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伊藤直也氏が語る、マネジメントで本当に大事なのは「問題にフォーカスする」である理由

正しい問題に取り組むことは難しい

今回なぜこのようなテーマにしたかというと、昨年夏のイベント「1人CTO night」で、開発組織マネジメントのコツについて話をしたことがきっかけ。

開発チームのメンバーが正しい問題に取り組んでいる状態を作ることが重要だという話をしたんですが、参加者の反応の多くが、「人のマネジメントは大事」「1on1の面談は大事になる」「心理的安全性、大事だね」というプロセスの部分に関心が集まっていました。

なので今回は「正しい問題に取り組むこと」とは何か、それがなぜマネジメントにとって必要なのかについて、改めて話をしたいと思います。

株式会社一休 執行役員CTO システム本部長 伊藤 直也さん
ニフティ、はてな取締役CTO、グリー統括部長を経てフリーランスとして活動。Kaizen Platform, Inc.、株式会社一休、 日本経済新聞社ほか複数社の技術顧問/技術アドバイザーを務める。著書に『入門Chef Solo』(達人出版会)、『サーバ/インフラを支える技術』『大規模サービス技術入門』 (技術評論社) など多数。2016年4月より、株式会社一休 執行役員CTO システム本部長に就任。

「エレベータの混雑問題」をどう解決する?

仮にあなたがビルの管理者だったとします。そのビルで毎日、出勤の時間になると行列ができるので苦情がたくさん来てしまう。これを解消するにはどういうアプローチがあるでしょうか。

この問いに対して、エンジニアが考えがちなのが以下のような回答です。
配送アルゴリズムを最適化する
物理的にエレベータを増やす
階段を使うなど

実はこれは「ライト、ついてますか」という書籍に載っている問題。そこで有効な解決策として挙げているのが、
エレベータの前に鏡を置く

鏡を置くと待っている人たちは鏡を見て、身だしなみを整えたりしている間に勝手に順番が来る、ということなんです。

問題をエレベータのキャパシティの問題と捉えるか、行列している人のストレスを解消する問題と捉えるか。問題は解く前に、どう設定するかで解決策が大きく変わります

先に挙げた方法では、コストも時間もかかる。一方、鏡を置くという簡単でコストのかからない方法で問題が解消できるのです。

同じようなことはソフトウェア開発の場面でも起こっています。例えば、「芸能人の名前を判定したい」というニーズがあったとします。
テキストの文字から芸能人の名前を抜き出したい
そういうライブラリを作れないか。

エンジニアは自然言語処理をして、人名と思われるテキストを抜き取って、その名前を芸能人のデータベースとマッチングさせ、そして機械学習させるという方法を採りたいと考えたが、そんなに完璧には抜き出せない。

しかもデータベースを常にアップデートしていかないと、将来の新人芸能人には対応できない。

そんな壮大な計画を考えたのに、最終的に依頼してきた会社が採用したのはこちら。
ウィキペディアから芸能人データを引っ張ってくる

検索するのはその場限りでよく、しかも8割ぐらい判定できればいいということだったらしいのです。

このように「正しく問題を見極める」ことは非常に大事なこと。ここでいう問題とはプロブレムではなくイシューです。

イシューは模索すべきトピックのことで、僕たちは、まずは十分にイシューを模索し見極めて、そのあとで問題を解く癖を付けることが大事なんですが、それは意外と難しい。

なぜなら、人間は問題が目の前にあると、何とかしなくてはという本能が働くからです。さらにその問題を解き始めると、それを解くことに執着が出てくるから。

結果、問題を理解することにもっと時間を使うべきなのに、解くことにばかり意識がいって間違った問題設定のまま、問題を解こうとしてしまう。

ではなぜ、イシューを見極めることが大事なのか。「イシューからはじめよ」という書籍では以下のように解説されています。

以下のような横軸にイシュー度、縦軸に解の質をとった四象限の図があります。右上の箱が本来のゴール(バリューのある仕事)を目指すべきなのに、人は左側の縦軸、解の質・・・つまりプロセスを良くする方向に注力してしまいがちです。

例えば、開発組織の問題を解決するためのマネージャーの施策として、デプロイを自動化して開発スピードを上げ、試行錯誤できる回数が増やしたり、チームビルディングをしてコミュニケーション不全を解消を図ろうとしたりすることは多いですね。

それはそれで大事なんですが、一方、やるべきことは何なのかをはっきりさせるということが、当たり前ですが実は一番大事です。やらなくても良いことのためにプロセスを良くしても意味はないですから。

それをせずにチームビルディングやプロセス改善に邁進するのは、プロセスばかりに注目して問題に注目していないということになります。

イシューをきちんと見分けないと罠に陥る

最近のマネジメント分野は、チームの心理的安全性を高めていこうというトレンドがあります。

それは、他の人が作ったものがいまいちだったときにも気兼ねすることなく指摘できたり、建設的な議論ができるような環境であれば、よい成果に繋がりやすいだろうというところから来ています。

確かに働きやすい職場はいいし、建設的な議論ができることと生産性には相関関係があることは、数値を調べなくても明白です。

一方で、心理的安全性が高ければそれだけで「良いプロダクト」ができるかというと、そんなことはない。当たり前ですが、「良いプロダクト」を作るには「良い企画、良い問題設定」が必要です。でも、そのことに多くのマネージャーは気付かない。

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