賃貸退去時の素朴なギモン! 次の入居者に「役立ちそうなもの」でも撤去が必要?

賃貸退去時の素朴なギモン! 次の入居者に「役立ちそうなもの」でも撤去が必要?

賃貸の部屋を過ごしやすくカスタマイズするのはよくある話。しかし、例えば照明やエアコンなどを自分で設置した場合、より使い勝手の良いものに変更した場合などには、退去時に“撤去”することが求められます。とはいえ、次に入居する人にとっても役立つようなものであれば、わざわざ撤去する必要はないのでは?

そこで、賃貸物件の管理会社、不動産鑑定士、貸主それぞれにヒアリングを実施。退去時にはすべての物を残さず撤去することが本当にベストなのかどうか、明らかにしたいと思います。

「原状回復は国交省のガイドラインがスタンダード」by賃貸管理のプロ

まず、お話を聞いたのは、賃貸住宅の建物や入居者の管理を行うハウスメイトパートナーズ東京営業部の谷 尚子さん。谷さんによると、原状回復義務は貸すほうと借りるほうの自由契約によって定められるものですが、トラブルを避けるために国交省が指針として示している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、「借り主の住まい方や使い方によって、発生した変化については原状回復の義務がある」と記載されており、それが浸透していると言います。

「このガイドラインに従うとすれば、『経年劣化は仕方ないけれど、意図的に造作したものは元に戻す必要がある』ということになります。となると、釘穴をあけるのもはばかられますよね。そのため、不便を我慢して住んでいる人がほとんどだと思います。また、もともとなかったものを設置して、それを退去時に置いて行きたいというものもあります。例えば、『照明器具』『エアコン』『ガスコンロ』『温水洗浄便座』。これらも原則的には入居者にて撤去していただくのが基本ですが、貸主が承諾すれば置いていくことは可能です」(谷さん)

ただし、その設備が壊れてしまっては意味がないので、貸主が置いていくことを承諾する場合、大抵は比較的新しいものや、取扱説明書があることなどが求められるそう。

ちなみに、ハウスメイトパートナーズの賃貸借契約書では、原状回復について次のように表現されているようです。

“乙は、甲の承諾を得て行った造作等であっても原状に復する義務を負い、同造作物等を甲に対して買取り請求することができません。但し、原状回復につき甲がこれを希望しない場合は、前段に定める造作等の収去並びに原状に復する義務については免責するものとします”

要約すると、「本来は貸主に許可を得て何かを設置しても原状回復しないといけないし、買い取りを要求することはできない。ただ、貸主が原状回復しなくてもいいと言った場合、撤去しなくてもいい」ということ。

そのうえで、設備を設置したまま次の人に貸す方法としては、「設備として貸す」もしくは「残置物(サービス品)として貸す」かのどちらかになります。

「設備として貸す場合は、貸主の所有物であるという前提となりますので、故障したら貸主負担で修繕しなければなりません。残置物やサービス品として貸す場合は、設備ではないので、壊れたら借主が処分して新しいものにする必要があります。いずれにしても貸主にリスクはありません。例えば、DIYで棚をつけ、それを退去時に残して行きたいと思ったら貸主に承諾を取れば設置は可能ですが、残すとなれば次の借主に対しても貸主としての責任が生じることになります。そうなると今の借主が適切な取り付けを行えるか懸念が残るため、なかなか承諾は得られないと思います。プロが施工するということで、設計図などの添付があれば承諾するかもしれませんが、そこまで意欲的な借主には、まだ会ったことがありません」

つまりは撤去不要と認められるものがあるとすれば、使用期間が短く、新しい電化製品などの設備にとどまるとの見解です。

「造作の買い取りを請求する権利はあるが契約時に放棄、が一般的」by不動産鑑定士

続いて見解を伺ったのは、不動産の経済価値を見極めるプロフェッショナル、不動産鑑定士の中村喜久夫さん。「入居者が付加した造作に関しては、原状回復義務が基本」とのお考えで、この点は谷さんと同様です。

「貸主の所有物なので、造作の設置やDIYを借主が勝手に行うことはできません。貸主の承諾が必要ですし、退去時には当初の状態に戻して返すことが基本です」

―― その造作によって部屋の価値が高まったと評価されれば、貸主に買い取ってもらうこともあり得るのでしょうか?

「借地借家法では、貸主の許可を得て付加した造作は、貸主に買い取ってもらうことができるとしています。造作買取請求権といいます。しかし、一般的な賃貸借契約書では、造作買取請求権を排除する特約がついているはずです」

―― 法律で認められているのに、契約書でそれをなくすことができるのですか?

「できます。法律もそれを認めています。貸主が必ず造作を買い取らなければならないとすると、造作の付加などが認められずかえって借主が困ることが考えられるからです」

―― では、DIY・セルフリノベーション以外の残置物(物干し竿やエアコン・防音シートなど)だと、買い取りに応じる貸主は増えるのでしょうか?

「貸主次第でしょうが……。買い取ってもらえるにしても高額にはならないように思います。中古ですし、所有者が思うほど他人は経済価値を認めないでしょう。ただでも原状回復費用を負担しないだけまし、というのが多いのではないでしょうか」

物件の貸主に買い取りを請求する権利はあっても、同時に「それを放棄する文言」も記載されていることがスタンダードな模様です。

「本音を言えば退去時にすべて撤去してもらいたい」by貸主

そして最後は交渉のカギを握る貸主、神奈川県川崎市で5棟66室の賃貸物件を運営する越水隆裕さんに意見を伺いました。

「DIYで取り付けた棚、温水便座、シャワーヘッド、浄水器などは使えないものが多いので、退去時には処分していただいています。照明器具もLED照明以外は使えないので、置いて行かれるのは正直困ります……。次の入居者にスムーズにお渡しできるようにすることが貸主として望むところです。

知り合いの貸主から聞いた話ではありますが、国道に面した部屋で車の騒音がうるさいということで、窓のサッシを防音性の高いものに替えた借主がいて、これは騒音がおさえられてなおかつインテリアは変わらないので、原状回復義務を求めなかったのだとか。部屋の価値が上がったとみなし、そのままにしているそうです。ただ、このケースの費用は借主もちだったようです」(越水さん)

ということで、今回のリサーチで分かったのは次のとおり。

・エアコンや照明などの残置品は、あくまでもサービス品の場合が多く、故障した際には借主負担になる

・いまの日本の賃貸では原状回復義務がスタンダード

・入居者の造作物の買い取り交渉の権利はあるが契約時に放棄していることがほとんど

・セルフリノベーションや家具設備で取り付けたものは、個人の趣味によるため次の入居者に受け入れられないものも。しかし、家の性能向上につながる造作は評価されることがある

やはり貸主の立場からすると、退去時には貸し出した当初に近い状態にしておいてほしいというのが本音のようです。家電や機器の残置物に関してはさもありなん、セルフリノベーションやDIYに関してはレベルの高いものが増えているのも事実。実際、退去後にDIYの造作物などを撤去せず、そのままの状態で次の入居者を募集する事例もちらほら出ています。築年数を経た賃貸物件であれば付加価値になるケースもあるはず。素人でも質の高いセルフリノベーションやDIYを実施すれば、施工した人に何かしらのフィードバックがある、もしかしたらそんな時代も来るかもしれませんね。●取材協力

・ハウスメイトパートナーズ

・不動産鑑定士 中村喜久夫さん

・賃貸物件大家 越水隆裕さん
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