【映画惹句は、言葉のサラダ。】第22回 惹句もデカいぞ。歴代『キングコング』映画たち。
●長くてハイテンション! 初代「キング・コング」の惹句!!
すげえ・・・。
この連載でも色々な惹句を扱ったけど、間違いなくこれはその頂点に位置する映画惹句だ。ある日、昔のチラシの複製本をぼっと眺めていて、その長さとハイテンションぶりに、思わず目がテンになった。それは1933年9月に日本公開された『キング・コング』の惹句だ。
「廿世紀の怪異! 一生一度の大映画封切」
このフレーズをメインに、どどーんと打ち出し、その後にサブ惹句が続くわけだけど、このサブ惹句、やたらに長い。これでは惹句ではなくて、ほとんど解説なんじゃないかと思ったが、文字サイズもメイン惹句と同じなので、これは惹句と解釈する。その長くてハイテンションな『キング・コング』惹句、旧仮名遣いは適宜現代のそれに改めてあるからね。
「前世紀の巨獣が生きていた! 六拾尺五十噸の大ゴリラ
丸ビルなんか一跨ぎだ。
恐竜、飛龍、巨龍を投げ殺して巨獣地帯の王となった
キングコングが生捕られて紐育へ連れて来られた、その夜、
巨獣は檻を破ってブロードウェイに暴れ出た!
飛行機を鷲掴みにし、高架鉄道を一はたきにする怪腕力。
全紐育の地獄相!」
まあ当時はメディアもろくになかった時代故、映画チラシも貴重な情報源だったわけですから、そこでこの超大作に観客を誘導すべく、ここまでハイテンションな惹句を使ったチラシが作られたわけですな。
●日米怪獣対決。そして栄光の復活へ。
キングコング主演作(と言い切ってしまおう)の特徴は、なんたってコングの巨体を特殊撮影で表現し、髑髏島での怪獣、怪生物たちとの対決。そしてニューヨークに連れてこられ、ヒロインを手にしたままエンパイア・ステートビルの頂上にまで登り、そこで複葉機とのはたき合いが行われたあげく、落下して死亡する。いわば「美女と野獣」的なニュアンスを持っているあたり、単なる怪獣映画ではないわけだが、このコングのキャラクターだけを買い取って(現代の『GODZILLA/ゴジラ』とは逆のケース)、東宝が自社の大怪獣と対決させたのが、1962年8月公開の『キングコング対ゴジラ』。怪獣バトルのみならず、サスペンスあり笑いあり逃げ惑う群衆ありと、怪獣映画という枠を超えて、あらゆるエンタテインメントの要素をぶち込んだ名作というのが、筆者の評価。何回見ても、飽きが来ない作品なんだよ、これが。
そのイベント・ムービー超大作『キングコング対ゴジラ』の惹句がこれ。ひと息で、これまたハイテンションで音読すると元気が出るぞ(自分基準)。
「ゴジラ勝つか? コング勝つか? 世紀の大決斗」
この映画のために取得したキングコングの使用権の期限がまだあるとかで、この後コングのキャラを使った『キングコングの逆襲』が製作されますが、こちらのほうはなかったことにしておこう(笑)。浜美枝さんはキレイだったけど。
そして、1976年には、ついにアメリカ映画でキングコングが復活!! イタリア出身の大プロデューサー ディノ・デ・ラウレンティスが製作した超大作『キングコング』が、満を持して1976年クリスマス、全世界一斉公開と相成った。日本では12月18日から、当時としては画期的な全国109地区拡大一斉公開となり、TVからはコングの咆哮が絶え間なく流れ、街角にはイラストで描かれたポスターが溢れ、とにもかくにも一大ブームを形成していった。現在40代後半から50代にかけてのお父さんたちは、このジョン・ギラーミン監督版『キングコング』の洗礼を受けているはず。
そのリメイク版『キングコング』の惹句は・・と思い、公開時のチラシを引っ張り出したのだが、このチラシには惹句がない!! ならばと、当時の新聞広告から惹句を抜き出してみた。
「これこそ全世界が夢見た映画の中の映画だ!」
この映画の場合、キングコングの巨大さと一緒に、映画そのものがいかにスケールの大きな作品であるかを謳っており、それはそれで間違いではなかっただけど、公開時「コンピューター仕掛けで動く」と宣伝されたコングも、実はぬいぐるみであったことが後で発覚したりと、映画の内容よりも宣伝の大きさ、けたたましさの方が記憶に刻まれた作品であった。
●ピージャク版『キング・コング』は、ラブ・ストーリー?
初代『キング・コング』には『コングの復讐』、ギラーミン監督版『キングコング』には、同じ監督による『キングコング2』が後年製作されたものの、揃いも揃ってこれがダメ。映画史に残る前作を超えることは容易ではなく、ヒットもしなかったことからキングコング協奏曲は沈静化したかと思いきや、21世紀になって、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作でいちやくヒット・ディレクターの仲間入りしたピーター・ジャクソン監督が、少年時代の夢を果たすべく、新たに「キング・コング」のリメイクを実現した。2005年クリスマスに一斉公開されたこの作品、出来は悪くないのだが、我が国公開時の惹句を観ると、ちょっと首をひねってしまう。
「『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の監督が贈る
涙と感動の超大作!」
「彼は彼女だけを信じた−
彼女は彼を守ろうとした−」
涙? 感動? 彼って誰? 女性客を当て込むのは分かるけど、無理矢理ラブ・ストーリー仕立てにしているのは、違和感バリバリ。いくらCGやVFX技術が進歩して、アンドリュー・サーキスのパフォーマンス・キャプチャーでの演技が見事だからって、キング・コングと人間の女性とのラブ・ストーリーとは、そりゃ無理がある。擬人化しすぎ。そのせいか、日本での興行成績は配給会社の思惑を大きく下回ってしまいました。売り方をひねりすぎて失敗した例と言えるだろう。
そのピージャク版コングから12年の歳月を経て、今月25日から公開されるのが『キングコング:骸骨島の巨神』。こちらは『パシフィック・リム』『GODZILLA/ゴジラ』の、”アメリカの怪獣映画好きおやじ”トーマス・タルの製作で、この後製作される『GODZILLA』の続篇を経た後、コングはゴジラと対決するとのアナウンスが、既にされている。いわば『キングコング対ゴジラ』の、21世紀版ハリウッド・リメイク!! その『キングコング:骸骨島の巨神』の日本での惹句がこれ。
「この島で、人類は最弱。」
歴代コングは骸骨島からアメリカに連れてこられ、エンパイア・ステートビルや今は亡き世界貿易センタービルに昇って人類と戦ったが、今回のコングは骸骨島の王として君臨し、人類のみならず、島の中にウヨウヨいる怪獣や気色のわるい生き物たちとバトルを繰り広げる。いわば「怪獣島の決戦」。
それにしても、なぜこの巨大なゴリラは、世界の映画人をここまで魅了するのだろうか? それは架空の生き物を想像し、技術を駆使してそれを娯楽映画として再現する、そのプロセスこそが映画作りの楽しさに満ちているからに違いない。
数あるキングコング映画の惹句の中に、そんな映画人たちの思いが籠もった1行を発見した。1976年12月に公開された、ラウレンティス=ギラーミン版「キングコング」に使われた、ポイント惹句だ。
「キングコングこそ永遠のロマン」
(文/斉藤守彦)
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