。小学生時代に「風の谷のナウシカ」に感動したことをきっかけに、ミーハー心で大学の野生生物を探求するサークルに入会したことが鳥類研究の始まりだそう。

 なぜ元々鳥好きでない彼がこんなにも大変な想いをしながら鳥類の研究を続けていけるのか? 川上氏はこう語ります。「確たる目的を持たないまま受動的に参入した鳥類学の世界だが、今では具体的な目標がある。テーマにこだわらず長期的に明るく楽しく鳥類学に励むことだ。鳥にはまだまだ謎がある。その秘密を紐解き、お茶の間に話題を、科学に新知見を提供するのだ。」(本書より)

 鳥類学者の汗とユーモアと無駄な(?)知識がいっぱいにつまった愛すべき1冊。吹き出してしまう可能性があるので電車の中で読むのはあまりおすすめいたしません。

 彼は今日も鳥類学発展の為、世界のどこかで奮闘しているはずです。

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