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【働き女子とドS男子】飛行機で隣り合わせた男子と同じ目的地に向かい…【旅×恋愛小説】

【働き女子とドS男子】飛行機で隣り合わせた男子と同じ目的地に向かい…【旅×恋愛小説】 【働き女子とドS男子】飛行機で隣り合わせた男子と同じ目的地に向かい…【旅×恋愛小説】

女性ばかりの職場で働く紗世は、仕事ひと筋で男の気配もなく、「仕事が恋人」のワーカホリック。

そんな紗世に、ある日、人事部から「有給休暇取得命令」が出る。

いきなり与えられた人生の休暇に、戸惑う紗世だったが――。

登場人物

稲垣紗世(25) 化粧品会社のOL

柳本光一(27) 会社員

鈴木マリ(26) 紗世の悪友、既婚

STORY

「仕事が好き」というと、変わり者扱いされる。

だけど、

中途半端な遊びや、確率論でしかないギャンブルより、仕事の方がずっと面白いと思うのは、私だけだろうか。

大学を卒業して今の会社に入り、ほとんど休み無しで働いている。

土日も仕事のために勉強漬け。いつか、海外で働くのが私の夢だから。

人は私を、「ワーカホリック」(仕事中毒)と呼ぶ――。

そんな私のストレス発散方法の一つは、学生時代の悪友マリと会っておしゃべりすること。

仕事が早く終わって時間があくと、ラインでマリに連絡する。

「今日20時、源治、どお?」

「了解。ダンナ出張中」

マリは2年前に仲間うちでもいち早く結婚し、今や都心の高級マンションに住む、悠々自適のセレブ妻だ。

マリと会うのは、気心がしれたいつもの店。

シャンパンやワインで気取る店じゃなくて、顔見知りのオヤジが営む、裏路地の安くて美味い名店『源治』。

常連の特等席で、話が他に漏れることはない。

裏路地の安くて美味い名店

今夜もほどよくできあがったマリが、私に語り始める。

「あんたがさ、仕事好きなのはわかってるけどさ、一生、それで終わるつもり?誰かと付き合ったり、結婚する気はあるの?」

「……そのうちね」

「そのうちっていつよ」

「そのうちっていえば、そのうちよ」

正直、目の前のことで精一杯で、自分の気持ちすらもよくわからなくなっていた。

いや、正直に言うと、仕事を理由にして肝心なこととは向き合おうとせず、先延ばしにしている自覚はあった。

ある日、会社の人事部に呼ばれた。

「もしかして、昇格? 海外赴任? 異例の抜擢とかですかー!?」

思わずスキップで人事部に向かったが、いきなりのカウンターパンチ。

「稲垣さん、あなた、有給休暇、まったく消化してないでしょ?」

ガーン、お休みをとるのは、会社員の義務なのですか。

私にお仕事、させていただけないのでしょうか……(涙)。

トボトボと執務室に戻る途中で、マリにラインを入れる。

セレブ妻は悠々自適だから、いつでも繋がるのが良いところ。

「人事から有給取得の命令あり。タスケテー!」

「了解。19時、源治でマツ」

店に先に来ていたのはマリだった。

手元には、何冊かの旅行雑誌と書籍類。

私の顔を見て、マリが叫ぶ。

「あ、キタキタ。おじさん、ウーロンハイ2つ!」

「あいよー」

ちょっと、勝手にウーロンハイにしないでよ。

でも今日の私は、そのままウーロンハイの気分。ありがとう、友よ。

マリがおもむろに切り出す。

「あのさ、来月が、旅行月って知ってる?」

「旅行月……???」

キョトンとする私。

「それって、新しい国の政策か何か……?」

「バカっ! アタシがあんたより、国の政策に明るいわけないじゃん!」

占いマニアのマリによると、旅行月というのは風水学に基づくもの。

特定の月の特定の日に、人それぞれにある開運方位へ旅行に出かけると、

通常の旅行よりも、開運効果が倍増する月のことをいうらしい。

それが、ちょうど来月だというのだ。

「アタシが方位見てあげるから、縁起の良い方向に出かけなさいよ。てか、もう調べてきたから」。

源治のテーブルの上で、ゴソコソと資料を広げるマリ。

その目が本気だった。

結局、私は、来月の4日間、自宅から西の方位にある、有名な縁結びの神さまに挨拶に行くことになった。

しかも近場ではなく、飛行機に乗っての大移動だ。

「縁結びって……。いいよ、そういうの」

「あのね、縁結びってのは、何も男だけじゃなくて、いろんな人との縁を取り持つんだから。だから、アンタの大好きな、仕事運アップにも効果があるのっ!!」

「仕事運アップ……!?」

私の中でスイッチが入った。

欲しい、仕事運! 欲しい、より良いご縁!!

「4日間で回れるプランは、適当に考えて後で送っておくから。くれぐれも、当日、寝坊とかするんじゃないわよ」

ニヒヒと笑うマリ。

実際、あらゆる占いや統計学を駆使し、セレブ妻おさまったマリの言動には、違う説得力があるのだ。

旅行当日。やっぱり寝坊した私。

仕事以外のことには、どうにもスイッチが入らないらしい……。

チケットの飛行機の時間を確認し、しばらく冷静に考える。

「タクシーと電車、どっちが早いか……。ヘアとメイクは省略するとして、バッグに最低限の荷物を詰めて……」

冷静沈着な優先順位付けの結果、なんとか飛行機には間に合った。

飛行機

髪はボサボサで、すっぴんだったけど。

「すみません」と人混みをかきわけて、なんとか席にたどり着き、シートに身体をうずめる。

ああ、これで1時間は寝ていられる――。

ふと見ると、隣席の男が私をじっと見ていた。

「何か……?」

「別に」

一度目をそらしたが、再び視線を感じる。

「な、何ですか?」

「……ガサツ」

「……なっ!?」

失礼な物言いに、腹が立った。

何この人! どうして知らない男に、そんなこと言われなくちゃいけないのっ!

そこから目的地までは、たぬき寝入りで過ごした。

本当は席を変えたくて仕方なかったけど、満席でそれも叶わなかったからだ。

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