料理嫌いな人が料理を好きになるためのヒントがつまったノンフィクション
米国ASJA(American Society of Journalists and Authors)のベスト・ノンフィクション賞を受賞した本書『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』は、フードライターで、料理研究家の米国人キャスリーン・フリン氏が、自ら主催した料理教室での出来事を描いた作品です。
フリン氏は、2005年に37歳でパリの名門料理学校ル・コルドン・ブルーを卒業。メディアでも活躍していましたが、ある日、スーパーで加工食品ばかりを買い込んでいる女性に遭遇し、彼女の料理に対する苦手意識の強さにショックを受け、「料理ができない人のための料理教室」を開いてみようと考えます。
著者の呼びかけにこたえて集まったのは、年齢も職業も環境も様々な10人の女性たち。彼女たちには、インスタント食品や加工食品に依存してしまうという共通点がありました。
教室は、包丁の選び方から始まります。「使い心地のよい包丁は、もっと刻んでみようって気持ちにさせてくれるから。料理をしようという気持ちにつながりますよね」と著者は生徒たちに語り掛けます。
次は調味料や食材のテイスティングです。塩ひとつとっても、商品によって味が違うことを実感し、生徒たちは驚きます。調味料や材料を一つひとつ味見して、「まずはよい材料を使うこと、他の味との相性の良さを知ること、そこからがスタートだ」と著者は言い、「コストがありとあらゆる味への考察を吹き飛ばしている」と、食品を安さで選ぶ風潮を嘆きます。
それにしても、料理に入れる前に調味料を味見するなんて、学校の家庭科で教わった人はいるでしょうか。レシピ通りに作っているのに、いまひとつおいしい料理ができないと悩んでいる人は、使っている調味料を見直してみてもいいかもしれません。
さて、その後も生徒たちは丸鶏をさばき、パンを焼き、ドレッシングやソースの作り方、牛肉の部位別の使い方などを約3ヵ月にわたって学んでいきます。この教室で教えたのは、加工食品を使わなくても、料理は簡単に作れること。それにいい材料をほんの少し買い、全部使い切ってたくさんの料理を作り、捨てる食品をなくしていくことです。講師として招いたスーパーの専属シェフは、節約したいのならば、賢く食べることと説き、「まとめ買いをしない、セール品を買わない」と教えます。大量にまとめ買いする消費者の習慣が、食品が無駄に廃棄される原因になっているというのです。
本書はアメリカの食生活について述べたものですが、2012年の農林水産省の試算によると、日本でもまだ食べられるのに廃棄されるいわゆる「食品ロス」は、年間約500~800万トンもあり、世界全体の食糧援助量の約2倍にもなっているそうです。手軽さ、便利さを追求するあまり、私たちは大切な何かを見失っているのではないか、この数字を見て、そんな気持ちになる人も多いのではないでしょうか。
最後に、料理には「栄養を与え、慰め、そして癒す」力があると著者は書いています。「体調を崩している誰かにチキンスープを持っていくことは、ただの食事を運ぶという意味以上に、その人のことを思っていると、全身で表現できる行為なのだ。鶏肉を買って一からスープを作れば、チキンスープの缶を持っていくこととは違う意味になる。『あなたのことはとても大事なの。だから私はあなたを立て直すことができるように、頑張ってきたわ』と伝える行為なのだ」(本書より)
料理を教わった10人の女性ばかりでなく、著者もまた、教室で自分自身を見つめ直し、今、それぞれの人生を新たな気持ちで歩んでいるようです。愛する人のために、自分自身のために、材料や調理法を吟味しておいしい料理を作ることは、日常を心豊かなものにしてくれます。食べることは生きること。そんなシンプルな生き方をこの本は思い出させてくれるでしょう。
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