コーピングとは?お金をかけず「手軽」にできるストレス対処法に注目!
残業、満員電車、上司の叱責、仕事のミス……。些細なストレスが積み重なることでうつ病やパニック障害などに陥る人は年々増加し、その症状は若年化も進んでいるといわれます。
こうした心の病を防ぐ、話題のストレス対処法のひとつ「コーピング」。認知行動療法を応用し、だれでもどこでも出来るストレス対策として注目されています。
いますぐにできるストレス対策「コーピング」の仕組みと、その効果について臨床心理士の伊藤絵美先生にお話を伺いました。
伊藤絵美(いとう えみ)
臨床心理士。精神保健福祉士。洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。主な著書に『認知療法・認知行動療法カウンセリング初級ワークショップ』、『ジュディス・S・ベック著:認知療法実践ガイド・基礎から応用まで』など。伊藤絵美 (@emiemi14) | Twitter
そもそも「ストレス」とはどういう仕組みなのか?
伊藤先生は、ストレスを漠然と捉えるのではなく、何に対して自分はどう感じているかを知ることがストレス対策のスタートだといいます。
「まずはストレスそのものを2つに分けて考えましょう。自分に降り掛かってくる状況を『ストレス状況』、それに対する自分の心と身体の反応を『ストレス反応』といいます。
人間がストレス反応を起こす状況は、例えばシマウマがライオンを見たときと同じです。『大変だ、逃げなきゃ』と思って心拍数が上がってドキドキする。それは生き延びるための、心と身体の自然な反応です。一方でストレス状況がまったく無い、ということはありえません。なぜなら、もしシマウマがライオンを見てもストレスを感じず、逃げなかったら襲われて死んでしまいますよね?
私たち人間や動物は生き延びるために、嫌なものを本能的にキャッチするようにできています。ですから生きている限りストレス状況とストレス反応はある、これが大前提ですね」
ストレスに気づくことが第一歩
生きている限りなくなることのない「ストレス状況」。その対処法であるコーピングについて、伊藤先生の考え方はとてもシンプルです。
「ストレス状況とストレス反応に気づくことが、すでにコーピングの第一歩です。『自分はいま◯◯に対して、嫌な思いを持っている』と、どんなストレッサー(ストレスの原因)が降り掛かっているかを知り、それに対する心と身体の反応に気づくことがコーピングになります。
逆に、無理なポジティブシンキングは危ないですね。本当は嫌なのに『自分はこれくらい平気、大丈夫』と、ストレス反応から目を背けたり、気づかない状況に追い込むのは危険です。まずは、自分が何に反応してしまうのか、自分のストレッサーとストレス反応をよく観察しましょう。性格的にもともとポジティブなタイプの人もいますが、他人は他人。悩みがちな人は『悩んでばかりじゃだめだ』と思うのではなく『ストレスに対して繊細に反応できている』と捉えましょう」
また、コーピングは単なる気晴らしではありません。ストレス反応は人によってさまざまで、イライラする人もいればがっくり落ち込んでしまう人もいます。イライラしてしまう人は気持ちを落ち着けるコーピング、落ち込んでしまう人は気持ちを上向きにするコーピング、とコーピングの使い分けが重要です」
今すぐ、どこでも、誰にでもできるコーピングの例
ストレス心理学ではコーピングを大きく2種類に分けています。頭の中でおこなう“認知的コーピング”と、行動をおこす“行動的コーピング”です。
認知的コーピングは自由な妄想がカギ!
「楽しいこと、気持ちが和らぐことを自発的に考えるのが認知的コーピングです。私は、認知的コーピングとして『もしも私が三浦春馬くんのお母さんだったら……』という“お母さんシリーズ”をいくつか持っています(笑)妄想は自由ですので、おすすめです」
<認知的コーピングの例> 「よくやってるよ」「頑張って」と自分を応援する 大切な人(大好きだった祖母、お世話になった先輩、初恋の人、など)を思い浮かべる 過去の楽しかった出来事を思い出す 「仕事がおわったら◯◯を食べよう」と未来の楽しいことを想像する もしも「◯◯さんが恋人だったら……」と空想する
行動的コーピングは「手軽に、具体的に」がキーワード
「行動的コーピングは、運動をすることではなく、何かを書いたり人と話したり、泣いたり笑ったり感情を表現する行為も含みます。私の場合、マンガ『ガラスの仮面』17巻を読み、涙を流すことをよくおこないます。行動的コーピングのカギは、細かく具体的に決めておくこと。漠然と『音楽を聞く』ではなく、『誰の、この一曲を、このシチュエーションで聞く』まで決めておくといいですね」
<行動的コーピングの例> 寝る(休憩する) ノートやスマホ(SNS※)に愚痴を書き出す 好物(豚骨ラーメン、ビールと枝豆、モンブラン、など具体的に)を食べる 好きな動物と触れ合う、観察する 好きなアーティストのお気に入りの一曲を聞く
※注:SNSに書き出す場合は「カギつき」にしておくと安心です。
コーピングをするときのコツと注意
「まずストレッサーとストレス反応をその都度見極め『今回はこのコーピングをやろう』とマッチさせていくことが大事です。コーピングが本当に“自分助け”になっているかという検証ですね。また『自分にこのコーピングは合わない』と気づくことも大切です。
身の回りにコーピングの方法はたくさんあって、誰でも100個はリストアップできるはず。また、新しいコーピングを思いついたら、書き足してアップデートしていきましょう。人は悩みにハマッてしまうと『楽しいことが何もない』と思ってしまいがち。そこで日頃からコーピング方法を書き出しておけば、そこから選ぶだけで良いのです。コーピングのバリエーションを増やすことは、“自分助け”のメニューを増やすイメージですね」上記で挙げた以外にも、アロマを焚く、ぬいぐるみを触る、スマホに保存した写真を見返す……など、日常的なことはなんでもコーピングになるそうです。しかし、内容によっては注意が必要なことも。
「お買いものがコーピングになるという方もいるでしょうし、なかにはギャンブルがコーピングになるという人もいます。その場合、コーピングの最中は気持ちが晴れるかもしれませんが、結果的にお金を使いすぎてしまうと、新たなストレスの原因になってしまいますよね。ですから、コーピングはできるだけお金をかけない、人を巻き込まない、時間をかけない、の3つに気をつけましょう。
“人を巻き込む”ついては、お互いに助け合う関係をうまく築ければOK。人に悩みを聞いてもらうのはもちろん、ときには聞き役になって『相手の助けになった』と体験することも有効です」
それでも終わらない、大きなタスクに対処するには?
いくらコーピングでストレスに対処しても、目の前の仕事が消えるわけではありません。そんなとき、うまくタスクをこなすアドバイスもいただきました。
「コーピングと関連の深い認知行動療法の哲学でもあるのですが、ストレッサーはできるだけ小さく分けて対処することです。例えば、まずメールを1通返したり、あるいはタスクを書き出すだけでも効果的ではないでしょうか。漠然と全体がつかめないまま取り組むより、とにかく細分化して一歩一歩小さなことから……が重要です」
まずは状況を観察し、具体的にできることに着手して結果を検証する。その積み重ねがコーピングでも大切と伊藤先生はいいます。
「コーピングを日常的に使うということは、常に自分のストレスに気づくこと。自分助けをしてくれるもう一人の自分を作り出すイメージですね。気づかないうちにコーピングをやっていたという方でも、気づいて意識的に行うとさらに効果的です。
コーピングが習慣になると『このストレッサーにはこのコーピングを使えば良いんだ』と分かるため、ダメージも少なくて済みます。こうして徐々にストレス耐性が付いていきます。特にビジネスシーンですと『周りに迷惑をかけないように』と悩む人もいますが、まずは自分助けあっての人助け、と考えましょう」
生きていく限りなくなることがないストレスと、上手に付き合う手段であるコーピング。自らのストレスの観察と対策を意識的に、そして何度も繰り返すことが大切です。
「コーピングを100個もリストアップするなんて難しい!」と思ってしまいますよね。そこでコツはとにかく細分化すること。本や映画、音楽のタイトルや、食べ物やアロマなどの種類で細かく分けてみましょう。また、ストレスが下がる場面や行動をイメージするだけでも立派なコーピングです。さっそく今すぐにでも実践できてしまいますね。
<WRITING>伊藤七ゑ
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