ドイツ中部の都市ライプツィヒで空き家が「子連れオフィス」に
大きなダイニングには幾人かの女性がノートパソコンを広げて仕事をしている。続きの向こうの部屋には、3歳くらいまでの子どもたちがカラフルな遊具で遊んでいる。
ドイツ中部の都市・ライプツィヒにある建物の一室。ここは「ロックツィプフェル(Rockzipfel)」という、子どもたちとその両親のためのスペースだ。小さな手のかかる子どもたちを抱える親のための「子連れオフィス」として利用されている。
空き家だった場所が、子どもたちと親たちが快適に過ごすことができる場に
ここでは、子どもたちはほかの子どもたちやシッターなどの大人に会って遊んで交流することができる。その傍らで両親は仕事をできる。乳児がお腹をすかせたら、母親は仕事を中断して授乳することもあるという。まるで家にいるような和やかな環境で、子どもたちも大人たちも大らかに過ごしているようだ。 【画像1】「子連れオフィス」の子どもたちのためのスペース(写真提供/吉岡春菜) 【画像2】子どもたちのスペースのすぐ隣に親たちのためのワークスペース(写真提供/吉岡春菜) 【画像3】パソコンさえ持ち込めば仕事ができる環境を備えている(写真撮影/村島正彦) 【画像4】小さな子どもたちのためのトイレも完備したバスルーム(写真撮影/村島正彦)【画像5】「子連れオフィス」を運営するヨハンナ・グンダーマンさん(写真提供/吉岡春菜)
ライプツィヒ西部、中央駅など中心地からトラムで20分ほどのリンデナウ地区。ヴィクトリア朝の重厚な趣のこの建物は当時空き家で、現在のオーナーが購入したのが2009年。「子連れオフィス」はこの建物の2階を借りて、キッチンやバスルーム、仮眠室などを含む7室がある。公的な助成金(約200万円)をはじめ、多くの人からの寄付や人的な援助を受けて、短い期間でオープンにこぎ着けたという。
利用する親はホームオフィスとして利用することができ、Wi-Fi完備の環境のなかパソコンを使っての仕事を行えるほか、仕事ではなく子育ての息抜きなど単なる交流の場、親自身の趣味や雑務を行う時間を過ごせる場としての利用も認めている。ボランティアのベビーシッターの助けを借り、また親同士の助け合いによって、子どもたちと親たちが快適に過ごすことができる場を創り出そうというものだ。
ここでは、親のための子育てに関するワークショップも行うほか、親たちの意見を尊重しながら子どもたちに音楽や、外国語、お絵かきなどの教室なども提供している。
一方、子どもたちも、親と一緒に居ながらにして、学びや遊びを通して友だちを広げていくことができる。
利用は月曜から金曜までの10〜16時が基本となる。週5日利用して月当たり150ユーロ(約2万円)、必要な日だけの利用も可能だ。【画像6】リンデナウ地区、「ロックツィプフェル(Rockzipfel)」の入居する建物。数年前までは空き家だったという(写真撮影/村島正彦)
ロックツィプフェルは多様な世代や多様な人々の交流の場
「子連れオフィス」では、ベビーシッターのボランティアを広く募っている。訪れたときには、日本人女性の吉岡春菜さんがベビーシッターとして、この建物の一室に間借りしながら働いていた。
吉岡さんが、ここのボランティアの情報を得たのはワークアウェイ(workaway.info)という、世界中をカバーするボランティアのマッチングサイトだ。異なる文化、海外で住みながら仕事やボランティアを体験できるプラットフォームを提供するものだ。
半年前までは、広島県尾道市のゲストハウスで仕事をしていたという吉岡さん。「過去にドイツでボランティアをしていたことがあり、ドイツの社会生活に興味をもっていました。たまたま、欧州のなかでも注目されるライプツィヒのいろいろな活動に関心をもったのです」とそのきっかけを話してくれた。「ここには、母親だけでなく父親も見学や体験に来ます。両親で通ってくる人も。子育てに父親の存在感がある」とロックツィプフェルの印象を話してくれた。【画像7】尾道市からライプツィヒにやってきた吉岡春菜さん(写真撮影/村島正彦)
この「子連れオフィス」の入居する建物は、もともと建物全体が空き家だったこともあり、フロア毎に順繰りに手を入れながら、さまざまな用途で利用を模索するなど発展途上だ。4階は昨年からAirbnbとして利用・運営して収益を得ているという。
このほか、道路に面した1階にはピザ屋を開業して、収益事業の一部を担っている。ドイツ人のほか外国人も含むボランティアで運営している。一般的なレストランというよりは、コミュニティレストランとしての色合いの強い運営を行っているようだ。
ヨハンナさんは「お金を払えばなんでも買えるけれど、そんな社会を私たちは望んでいるわけではないでしょう。“子連れオフィス”の試みをきっかけに、仲間たちで輪をつくって世の中を変えることができるかもしれません」と話す。
東西ドイツ統合から四半世紀を経過して、旧東独・ライプツィヒの空き家を拠点とした、新しい地域の相互扶助、お金万能ではないオルタナティブな暮らしの再構築の試みと言えるだろう。吉岡さんは「ロックツィプフェルは、利用者の親子相互、ベビーシッター、階下の別プロジェクトのボランティアの住人など国籍もふくめさまざまな人々の交流の場となっています。日本にもこのような多様な世代や多様な人々が交わる場所をつくり出せたら」と話してくれた。●取材協力
・子連れオフィス「ロックツィプフェル(Rockzipfel)」(独)●関連記事
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